オンラインクローゼットのアプリ「XZ」は、手持ち服のコーディネートも買い足しアイテムも自動で提案してくれる

手持ち服をどう着回すのか

アパレル業界では近年「売り方」が話題にのぼることが多いように感じる。アパレルECの市場規模やEC化率は年々増加して(2017年はそれぞれ1.6兆円、11.5%(経産省))存在感を増し、リアル店舗は相対的に影響力を落としている。またメルカリをはじめとしたCtoCマーケットも活発化。アパレル企業がさらなる成長を遂げるためには「新しい売り方」から逃げることは難しい。

ところで消費者の立場でいちばん困っているのは本当に「買い方」だろうか。一説によると、持っている洋服で頻繁に着用されているアイテムは2割ほどで、残りはほとんど可動していないし、すぐに処分されてしまうという。そういう意味では、消費者が困っているのは新しいアイテムの購入や販売・処分ではなく、持っている洋服をどう活かすかなのかもしれない。

手持ち服の活かし方の話は消費者側だけでなく、アパレル企業側からも聞かれる。大手アパレルは自社のアプリやポイントカードなどを通して、どのブランドのどの製品が購入されているのかは把握されている。しかし販売した洋服が本当に着られているのか、どのようなコーディネートで着られているのか、フリマアプリで売られてしまったのかなどを知るにはユーザにアンケートでもとるしかなく、実態の把握はなかなか難しい。

そんな状況に挑むスタートアップが株式会社STANDING OVATIONだ。ユーザが、持っている洋服を登録したら自動で着回しコーディネートを提案してくれるアプリ「XZ(クローゼット、※)」を運営している。代表の荻田氏に話を伺った。

(※)以下「XZ」はサービスを、「クローゼット」はオンラインまたはオフラインのクローゼットを指す。

(インタビュー:2018年08月)

 

株式会社STANDING OVATION
代表取締役 CEO 荻田 芳宏

早稲田大学卒業後、博報堂に入社。
事業プロデュース局にて、東京モーターショーや愛知万博などのイベントプロデュースやプロモーション企画を担当。キャスティング局ミュージックエンタテイメント部では、アーティストやタレントの広告キャスティング、CM音楽タイアップなどを担当。
その後、「魔法のiらんど」役員陣がスピンアウトしたスタートアップの立ち上げに参画。モバイルコンテンツサービスのプロデューサーを務め、カテゴリーTOPの月額課金モバイルサイトに育てる。ブランド戦略部長を経て、グループ最年少で取締役COO就任。新規事業管掌役員として、スマホアプリ事業(累計200万DL)やソーシャルゲーム事業等を立ち上げ120名・月商数億円規模に育て上げる。
2014年、株式会社STANDING OVATIONを起業、代表取締役CEOに就任。

 

XZはユーザのクローゼットをクラウド化

STANDING OVATIONの荻田氏はもともと広告代理店に勤務。イベントやキャスティング事業に関わり、女性誌での着回し特集などをよく見ていた。「手持ち服のコーディネートがわからない」「同じ服ばかり着ていると思われたくない」という課題が解決されていないと感じていた。その後ネットベンチャーでの新規事業役員を経て起業した荻田氏は、前述の課題感に加えて「ファッションはノンバーバルだし、日本ファッションは、世界から評価されているのでグローバルなチャレンジができる」と考え、STANDING OVATION社を起業、「XZ」を開発した。

いままでのファッションは販売という形の、ブランドからの一方通行であることが多かったように思います。でもファッションというのは購入だけでなく手持ち服をどう組み合わせるかということが重要です。

なので手持ち服の情報をクラウド化してコーディネートを提案することができれば、ユーザの利便性を高められると感じたのです。(荻田氏、以下同様)

STANDING OVATION 荻田氏

 

さてXZは、ユーザのクローゼットの中身をデジタル化するオンラインクローゼットのアプリだ。ユーザが手持ちの洋服をXZに登録すると、アプリが自動で手持ち服から洋服のコーディネートを21案(3案/日×1週間)提案してくれる。女性にも男性にも対応している。

XZは2018年7月にリニューアルしている。以前は自動ではなく、他のユーザがコーディネートを提案してくれる形式を採用。各ユーザのクローゼットを見える化して世界でひとつのビッグクローゼットをつくり、各ユーザの手持ちアイテムを共有、それをハブにコミュニティ化してきた。ユーザは他のユーザをフォローしてlikeしたり、クローゼットを覗け、コーディネートを考えたりコミュニケーションをとってきた。

XZではこれまでに約400万点のアイテムが登録され、120万以上のコーディネートがユーザによって作成されている。ユーザは平均で35点のアイテムを登録しており、多い人では100を超えるアイテムを登録しているそうだ。

STANDING OVATIONはこのデータを活かして、また写真情報のクローリングなども組み合わせ、独自のコーディネートエンジンを開発。2018年7月のリニューアルで現在の自動提案方式に切り替えた。ただし「リアルのクローゼットをオンラインで可視化する」というコンセプト自体は変わっていない。

(image: XZ)

 

簡単に手持ち服を登録できる仕組み

XZの使用に際して、ユーザは自分のもっている洋服を登録する必要があるが、すべてのアイテムを「写真で撮影して」登録する必要はない。登録方法がいくつかあるのもXZの特徴だ。

