【ALL GREEN】「顆粒の緑茶」を栄養価の高い嗜好品に。大企業から出向の理由は「売ってみなきゃわからない」

 

コロナ禍から日常が戻ってきた2023年。取材が仕事の一環である筆者は、取材対象のオフィスに訪れる機会が増えている。訪問すると出されるのは水か「緑茶」だ。こんな大仰に書くまでもなく、自宅で、職場で、外出先でお茶を飲むことは、日本人にとっては当たり前の光景だろう。

ところで、茶葉にはかなりの栄養が含まれているらしいのだが、急須にお湯を入れた緑茶を飲んでも、その栄養を十分に摂取することは適わないそうだ。今回紹介する「ALL GREEN(オールグリーン)」は、このなんとも勿体ない問題を「顆粒」の緑茶にすることで解決している。嗜好品である緑茶に高い栄養価という特徴を携え、2023年7月にECで販売を開始した。

またこのALL GREENは、通常のスタートアップとは運営方法が異なる。代表の吉原氏は元々大企業に勤めており、社内新規事業コンテストを経て、そのコンテストの運営支援をしていた株式会社ゼロワンブースターに出向し、事業開発を進めたのだ。同社グループは、スタートアップへの出資やアクセラレータープログラムを運営をする会社として、スタートアップ界隈では知られた会社である。

ALL GREEN責任者である吉原氏とゼロワンブースターの川岸氏に、ALL GREENについて、またその出生経緯について、話を聞いた。

 

栄養価が高い嗜好品としての緑茶を開発

 

── 「ALL GREEN」について教えてください。

吉原(ALL GREEN):
「ALL GREEN」は、栄養をまるごと摂取できる、顆粒タイプの緑茶です。現在は自社ECで販売しています。

吉原 慶太 | YOSHIWARA Keita
株式会社ゼロワンブースター
ビジネスディベロップメントマネージャー
2011年サントリー入社。プラントエンジニアとして工場立ち上げ、飲料開発、飲料家電、シーズ技術の事業化提案まで広く手がけるマルチなドリンクエンジニア。FRONTIER DOJO第1期には実証中のALLGREENを含めて3つの企画を提案した。現在、社外のアクセラレーターに出向中。日本茶インストラクター兼アドバンスドコーヒーマイスター。

 

吉原(ALL GREEN):
実は緑茶には、野菜と同等かそれ以上に、非常に多くの栄養素が含まれているんです。ところが、一般的な飲み方であるお湯で抽出した緑茶では、栄養のほとんどが茶殻に残ってしまうので、その栄養を摂取できないんです。

──茶殻に栄養が残ってしまうということでしょうか?

吉原(ALL GREEN):
その通りです。急須で抽出した後に出る茶殻には脂溶性のビタミンAやビタミンEなどの栄養素が含まれているのですが、それらは水を加えただけでは抽出されないので、人間が口にすることはありません。

もしそれを摂取できれば、野菜ジュースや青汁以上の栄養を緑茶から摂取できる。緑茶の栄養を逃さずまるごと摂取できないかと考えた我々は研究に取りかかりました。その結果、粉末にした茶葉に特殊な技法を用いて、美味しさと栄養を損なわない顆粒タイプの緑茶の開発に成功しています。ちなみにこの製法は、顆粒がまるで茶葉のような見た目であることから、「溶ける茶葉」を意味する「ソリュブル・リーフ製法」と名付けました。現在特許出願中です。

── 顆粒ということは、インスタントコーヒーのようなイメージでしょうか。

吉原(ALL GREEN):
はい。インスタントコーヒーは粉ではなく、ちょっと大きめの粒になっていますよね。ALL GREENはその緑茶版というイメージです。

 

── 顆粒に水やお湯を入れて混ぜると溶けるわけですね。

吉原(ALL GREEN):
はい。粉末の緑茶自体は昔からありますが、原材料が植物なので溶けにくいという課題がありました。インスタントコーヒーは抽出した液体を粉にしているので水にも溶けやすいのですが、緑茶はそうはいかなかったんですね。また従来から飲みやすくする技術はあったのですが、今度は加熱が必要だったりして、どうしても緑茶の繊細な風味や栄養が損なわれてしまうんです。それをソリュブル・リーフ製法では、水に浸透しやすくすることで解決しました。また粉末だと茶筒を開けた瞬間に粉が舞ってしまいますが、それを抑える効果も備えています。

── 水に溶けるのはなぜなのでしょうか。

吉原(ALL GREEN):
特許出願中のためあまり細かいことは説明できないのですが、ポーラス構造といって水に触れる面積を広くすることで親水性を上げているんです。そうすることでダマができずに水が粉全体に行き渡るようになります。

 

吉原(ALL GREEN):
またALL GREENは栄養面だけでなく、緑茶の嗜好文化も訴求していきたいと考え、シングルオリジン(茶葉をブレンドしないこと)にもこだわっています。というのも、緑茶は産地や品種によって味が全然違うんです。緑茶は嗜好品で、コーヒーやワインのように、品種やテロワールの違いを消費者に伝えていきたいと考えています。栄養価が高くて、種類によって嗜好性が異なるコンテンツって、実は世の中に少ないんですよね。スーパーフードとしての緑茶、嗜好品としての緑茶の両方を楽しめるような世界を創っていきたいです。

