RiLiはインスタグラマーの投稿からトレンドを分析し、インスタグラム上でそのトレンドを紹介する新世代のファッションメディアだ。ユーザは主にz世代女子。紙の雑誌や各種SNSの離脱が激しいこの世代は、現在インスタグラムでおしゃれな情報を探している。そこに最適な情報を提供しようと意気込んでいるのがRiLiだ。なぜ彼女たちはインスタグラムに熱中するのか、RiLiが提供している価値はなんなのか。代表取締役の渡辺さんに話を聞いた。
雑誌の体験をインスタグラムで
今回思い浮かべてほしいのはZ世代の女子。今やそんなこと言われても珍しくないだろうが、彼女たちがよく見ているメディアは「インスタグラム」だ。インスタグラムはグローバルなサービスだから、ユーザは世界中のおしゃれなインスタグラマーをチェックでき、今急成長している。
他方で雑誌は出版部数や売上が年々下がり続け、歴史あるファッション雑誌も廃刊に追い込まれている。とはいえ雑誌だって、手を拱いているわけではない。web版をこしらえ、インスタグラムやTwitterはもちろん、その他のSNSでファンを作ろうとしている。だがはたして、雑誌はInstagramや各種SNSに最適化されているのだろうか。
そんな疑問からスタートしたタートアップがRiLi(リリ)。インスタグラム上で流行っているトレンドを、雑誌のように伝えるサービスだ。代表取締役の渡辺さんに、RiLiのことを伺った。(インタビュー:2018年01月)
株式会社 RiLi 代表取締役 渡邉 麻翔(Watanabe Mai)
1988年生まれ。新潟県出身。東京ガールズコレクションをはじめ、F1層をターゲットとする様々なブランドのWeb制作・Webプロモーションに携わる。2013年まで在籍していたMARK STYLER株式会社では、SNSマーケティングに従事。制作とマーケティングの経験を経て、仲間とともにSuper Crowds inc.を創業後、社内事業としてファッションメディアRiLiを始動させる。2015年に事業を分社化、株式会社RiLi代表取締役に就任。
インスタグラムで流行っている投稿をいち早く紹介
RiLiはインスタグラムで流行っているファッショントレンドをキュレーションし、それを編集しインスタグラムで公開しているファッションメディアだ(アカウントは@rili.tokyo)。
たとえば取材時では「きんちゃくバッグ」が流行りかけている。きんちゃくバッグはどんなものなのかの簡単な解説やイメージ写真、そのお手本コーディネートが掲載されている。インスタグラムは仕様上、一度の投稿に10枚まで画像を投稿できるので、ひとつの投稿でいくつものコーディネートを紹介する。一つひとつの投稿が特集となっており、ユーザは雑誌のような体験ができる、というわけだ。
「ケーブルニット」や「サーマル」「バレエシューズ」など、なんとなく見たことや聞いたことはあるけど、どんなものかと言われるとわからない、という疑問に答えるものもあれば、RiLi自らトレンドに名付けてしまうこともある。
雑誌の体験を、いま風のUIにするならどんなふうになるか、ということを意識してサービス開発しています。(渡辺氏、以下同様)
RiLiのインスタグラムの公開は2017年の04月。わずか9ヶ月程で6.3万人のフォロワーがついている。webでも公開はしているものの、インスタグラムのほうがユーザー認知度が高い。毎日2〜4投稿しており、エンゲージメント率やリーチ数が他のサービスの公式アカウントより多いはず、とのことだ。
RiLiメンバーから今流行っているトレンドを探し出す
RiLiの特徴はトレンドの見つけ方だ。
従来の雑誌だと、編集者が展示会に行き流行をキャッチアップしたり、トレンドを作り出していく。また雑誌は商品撮影のために、アイテムをレンタルしたり購入しなくてはならず、付き合いのあるメーカーの商品が多めに露出してしまうこともある。新品を載せるのが仕事なので古着も掲載しにくい。
他方でRiLiは、「RiLiメンバー」と呼ばれる800人のインスタグラマーからトレンドを収集。RiLiメンバーの投稿を分析するための社内システムがあり、彼女たちの投稿や写真を分析するのだ。そこから本当に流行しているトレンドをみつけ、記事化していく。つまりデータを分析し、そこから「この子もこの子も同じものを着ているな」ということがわかる体制を整えているのだ。
たとえば「これを流行らせたい」と思ってコンテンツをつくりますよね。でもそのようなムリに流行らせるようなことはうまくいかなくて、『いいね!』がつかないんですよね。ユーザが明示的にわかっているわけではないと思うのですが、潜在的に『これはなにか違う』というのが、わかってしまうのだと思います。
トレンドをみつけて紹介するという意味では、雑誌とRiLiでやっていることは同じかもしれない。しかし情報ソースが異なるのだ。RiLiはリアルタイムに本当に流行っているものをコンテンツとし、必要な写真はRiLiメンバーに連絡し「こういう特集でこの写真を使いたい」と交渉している。
RiLiでは古着のコンテンツも反応がいい。人気のインスタグラマーは新しいものを自ら試したい子たちなので、一品物の古着と相性がいいからだ。雑誌に古着は載りにくいから、古着が好きな子はインスタグラムを観るようになる。
渡辺さんはもともとファッションメーカーの出身。それもあってRiLiも当初は雑誌などのように、ハイセンスでハイクオリティなものをインスタグラムに掲載していた。しかし人気のあるインスタグラムの投稿は凝っていない、日常に溶け込んでいる、自然なおしゃれであることに気付く。それ以来RiLiには、力の抜けた、誰でも真似できるような投稿が増えているそうだ。
流行がリアルタイムでわかることを利用したEC展開
RiLiは最近、ECも始めた。RiLiはその特性上、洋服やカフェ、観光地などの広義のファッションに敏感なインスタグラマーが、次のトレンドになりうるアイテムを紹介するような形式になる。つまり次に流行るものがわかるというのだ。
