購買のきっかけは共感や体験。ソーシャル性をもったライブコマース「Live Shop!」

 

参入が増えるライブコマース

インスタグラマーをはじめ、多くのインフルエンサー(ここではフォロワーが数千人以上いるような人たちとする)が近年登場している。彼女たちのなかにはマネタイズを目的としていない方もいるが、他方でせっかくそこまで影響力をもったのだから、それを仕事にできたら嬉しいという人もいるだろう。彼女たちにとって、自らが作ったコミュニティからどうマネタイズポイントを作るかは当然課題に挙げられる。その答えのひとつがライブコマースだ。

ライブコマースは、インフルエンサーがライブ動画を配信し商品を紹介、オーディエンスはその商品を購入できるというシステム。中国では2016年ころから先進的に隆盛をみせており、ライブコマースができるアプリだけでも何百と配信されている。中には何億円と売り上げるインフルエンサーもいるらしい。日本でも2017年後半からプレイヤーが増えている。メルカリチャンネル、PinQul、BASE LIVE、MimiTV、CAMPFIRE Fireball、俳優の山田孝之氏が取締役を務めるme&starsも話題になった。今後も新規参入が増えたり、彼らと手を組む事業者は増えていくだろう。

そんな中気を吐いているのが、Candee社のソーシャルライブコマースLive Shop!(ライブショップ)だ。

 

今回は株式会社Candee 執行役員の鍛治氏にLive Shop!のこと、実現したい世界、動画やライブコマースの可能性についてお話を伺った。

株式会社Candee 執行役員 鍛治 良紀(Kaji Yoshinori)

1981年奈良県生まれ。2004年同志社大学 卒業。株式会社サイバー エージェントに入社。退社と同時に株式会社カルクリエーションを設立、 代表取締役に就任。その後、Sansan株式会社にて西日本統括、 MARK STYLER株式会社にてEコマース,WEBセクションRunway Channelの グループ長を経て、MARK STYLER株式会社の広告ならびにメディア部門の事業部 が分社化・独立したTimes Transit株式会社の代表取締役に就任。 その後株式会社Candeeに参画し、執行役員としてブランドビジネスを担当。

 

Live Shop!は「ソーシャル」ライブコマース

Live Shop!は、2017年06月にローンチしたライブコマースアプリだ。ファッションやメイク、旅行といったライフスタイル分野のコンテンツをインフルエンサーが配信し、そのフォロワーが番組を観る。インフルエンサーはアイテムをリアルタイムに紹介し、ユーザは番組中にその商品を購入できる。

加えてLive Shop!はソーシャル性が強い。つまりLive Shop!の特徴は、ユーザ同士の横のつながり、インフルエンサーとユーザ間でコミュニケーションがとられていることだ。商品を販売したり購入できることはもちろん、コミュニケーションをとれるインタラクティブ性やソーシャル性が高いのだ。

そもそもLive Shop!で配信しているインフルエンサーにも特徴があり、単に人気があったりフォロワー数が多いだけではなく、フォロワーとコミュニケーションをとりたい方が多いのだそう。

発信したいことはもちろん配信するのですが、彼女たちはユーザが自分に何を求めているか分析したり、コミュニケーションをとりたいのです。たとえば芸能人がツイッターやインスタグラムでコミュニケーションをとりますよね。それのインフルエンサー・ライブ動画バージョンといったイメージです。(鍛治氏、以下同様)

 

なのでインフルエンサーも配信中にユーザからのコメントを確認し、それに応える。たとえばバッグを紹介していたら「マチの大きさを確認したい」「ショルダーをかけしてほしい」「○○ちゃんならどういうコーディネートにしますか」といった具合だ。ここまでマメにやりとりすることで、ユーザからのエンゲージメントが高まり、よりコミュニティ感が高まっていく。

ライブ配信中にはユーザからコメントが飛び交い、インフルエンサーもそれに反応する(Credit by Candee)

インフルエンサーが紹介するのは、自分で紹介したいものやマイブーム、実際に使ってみてオススメのアイテムだ。その理由は「熱量」が必要だから。たとえば同じアイテムだが白と黒のものを用意し、インフルエンサーは白を中心に紹介したとする。そうすると売上は圧倒的に白のほうが高くなる。

逆にこれを紹介してほしい、と頼んだものはステマっぽくなってしまうし、ユーザはそれを見抜きファンの離反を招いたり販売量も伸び悩む。インフルエンサーが紹介したい商品を紹介するのが、結果的にベストなのだ。

 

共感や体験を伴う「エンゲージメントコマース」

アマゾンや楽天に代表されるような従来のECは「目的買い」だと言われている。「これが欲しい」という感情をもち、それを検索し、購入するのだ。

リアルでの買い物にも、当然目的買いはある。しかし「衝動買い」のような、たまたまいいものを発見したので買った、という体験もある(衝動買いというと悪い意味にも聞こえるが、ここでは悪意はない)。たとえばショッピングセンターを歩いていたらたまたまかわいい洋服を発見した、といったケースだ。Live Shop!が狙っているのはこの体験を、オンラインで実現すること。Live Shop!ではこれを「エンゲージメントコマース」と呼んでいる。