── 現在ALL GREENは何種類の緑茶を提供しているのでしょうか。

吉原(ALL GREEN):
2023年8月現在は月替わりで、静岡県産の「そうふう」、埼玉県産の「ふくみどり」、鹿児島県産の「さえあかり」という、シングルオリジンの緑茶を3種類を揃えています。そう言われてもわからないと思うのですが……(笑)。

── すみません(笑)。米でいう、コシヒカリや秋田こまちのようなイメージなのでしょうか。

吉原(ALL GREEN):
その通りですが、飲んでいただけたら、お米よりも差があるのが分かるかと思います。特に今回の3品種はどれも煎茶で、誰が飲んでも絶対に差が分かるものを用意しました。「さえあかり」はなんとポップコーンの香りがします。もちろん、ラインナップは今後増やしていく予定です。

 

大企業から「出向起業」の理由は「素早く試してみないとわからない」から

 

── ALL GREENは独立系のスタートアップではなく、大企業に所属する吉原さんがゼロワンブースターに出向して事業開発していると伺いました。経緯を教えて下さい。

川岸(ゼロワンブースター):
ゼロワンブースターは、スタートアップ投資や大企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、大企業とベンチャー企業の協業支援もしていますが、大企業の社内ベンチャー支援もしているんです。その一環として2021年から、サントリーホールディングス株式会社の新規事業コンテストや社内ベンチャー制度に関わっていました。そこで採択されたプランの一つがALL GREENです。

 

川岸 亮造 | KAWAGISHI Ryozo
株式会社ゼロワンブースター プロジェクトマネージャー
株式会社日本能率協会コンサルティングにて、主に研究開発部門を対象に商品開発やコストダウン、チームビルディングといったテーマで経営コンサルティングに従事。その後2012年に株式会社KOMPEITOを共同創業。 2014年、オフィスで手軽に野菜・フルーツが食べられる福利厚生サービス「OFFICE DE YASAI」をローンチ。2019年まで同社代表を務め、BtoE領域のスタートアップとして注目を集める。 2021年、新たに「ブランドを支援する」という形で、大企業から地方企業まで幅広く支援を実行すべく株式会社フラクタにジョイン(現在は取締役)。株式会社ゼロワンブースターではプロジェクトマネージャーとして社内新規事業コンテストの運営等を行っている。

 

川岸(ゼロワンブースター):
ただALL GREENは、これまで世になかった「栄養価の高い顆粒緑茶」なので、売れるか売れないか、売れるとしてリピートされるのか、誰に訴求できるのか、どのように売るのがいいのかなど、実際に世に出してスピーディに検証してみないとわからないことが多かったんです。ですが大きな会社になればなるほど、それは難しい。そのため、そのまま社内でビジネスプランを進めるよりも、外部で事業検証したほうがいいのではないかという話になったんです。それでALL GREENの起案者である吉原さんがゼロワンブースターに出向し、事業化を進めていただくことになりました。

吉原(ALL GREEN):
ゼロワンブースターへの出向を選んだ理由は他にもあります。私の出向元は飲料業界の会社ですが、飲料業界と一口に言っても、それぞれ得意分野が異なるのです。私の出向元企業の得意分野は、ペットボトルなどの容器が使われている飲料でした。なのでコーヒー豆や茶葉を使った粉末飲料は専門外なんです。しかもALLGREENは顆粒緑茶という新しいもので、なおさらノウハウがありません。

出向元企業社内で進めてもノウハウがない、スピード感をもった検証が必要、これらの理由から、新規事業コンテストを開催していたゼロワンブースターと相談し、出向させてもらうことにしたんです。

── ALL GREENは、当初のビジネスコンテストのときから同じプランだったのでしょうか。

吉原(ALL GREEN):
実は当初は単に顆粒の技術だけがあって、これを使って緑茶を世に広めていけたらいいな、くらいしか考えていませんでした。栄養のことは何も考えていなくて、嗜好品として売ろうと思っていたんです。

川岸(ゼロワンブースター):
ビジネスコンテストで、私がメンターとして吉原さんの担当となりました。吉原さんは元々技術屋だったこともあって、最初は顆粒推しだったんですよね。「水に溶けやすい技術を開発したので、それで新しい緑茶のビジネスをしたい」と。

ただ「溶けやすい」だけだと、消費者への訴求が弱いなとは感じました。それで色々とお話していたら、栄養価の話になったんです。そうしたら「野菜の王様と呼ばれるケールよりある」とのことだったので、それを推せばいいんじゃないかと。もしかしたら青汁の市場を全部ひっくり返せるポテンシャルがあるんじゃないかとその瞬間に感じました。