RiLiメンバーはファッション感度の高い女の子たちです。彼女たちの感覚だと、流行りだしたときに買ったり行ったりするのはちょっとダサい。なんでもいかに先取りできるかが重要なんですね。だから全部とは言いませんが、彼女たちが選ぶものは次のトレンドになるんです。RiLiではトレンドになりそうな洋服を仕入れてECで販売しています。
とはいえこの仕入れも、タイミングが難しいらしい。RiLiメンバーやインスタグラマーのアイテムはまだ流行りだす前のもの。つまり世の中全体的にはまだ生産量が少ないのだ。たとえばあるブランドが起点で、特定種類のバッグが注目を浴びたとする。しかし流行しだした時点ではそのブランドしか生産していない。なので一般消費者が気にしだしても、生産量が追いついていないので店頭に並んでおらず、すぐには購入できないのだ。RiLiはインスタグラマーの情報から早めにその情報をキャッチして、早めに商品を仕入れることができる。これでどこよりも早く販売を開始できる、というわけだ。
z世代の新しい行動様式
すでにお伝えしたとおり、RiLiのメインユーザはZ世代(記事公開時点でだいたい24歳以下の世代)の女子だ。彼女たちの中には週に20時間もインスタグラムを起動している人もいる。色々なインスタグラマーの投稿をチェックし、次はどういう写真を撮ろうか、インスタグラムをどういう並びにしたら可愛くなるかが彼女たちの関心事項であり、セルフブランディングなのだ。
たとえば旅行。よく知られた話ではあるが、彼女たちはその土地に行きたい理由が「写真を撮りたい」なのだ(会社にいたRiLiメンバーの確認したところ、やはり写真撮影を目的にして旅行するそうだ)。2017年は若い女の子の間で韓国旅行が人気だったが、「韓国のカフェで写真を撮りたい」というのも、人気を支えた理由のひとつだったそう。
私も最初は彼女たちの価値観がわからなくて苦労しました。でもずっとインスタグラムを観ていると、自分の価値観が彼女たちに寄ってくるんです。次はこういう写真を撮りたいからこのアイテムを買おうと思ったり、打ち合わせのカフェをインスタグラムで探すようになったり。
一昔前の感性で彼女たちを理解するのは難しい。だからこそ彼女たちに刺さるコンテンツを作りたい場合は、もう彼女たちに任せてしまったほうがいいと思います。
欲しいのはブランドではなく、トレンドのアイテム
インスタグラマーの動向から本当にリアルタイムまたは近い将来に流行しそうなトレンドを探しだすRiLi。その原点は「ブランドではなく、トレンドで検索できるように」したいとの想いだった。
渡辺さんの前職はアパレル企業。当時はインスタグラムではなくTwitterが中心だったものの、SNSでのプロモーションを担当していた。
ユーザの欲しいものと、企業が売りたいものに乖離があるんじゃないかと感じたんです。
実際には小規模なお店やブランドのものが人気でも、大手のプロモーションには敵わない。ユーザは本当に欲しいものではなく、ブランドが売りたいものを目にすることになる。
またz世代にはブランドの訴求力が落ちていると言われている。彼女らは必ずしもブランドが欲しいわけではない。探したい単位は「きんちゃくバッグ」だったり「ケーブルニット」「サーマル」「バレエシューズ」なのだ。既存のECサイトやwebマガジンでこの探し方はなかなか難しい。
そこでRiLiは当初、トレンドを検索できるシステム開発をしていた。結果的に社内システムにはなっているものの、ユーザのニーズは検索システムそのものではなく、トレンドをインスタグラムなどの、いつも使っているSNSで紹介してくれるというものだと気付く。こうしてRiLiはシステム開発からwebやインスタグラム上でのコンテンツ製作へ舵を切ることとなった。
最初に作っていたのはある意味、こうなって欲しいという自分のエゴでした。しかしユーザの声に耳を傾け、この形に落ち着きました。今はユーザ目線でいいものを提供できるように努めています。
当初描いた形とはちょっと違うものの、「ユーザが知りたいことを、最適な形で紹介したい」という想いは変わっていない。RiLiのファンも順調に増えており、RiLiで紹介したブランドの認知が上がる事例も増えてきている。
ユーザの声を聴きながら成長していく
最後に今後の展開について伺った。
たとえばライブコマースは勢いを増していて、RiLiのECとも相性がいい気はしています。しかしRiLiの根本はユーザのことを考えること。それがなければインスタをこんなにメインにすることだってありませんでした。ユーザを意識しながら新しいことにチャレンジしていきたいと思います。
インスタグラムに限らずSNSは、常に新しいアルゴリズムや機能が追加されている。そうするとユーザは新しい使い方をしたり、運営サイドが驚くような使い方を編み出したりする。企業側もその動向は常にキャッチアップせねばならず、大変だ。
またRiLiは、ユーザへの発信ツールではなくユーザとコミュニケーションをとる機会にしていきたいと思っています。
多くの企業はSNSを「こんな商品が出ました」「こんなことをやっています」という発信ツールになっている。しかしユーザにも参加する余地があり、企業とユーザがコミュニケーションできたほうがといいという。それにより「RiLiに自分の投稿がいいねされた」「RiLiに掲載された」という空気が醸成されるのだ。
雑誌のような体験をインスタグラムで実現しているRiLi。z世代や新しいコンテンツ提供に興味がある方はぜひ、RiLi(@rili.tokyo)をフォローしてほしい。
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
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納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boat」「pilot boat cast」を運営。