エンゲージメントコマースは、共感や体験を通じた購買で、エモーショナルなものです。ウインドウショッピングをしていたのに思わず買ってしまった、ドラマの主人公の格好につられて服を探した、といったことがオフラインでもあると思います。

Live Shop!ではこれをオンラインで実現するのです。ユーザは何かを買いたいわけではなく、コンテンツを楽しみにLive Shop!を訪れるのです。そこでは好きなインフルエンサーが、熱量をもって好きなアイテムを紹介しています。ユーザにその熱量が伝わって、ユーザもそのアイテムを欲しくなるんですね。これが「共感や体験」で、エンゲージメントコマースと我々が呼んでいるものです。

 

Live Shop!は番組製作にもこだわっている。スタジオやカメラ、小道具はテレビ番組さながら。これもインフルエンサーの配信でコンテンツ力を高め、エンゲージメントを高めるために必要な工夫だ。

Live Shop!のスタジオ

最近は服が買われなくなったなんて言われますが、買わないのではなく買い方が変わっているのだと思います。今の消費者には買うためのストーリーや動機付け、共感が必要なんです。Live Shop!ではその準備を最大限にして、動画という形で、それらを届けていきたいと思っています。

 

プライベートブランドでも届けるのは「体験」

Live Shop!は2017年11月、プライベートブランド(PB)も販売していくことを発表。特定のブランドを販売していくのではなく、各インフルエンサーがブランドを立上げ、Candee社と一緒に商品開発していくスタイル。つまり流行りのアイテムではなく、各インフルエンサーごとにオリジナルアイテムを製作・販売していくのだ。

インフルエンサー自身が熱量をもつアイテムを販売しないのなら、Live Shop!でやる意味はありません。なのでインフルエンサーが本当にいいと思っているのなら冬にTシャツを作ったっていいし、流行りのものじゃなくても構いません。本当に欲しいアイテムだから、それがファンに伝わって、ファンも購買意欲が湧くんです。

 

Live Shop!は決してアパレルブランドになろうとしているわけではなく、PBでも届けたいのは「体験」なのだそう。そのコンテンツのひとつとして、ジーンズだったりニットだったりのアパレルがある、という位置づけだ。なので大量生産はしないし、追産もしない。数を追うのではなく、一定数を販売すればいいという方針とのこと。

インフルエンサーもライフスタイルの変化に合わせて、発信するコンテンツが変わっていくんじゃないかと思っています。ファッションの種類が変わるかもしれませんし、ファッションが得意だった方が、子供が生まれて食事に気を使うようになり、料理コンテンツを配信するようになるかもしれません。本人の環境が変わるたびに、配信するコンテンツも変わっていけばいいと思っています。

 

インフルエンサーはLive Shop!ではライフスタイルクリエイターとなり、共感体験と商品価値を提供していく。またLive Shop!はコンテンツ制作に対するノウハウを溜めていき、インフルエンサーをサポートしていく。

動画受託からプラットフォームへ

Live Shop!を運営するCandeeが掲げるミッションは「新しい時代のカルチャーとスターの創造」。そのために動画という形式を選択した。とはいうものの動画制作のノウハウが最初から十分にあったわけではなく、最初は動画制作の受託をしていたそうだ。その中でクライアントに、動画は制作するだけでなく配信するニーズも大きいことに気づいたそう。たとえば記者会見をメディアだけでなく、自分たちのファンに観てもらうためにTwitterやFacebookでライブ配信する、といった具合だ。

やがて動画制作のノウハウも溜まり、自社サービスとしてライブ動画プラットフォームであるLive Shop!をローンチ。配信はもちろん、スタジオや小道具、PBなど、Live Shop!ではインフルエンサーが最大限活躍できる場所を作ろうとしている。

インフルエンサーが最大限活躍できるように、プロダクションや番組コンテンツ制作、広告代理店の機能を社内で抱えています。たとえばインフルエンサーが旅番組を配信したい、となったたときにスポンサーを探してこれますし、ハイクオリティなコンテンツ制作も可能です。

Live Shop!ではタイアップコンテンツも実施。写真はZoffとのコラボコンテンツのスタジオの様子。

 

最後にLive Shop!や、ライブコマースの今後の展開について伺った。

スマホは受動するためだけのデバイスではなく、能動的なデバイスにもなっています。ライブ動画やライブコマースはその最たるもので、これからもっと盛り上がっていくと思っています。色んなプレイヤーも参入してきたし、これからも参入してくるでしょう。ライバルというよりは業界を一緒に盛り上げていきたいと思っています。

 

日に日に存在感を増しているライブコマース。Live Shop!はモノが売れない時代に、共感や体験という視点から、新たな販売方法を試みている。アパレルやライフスタイル企業、マーケティングなどに関心がある方はぜひ継続的に情報を追ってみてほしい。

 

AUTHOR
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。
2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。日本スタートアップ支援協会顧問。
twitter: @jumpei.notomi

CandeeでLive Shop!を担当する鍛治さん

 

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