PoliPoliが挑む、スマホ世代が政治に参加する世界。コミュニティから市民と政治をかえる

新しいテクノロジーが話題になるとき、規制は切っても切り離せない問題だ。よく言われるところだと、UBERや民泊は既存の規制もあり、諸外国に比べて導入が進んでいない。この原因には政治においてテクノロジーを語る力が弱い、ということも挙げられるだろう。

若者の政治参加率が落ちている、というのもよく語られる話だ。たとえば2017年の衆議院の20代の投票率は平均の54%に対して約34%(ちなみに、最高は60代の72%)。一般的にテクノロジーを早く取り入れるのは若年層だし、少子化でそもそも若年層が少ないことを考えれば、政治におけるテクノロジーの存在感は非常に低いと言わざるを得ない。

そんな政治の状況に風穴をあけるかもしれないサービスがポリポリだ。ポリポリは市民と政治家を巻き込むトークンエコノミーをつくるスタートアップ。代表取締役の伊藤和真氏に話を伺った。

※会社名はPoliPoli(ポリポリ)、サービス名はポリポリ。

 

株式会社PoliPoli
代表取締役 伊藤 和真(Ito Kazuma)

1998年生まれの19歳。慶應大学在学中。F Ventures 東京でアソシエイトをつとめ、プログラミングコミュニティのGeekSalonの立ち上げを経て友人とともにPoliPoliを創業。iOSエンジニアでもあり、未経験者ながら独学でiPhone俳句アプリの「てふてふ」を制作。2018年夏に同アプリを毎日新聞社に事業売却。

 

「いいこと」を言ったらトークンがもらえる

PoliPoliは政治×テクノロジーを掲げる、PoliTech(Politics×Technology)のスタートアップ。伊藤氏によればポリポリをシンプルに表現すると「シンプルに政治家や市民がいいことを言ったら『ポリン』というトークン(※)がもらえる」というサービスだ。

(※)ブロックチェーンを使って独自に発行するポイントのようなもの。

市民は政治についての「いいこと」を言ったら、トークンがもらえたり後述のPoliPoliスコア(ポリポリ内での信頼度を表す指標)が上がる。政治家も同様にトークンを受け取り、それを政治活動に活かすことができる。

ポリポリに出てくる情報とマスメディアの情報の違いは、ポリポリの情報は一次情報で正確であることだ。マスメディアはその性質上発言の一部しか発信できなかったり、人気政治家の発言が多くなってしまったり、スキャンダルの報道が多くなってしまう。かといって既存のSNSで情報を伝えると、匿名なこともあって場が荒れやすく、建設的な議論をするのは難しい。

そこでポリポリは、ブロックチェーンや仮想通貨を利用して、荒れない場をつくるインセンティブを各自に用意することで、政治議論のできるプラットフォームを作ろうとしているのだ。

 

まずは市民(ユーザ)の立場からポリポリをみてみたい。

市民はポリポリ内で、実名(匿名でも参加できるが、正式版での登録に際しては実名での認証が必要の予定)で政治議論ができる。政治議論というと「国際問題」「社会課題」といったような難しそうなものをついイメージしてしまうが、「道路が狭い」「保育園を作ってほしい」といった身近な問題についての議論でもいい。議論を通じて共感を集めた市民はコメントにいいね!がもらえたりトークンがもらえ、ひいては「PoliPoliスコア」が上がる。

PoliPoliスコアというのはユーザの評価基準のことで、「自分の記事へのいいね数」「政治家への配布トークン」「保有トークン」から構成されている。将来的にはポリポリのトークンは上場して売買できるかもしれないが、保有トークンを持っていないとPoliPoliスコアが上がらないため、ユーザにはトークンを保有しつづけるインセンティブがはたらく。

後述するように政治家はトークンを選挙コンサルやチラシ印刷などに使えるので、ポリポリを使うわかりやすいインセンティブがある。しかしポリポリが扱うのは政治という小難しい分野で、他のSNSとは異なり、気軽に利用するようなものではない。そこで「信頼ポイント」というわかりやすい制度をつくり、ユーザのインセンティブを用意しているのだ。