吉原(ALL GREEN):
茶葉に栄養があることはうっすらと知っていたのですが、ちゃんと調べてみたら驚くくらい栄養価が高いことが判明したんです。青汁で使われているケールより栄養が含まれているという点は消費者に訴求できるし、実際、欧米だと緑茶は嗜好品というよりはむしろスーパーフードとして認知されています。緑茶は食物繊維や抗酸化性のカテキン、βカロテンを摂取できる、コーヒーに代わる常用飲料として期待されているんです。

 

 

──確かに緑茶は健康的なイメージがありますね。

吉原(ALL GREEN):
なのでALL GREENではその点をちゃんと推していきたいと考えています。出向を通してだんだんと自分たちの再定義が進んできましたね。

 

緑茶を健康かつ嗜好性を楽しむ文化に

 

── 出向元から出向して実際にサービスをローンチを迎えた感想を教えて下さい。

吉原(ALL GREEN):
思惑どおり、かなりのスピード感をもって開発に挑めました。

── 要因はなんでしょうか?

吉原(ALL GREEN):
最大の要因は、全てのプロセスに自分で対応できるという点です。大企業だと何をやるにしても承認作業やステップが必要で、どうしても待ち時間が発生してしまいます。ですがスタートアップならそういったプロセスを省略できるので、結果として時間が短縮できる、というわけです。

例えばALL GREENは本ローンチ前にクラウドファンディングに取り組みましたが、大企業だったら商品のデザイン一つとっても、素材は、色は、形状は……とやってるだけで、半年も1年もかかってしまっていたかもしれません。出向によってこれらのステップを自分が責任をもって対応できたことが、スピード感の秘訣です。

川岸(ゼロワンブースター):
吉原さんが語る通り、出向先がゼロワンブースターかどうかはさておき、今回のALL GREENのような仕組みは大企業側にもメリットがあると考えています。ALL GREENのように「ひとまずプロダクトを上市して市場の反応を確認し、スピーディに事業開発したい」と思っても、大企業の既存の枠組みでは難しく、これまでは資料だけで判断しなければならない場面も少なからずありました。しかし出向という手段をとることで、そういった制約を回避できます。それが出向制度のメリットでしょう。

 

 

── 逆に出向元企業のリソースは使っていないのでしょうか。例えば食品の安全管理は出向元企業にも一日の長があるかと思います。

吉原(ALL GREEN):
現在はゼロワンブースター社の事業として活動しているので、基本的には出向元企業の直接的な関与はほとんどありません。例えば安全・品質管理はOEM企業と相談しながら進めています。そもそも顆粒茶という新しいプロダクトなので、品質規格のノウハウがあまりありませんしね。とはいえ元々私たちは技術開発や品質管理を担当していたので、もちろんそういったノウハウや経験が間接的には役立っている側面はあります。

── ここまでは当初の目論見通り、スピード感をもって事業を立ち上げ、プロダクトもローンチしました。今後はどのような組織形態で運営するのでしょうか。

川岸(ゼロワンブースター):
正直、現時点では何も決まっていません。

今はゼロワンブースターの社内プロジェクトとして運営していますが、将来的には例えば「株式会社ALL GREEN」のようなビークルを作りゼロワンブースターの子会社にしするかもしれませんし、その上でもしかしたら吉原さんがVCから資金調達するという意思決定をするかもしれません。仮に出向元のアセットを使うことが最も成長に資すると判断すれば、出向元企業による買収を相談しにいく可能性だってあるでしょう。例えばスーパーに商品を卸そうと思ったら出向元企業はすでにルートをもっていますからね。いずれにせよ、我々としては現時点で可能性を絞っておらず、然るべき時期に然るべき判断をするつもりです。

 

── 最後に、ALL GREENの長期展望を教えてください。

吉原(ALL GREEN):
私はもともとコーヒーマイスターでして、そこから縁があって緑茶に携わることになり、知れば知るほど「この緑茶というコンテンツは面白い」と感じるようになりました。イタリアでコーヒーとはちょっと違うエスプレッソという新しい文化ができましたし、コーヒーもサードウェーブとして再注目されている。緑茶にも同じだけのポテンシャルがあると思っています。しかもコーヒーは既に世界的なコンテンツですが、緑茶は世界的にはまだまだ知られておらず、広大な可能性が残っている。健康かつ嗜好性を楽しむという、新しい緑茶の飲み方を一つの文化にする。これがALL GREENの長期の目標です。

また海外では抹茶の健康価値がは認められてきていますが、それに留まらず、日本茶や煎茶、釜炒り茶、萎凋茶といった色んな日本茶を全部顆粒にして、日本茶は栄養もあるし嗜好性もある素晴らしいコンテンツなんだということを発信していきたいですね。

川岸(ゼロワンブースター):
ALL GREENは世界で勝負できるプロダクトだと思っています。個人的にも楽しみです。

 

── 世界でも戦えるコンテンツになりうるALL GREENの今後が楽しみです。ありがとうございました。

 

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(interview / text: pilot boat 納富 隼平、edit: pilot boat、photo: taisho)