XZのアプリをダウンロードして最初に行うのは「お試しコーデ」。白いTシャツやブルーのジーンズなど、高い確率でもっていそうなアイテムをXZから提示し、ユーザはその中から持っているアイテムを登録する。これだけでも簡単なコーディネートは可能になる。

「似ているアイテムから選ぶ(クイックアイテム登録)」は、「おそらく世界最大の登録数」(荻田氏)という、400万にのぼる他のユーザが登録したアイテムから、類似のアイテムを探し登録する機能。スマホで撮影した写真からアイテムだけをキレイに切り抜くユーザなども一定数おり、そのような普遍性が高い素材を登録することができる。「Webから探す」ではユニクロ、GUや[.st]などの提携しているEC内にある画像をとりこむことのできる機能だ。もちろん自分でアイテムを撮影して登録することもできる。

一見すると「自分で撮影した写真の登録」だけで十分にも感じるが、XZが複数のアイテム登録方法を用意しているのは、ユーザの利便性を上げるためだ。たとえば男性だったら「黒のTシャツ」にとくにこだわりがあるわけでもない人も多いだろうし、コーディネートを把握するだけだったら全く同じアイテムを登録する必要もない。それならばわざわざ写真を登録するという手間をユーザにかけなくても、類似の画像を使ってもらえばいい。クイックアイテム登録やWebから探すのは、コーディネートエンジンが洋服を認識しやすくするというXZ側の事情もあるだろう。

コーディネートの基礎情報であるアイテム情報を登録すると、XZのトップ画面には「コーデ予報」が現れる。XZでは単にコーディネート案が提示されるわけではなく、たとえば「暑くて晴れていれば白い半袖」のように、天気や気温などにあわせた提案がされる仕組みになっている。

XZの価値は手持ち服を使ったコーディネート提案です。とはいえ持っている写真すべてを登録するというのはユーザにとっては非常に面倒。なのでXZでは、写真を撮らずにアイテムを登録できる導線をいくつも用意しました。

またコーデ予報では「ホワイトのブラウスをメインに、カーキのワイドパンツを合わせて抜け感のある着こなしに」のような雑誌の着回しコーデのような文章も自動生成しています。「着た姿のイメージ」「アイテムコラージュ」「キャッチーな文章」の3点セットで、「イケているコーディネートなんだよ」ということをユーザに伝えているのです。

 

ちなみにXZでは提案がちょっと違うと思ったらすぐに違う案が出てくるし(これが自動提案のいいところでもある)、特定のアイテムの着合わせを考えてくれる機能があったりと、ユーザのコーディネートを手伝う機能がちりばめられている。

 

今後も嗜好性を高めたり季節性をより考慮したりといった、コーディネートの精度を上げるためにエンジンのカスタマイズしてくとのこと。加えて身長や骨格の要素を加えて、よりパーソナライズした提案ができるようにしたり、韓国系・キレイ系といったテイストを考慮したコーディネート提案も考えているそうだ。

 

アパレル事業者と一緒に「コーディネートコマース」を

XZの提案は現在、持っているアイテムをベースにコーディネートを提案している。今後はたとえばこれにおすすめの1アイテムを加えて紹介し、気にいればそのまま購入できる「コーディネートコマース」といったことを考えているそうだ。

コーディネートも楽しいですが、ファッションは新品を買うのも楽しいですよね。XZはユーザが持っているアイテムを有効活用するのが第一義ですが、コーディネート提案を活かした「コーディネートコマース」を新しいショッピング体験としてXZで提案していきたいんですよね。作り手からの一方的な押し付けではなく、既存のアパレルブランドと協力して、ユーザが持っているアイテムを活かすために一品購入するという考え方です。

ECサイトのコンバージョン率は今1%と言われていますが、XZの仕組みを使えば自分の持っている洋服のコーディネートを考慮したうえで洋服がオススメできるので、もっとコンバージョンを上げられると思っています。もしコンバージョンが2%になったら、単純に売上が倍になるわけです。それを他社ブランドのECなどにも提供していきたいですね。

 

コーディネートエンジンを他社ECに組み込みたいとの意向をもつXZだが、他社がアプリなどユーザが過去にそのブランドで何を買ったのかの履歴を保有していれば、過去の購入した洋服を活かしたコーディネート提案が自動でできるようになる。ユーザが持っているアイテムがわかるのだから、オンラインとオフラインを融合し、店頭での接客も変わるかもしれない。

アパレル商品は購入→着用→処分(リサイクル・廃棄等)というサイクルだ。ECやCtoCサービスの登場によって購入や処分の方法は多様化してきたが、「着用」はなかなかフォローできておらず、スタートアップだけでなく大手企業もパーソナライズやサブスクリプションなど、新しい着用体験をユーザに提供しようと、さまざまな試みに取り組んでいる。

XZは自分の持っている洋服のクラウド化を起点に、ユーザの「着回し」の課題を解決しているし、今後はコーディネートコマースなど、既存アパレルとの協業も期待できる。これが成功すれば消費者は、ファッションを楽しむ方法がひとつ増えるはず。XZが気になるユーザはもちろん、協業などを望む事業者は、ぜひXZをチェックしてみてほしい。

 

スタートアップ情報

会社名:株式会社STANDING OVATION
代表者:代表取締役CEO 荻田 芳宏

所在地:東京
設立日:2014年01月

URL    :http://www.s-ovation.jp/

 

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AUTHOR
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。
Twitter: @jumpei_notomi