PoliPoliスコアは場の荒れを防止することにも役立つ。政治はその性質上多様な意見があり、コミュニティが荒れてしまうことも少なくない。そこでポリポリは登録に際して実名認証を必要にしたり、PoliPoliスコアを設けることでユーザにポリポリを使い続けたり、荒れないコミュニティをつくるインセンティブを与え、政治という難しい分野でも建設的な議論ができる場を用意しているのだ。

政治家の方はトークンが政治活動に使えるという明らかなメリットがあるのですが、市民は必ずしもそうではありません。そこでトークンに加えて、PoliPoliスコアというメリットを作りました。ほかにもたとえば「選挙に行ったら何割引き」みたいなメリットを出すことができたら、ポリポリを使っていただくきっかけになるかもしれません。政治に関心のある企業や経営者とも協力して、CSR的にもメリットを追加していきたいですね。(伊藤氏、以下同様)

 

市民には「Pro ユーザー」という制度もある。これは上位5%程度の市民のことで、Pro ユーザーはトークルームを作ってトークンをもらえるなどの特典をもっている。Pro ユーザーは政治的な知見がある人が就くし、トークンを多く保有しているので、通常の市民以上にコミュニティを健全にしたいというインセンティブが働く。

また市民は得たトークンを、応援する政治家へ投げ銭としても使える(従来の個人献金のイメージ)。政治家が情報発信をしており、特定の政治家を応援したいとなればトークンで簡単に対応することができる(ただし個人認証などは必要)。

 

政治家はデータを使った選挙活動が可能に

続いて政治家の観点からポリポリをみてみたい。

政治家がポリポリを使うメリットは主に「お金」「票」「データ」だ。政治家も市民と同様、政治に関する議論をする。議論を深めれることで自身の考えを市民に伝えられたら、SNSのフォロワーのように支持者が増えるだろう。また政治家も市民と同様、投稿に「いいね」がつけばトークンが得られる。トークンはポリポリが提携するサービス(アンケートによる世論調査や、パンフレットの印刷など)の支払いに充当することも可能なので、「お金」にもなるというわけだ。

そして興味深いのが「データ」だ。前述のように市民は政治家にトークンを投げ銭できるのだが、この際にポリポリでは個人認証をしているので、どんなデモグラフィックの人がどれだけ投げ銭してくれたのか、といった正確なデータを取得できる。このデータを使えば「任意の地域で任意の属性をもった市民」の意見を吸い上げることができる。つまり詳細なマーケティング活動ができるようになるのだ。

たとえば現状の世論調査は電話で行われることが多いが、電話を嫌う若年層はそもそも電話をとらないかもしれないし、「特定の地域」といったセグメンテーションも難しかった。しかしアンケートに答えたらトークンがもらえるといったインセンティブをポリポリが用意することで、今までと違った切り口で世論調査を行えるようになるかもしれない。

PoliPoliのビジネスモデル

 

なおPoliPoli社のマネタイズはトークンエコノミーにおける通貨発行益をメインに考えているというので、トークンの価値を上げることはPoliPoliにとっても重要な課題となる。

市民と政治家の観点からみただけでも、ビジネスモデルやマネタイズがすごい複雑ですよね。政治という難しい分野だし、利害関係者も多いことも原因です。だからこそポリポリは「市民や政治家がいいことを言ったらトークンがもらえる」くらいで理解してもらえばいいんです。そもそもビジネスモデルやマネタイズなどはユーザには直接的には関係ないですし、シンプルなほうがわかってもらいやすいですからね。

 

政治をよくできたら革命的

インタビュー時点でPoliPoliのメンバーは大学生で、年齢は19〜20歳が中心。決して政治に長年触れてきたとは言い難い。代表の伊藤氏はどうして政治という分野でのスタートアップに至ったのだろうか。

