「カブキスキャナー」でファッションスナップを画像解析。オススメアイテムをリコメンド。

 

人工知能を使ってコーディネートを画像解析

人工知能を使った画像解析は次々に新しい事例が登場している。Amazon Goは画像解析を使ってレジのない店舗を作ろうとしているし、渋谷スクランブル交差点近くにカメラを設置して通行量や歩行者の年齢と性別を推定しようとしている企業もある。

ところで日常の中で、「リコメンド」される機会が増えているように思う。Amazonでは購買履歴から好きそうな商品がオススメされるし、Spotifyは視聴データを分析して僕の聞きたい音楽をリコメンドしてくれる。

ファッションだって、本当に自分が好きな洋服やブランドをリコメンドしてくれたら助かるに決まっている。でもファッションは変数が多かったり、季節や流行によって格好が変わるからリコメンドの精度はまだそんなに高くないように感じている。

そんなファッションのリコメンド状況に風穴をあけようとしている企業がニューロープ。ファッションアイテムの画像解析を得意とし、ECやメディアサイトに画像解析システムやアイテムリコメンドのシステムを提供している。今回は代表取締役CEOの酒井氏にお話を伺った。(インタビュー:2018年01月)

株式会社ニューロープ 代表取締役CEO 酒井 聡(Sakai Satoshi)

2005年 九州大学在学中、メディアプラネットにてポスター、チラシ、バナー等を多数デザイン。
2009年 株式会社マイナビにてプロモーション、情報誌の編集、市場調査等を担当。マイナビ進学リニューアル、情報誌「進路のミカタ」の創刊の編集デスクとしてプロジェクトを統括。
2011年 中小企業診断士取得。製造業、出版社、商社等、複数社の経営コンサルを経験。
2012年 ウェブインテグレーションを事業とする株式会社ランチェスターでプランニング、情報設計、デザイン、プロジェクト管理に従事。
2013年 IoTに取り組む株式会社Presents square執行役員就任(兼務)。プロモーション、デザイン担当。
2014年 株式会社ニューロープ設立。代表取締役就任。

 

ファッショニスタのスナップが見られるメディア「#CBK」

ニューロープ社は複数の事業を展開しているが、今回は「#CBK(カブキ)」と「#CBK scnnr(カブキスキャナー)」に焦点をあてたい。

まず#CBKは、インスタグラマーや読者モデルなどのスナップが見られるファッションメディアだ。提携しているファッショニスタがインスタグラムやブログで自分のコーディネート写真をアップ。それを#CBKに転載する。各コーディネートにはタグ付けがされており、たとえば以下画像のコーディネートだったら「ニット レッド Vネック」「グレンチェック ワイドパンツ」といった具合だ。(このタグ付けがあとの「#CBK scnnr」に活きてくるので、覚えておいてほしい)

タグは写真を投稿したファッショニスタではなくスタッフが管理し、すべての投稿に対して人力で行っており、これが検索性を高めている。#CBKに掲載されているのはインスタグラマーや、アメブロなどでファンを集めていている方が多いそう。

ユーザは#CBK上でコーディネートを検索したり、#CBKの情報をまとめて解説した「#CBK magazine(カブキマガジン)」を見て最新のトレンドや着こなしをチェックできる。二次会、デート、通勤服などといった、イベントやTPOに合った着こなしを検索することも可能だ。

 

ファッションスナップを画像解析する「#CBK scnnr」

続いて「#CBK scnnr」だ。#CBKに掲載されているようなスナップ投稿を、ディープラーニングを用いて画像解析。どんな洋服やスタイル、色のアイテムを着用しているかといった情報を、アイテムごとに判定してくれるシステムだ。

#CBK scnnrを使ったアプリケーションのひとつである「ファッションおじさん」

ニューロープ社はこの技術を用いて、テストサービス的に「ファッションスナップ解析API『ファッションおじさん』」「人工知能ショップ店員『Mika(ミカ)』」を展開している。

ファッションおじさんはLINE上で稼働する、スナップ解析システムだ。スナップ(全身コーデが望ましい)をファッションおじさんとのLINEに投稿すると、スナップを解析したページが生成される。解析ではまずトップスやパンツ、バッグといった領域が認識される。そしてそのアイテムがどんなものなのか、たとえばトップスだったら「ライダースジャケット」「ジャケット」「ブルゾン」といった具合で解析される。解析自体は2秒程度で終わるので、解析結果を待つような感覚はない。生成されたページは#CBKと連携しており、ファッショニスタが着用している似たようなアイテムやコーディネートが#CBKから掲載されている点もポイントだ。

 

他方のMIKA。こちらもスナップを投稿するまでは同じだが、画像を解析して「このアイテムに似合うコーディネートはこちら」というようにアイテムをリコメンドしてくれる。「ガーリー」「ナチュラル」「ボーイッシュ」などのテイストを調整すればより精度の高いリコメンドも可能だ。MIKAもLINE上で稼働するので、いわばリアル店舗店員のLINE版となっている。