もともと私はVCで働いていました。とくに政治が好きというわけでもなかったのですが、色々なイケてるサービスをみているなかで、ふと政治をみてみたら課題はたくさんあるし、自分たちの世代からみるとよくわからないことも多かった。でもマーケットは大きいし、関係者も多い。テクノロジーを取り入れればもっとよくなると感じたんです。

 

政治分野での起業を決心した伊藤氏が最初に苦心したのは、やはりビジネスモデルだったという。政治というと市民側からはマネタイズしずらく、そうするとマネタイズの中心は政党や政治家からということになるが、過去には大手企業もこの市場に参入したものの撤退したこともある。

同時期に勢いを増していたのが、仮想通貨(仮想通貨)をはじめとするブロックチェーン技術だ。ブロックチェーンを使ったコミュニティサービスも、国内外で少しずつ登場。たとえば「Steemit(スティーミット)」はユーザが記事を書いたりいいねをすることで、トークンを入手することでマネタイズにつながる、ということでブロックチェーン界隈では話題になっている。

政治は一部ではお金を出す人もいるし、なにより議論が盛り上がる分野で、トークンやコミュニティと相性がいい。伊藤氏は「コミュニティを使ってのマネタイズは、政治という特性ともマッチするかもしれない」と直感したという。

PoliPoliの他のメンバーも政治が好きではないけど課題を感じている、という人が多いです。だからこそポリポリの話を聞いて「政治をよくできる場が作れたら革命的だ」とわくわく感を抱いてくれています。とはいえビジネスとしてやっているので、PoliPoliのメンバーだけでなく、市民や政治家など、全員のニーズをおさえていこうとしているのが現状です。

 

ユーザと共創しながらポリポリをつくっていく

ポリポリは2018年07月にトークンの配布がないβ版をローンチ(トークンの配布は年内を予定)、当初は政治コミュニティを徐々に形成していくことが主目的で、各地の地方選挙や、有名政治家に使われることを想定している。とくに政治家には選挙前に興味をもってもらいやすいため、地方の選挙前にその地方の政治家へのアピールが必要になる。2018年11月には福岡市長選、2019年には参議院と地方の統一選挙が控えているため、ここが次の山場となりそうだ。

PoliPoliのアプリ

 

またポリポリでは今後、トークン配布の実装などに加えて、政治家の動画発信だったりオンラインサロンといったことを計画しているそう。最近は議会にタブレットが備えつけられていることも多く、そこにポリポリを導入し、議会が質問を受け付けたり、議会ごとにトークルームをつくるといったことも考えられる。議事録を添付して議論に役立てるといったことも考えられるだろう。

まずはベータ版のポリポリをどんどん使っていただきたいです。β版といっても、アプリはかなり早めにだしています。というのもポリポリは共創型のサービスで、フィードバックがどんどん欲しいんですね。そこからどんどんサービスを改良していきたいです。

 

 

日本ではほとんどの業界で「テクノロジーの導入が遅れている」と言われており、政治も多分に漏れない。ネット選挙はまだまだ道半ばだし、ネットメディアが政治の会見から追い出されるような事態もおきており、そのためネット上には政治の良質な情報が多くない。

「世の中に革命をおこしたい」「政治をエンターテインする」と嘯くPoliPoliが、このような課題を解決してくれる未来を期待している。

※PoliPoliは詳細な企画書を公開している。より詳細な情報が必要な場合はぜひ覗いて欲しい。

 

会社名:株式会社PoliPoli
代表者:伊藤 和真

所在地:東京
設立日:2018年2月

URL    :https://www.polipoli.work/

 

インタビュー内容はpodcastでも配信しています

podcastで取材時のインタビューを配信しています。

 

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ぺーたろー (納富 隼平(Notomi Jumpei))
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、スタートアップ界隈初心者のためのオンラインサロン「pilot boat salon」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。
Twitter: @jumpei_notomi