 

#CBKの画像を教師データに#CBK scnnrを開発

さてディープラーニングを用いて画像解析をするには、大量の教師データ(元データ)が必要になる。しかもファッションは流行や新たなスタイルが次々に登場するため、一旦データを溜めて終わりではなく、継続してデータの収集をしなくてはならない。この点ニューロープの教師データは、先述した#CBKのデータを元にしている。つまり#CBKでインスタグラマーなどファッショニスタの画像を継続的に収集して人力でタグ付け、これを教師データとして人工知能にファッションを学習させているのだ。

2014年に#CBKをローンチして、10万枚のタグ付けされた画像を用意して人工知能に学習させました。チューニングも大変ですし、これはなかなか簡単にはマネできないと思います。

こうしてニューロープはあらゆるスナップを高精度で解析できる人工知能を開発。これをECやファッションメディア、SPAブランドなどのパートナー企業に提供している。たとえばECサイトのアプリでは画像検索システムを提供し、画像をアップロードするとアプリ内で類似アイテムを検索できるようにしている。この商品にはこのアイテムもオススメ、といった具合にリコメンド機能を提供したりと、サイトやアプリのやりたいことにあわせてカスタマイズすることが可能だ。

さらに今取り組んでいるのが、SNS上のスナップを解析してしまうことです。たとえば #コーディネート というハッシュタグをすべて解析できれば、今年の流行り、もっというならインフルエンサーの間ではこういうものが流行っている、ということがわかります。彼女たちは流行より早くそういったスタイルを取り入れているので、もしそれがわかれば次に流行るスタイルやアイテムを予測することが可能になります。

近年はファッションアイコンが分散していると言われている。ひとりで10万人に影響を与える芸能人がいるのではなく、1000人に影響を与えるインフルエンサーが100人いるのだ。したがって流行を追いかけなくてはならないアパレルやメディアも、さまざまな手法を駆使してインフルエンサーの動向を追わなくてはならない。当然テクノロジーの力は必要になり、ニューロープのとる手段はその答えのひとつになりうるかもしれない。

ファッション業界にテクノロジーを導入する余地はまだまだあります。たとえばファッションのwebコンテンツでは写真が重要な意味をもちます。各社どの画像がみられている、程度のログはあるかもしれませんが、そのログを意味付けて、どうやってビジネスに活かしてくかというのはこれからの段階です。#CBK scnnrの画像解析技術を応用すれば、画像をもっとうまくつかうことも可能だと思っています。

 

アパレルの分析だけでなく、コスメやヘアスタイルの分析も

今後ニューロープはさまざまなECやブランド、メディアなどにシステムを導入していく予定だ。そのあとの展開はどのように考えているのだろうか。

データを使ってどう成長していくかを考えています。導入先が増えればこちらのデータも増えて、アイテムや紹介の切り口も増やせます。これを今度は広告やマーケティングオートメーションにもつなげていきたいです。

たとえばFacebookの広告では年齢や住んでいる地域、関心事項などで広告のターゲットを選定することが可能だ。しかしそこに、ファッションの指向性は含まれていない。ニューロープはそこにファッション情報を付加しようというのだ。もしこれが可能になれば、特定のブランドが自分たちと同じテイストのファッションが好きな人達をターゲティングすることが可能となり、より効率的に広告をうつことが可能になる。

今はアパレルという狭義のファッションに特化していますが、ユーザからみればそれだけに特化している意味はないのでコスメやヘアスタイルなどにも進出したいですね。

#CBK scnnrの分析は理論上、コスメやヘアスタイルの解析もできるという。それが可能になれば「この格好に合うスタイルはこれで、コスメはこれがオススメ」というようにジャンルを横断した検索やリコメンドが可能になる。

さらにアパレル企業からは素材を特定できないか、という要望もあるらしい。もしこれが実現すれば「この素材は前回チクッとして着られなかったから、他の素材を提案する」といったことが可能となる。現在もニットなどは認識できるが、化繊やカシミア、といった単位での解析は当然難しい。しかしカメラの解像度やテクノロジーの進展次第ではそれも実現できるかもしれない。

ディープラーニングを用いた画像解析から、人々の趣味趣向にあったアイテムを提供しようとするニューロープ。ファッションやECの事業者などはぜひチェックしてほしい。

会社名:株式会社ニューロープ
代表者:酒井 聡

所在地:東京
資本金:16,000,000円(資本準備金含む)
設立日:2014年1月10日

URL    :http://www.newrope.biz/

 

インタビュー内容はpodcastでも配信しています

 

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AUTHOR
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。
2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。日本スタートアップ支援協会顧問。
twitter: @jumpei_notomi