CVCで大事なのは継続。大手メーカー8社が語るスタートアップとの共創戦略|CVC vs CVC(メーカー編)レポート

 

2026年1月20日、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の知見を共有するイベント「CVC vs CVC (メーカー編)」が開催された。同イベントの主催は石井達也氏。氏は普段は東芝テック株式会社のCVCメンバーとして活動しているものの、本イベントはあくまで個人で開催しているとのことだ。

「CVC vs CVC」はこのメーカー編で3回目の開催。石井氏はイベントの目的を以下のように語る。

このイベントのコンセプトは、CVC同士が楽しくみんなで繋がること。CVCが盛り上がれば、日本経済が盛り上がり、良いものが生まれると本気で考えている。CVC業界を盛り上げていきたい。

主催の石井 達也 氏

 

ビール業界CVCからみる、スタートアップ連携の課題

「CVC vs CVC (メーカー編)」はパネルディスカッションの二部制。第一部は、国内ビール業界大手4社から、以下の面々が登壇した。

・アサヒグループジャパン株式会社 FCH部 Support Unit 主任 伊地知 匠 氏
・キリンホールディングス株式会社 ヘルスケアサイエンス事業部 新規事業グループ 主査 津川 翔 氏
・サッポロビール株式会社 経営企画担当役員付 イノベーションセンター センター長 緑川 信頼 氏
・サントリーホールディングス株式会社 未来事業開発部 課長 大窪 信一 氏
・HERO Impact Capital Founder&General Partner 渡邊 拓 氏(モデレーター)

 

(左から)渡邊氏、伊地知氏、津川氏、緑川氏、大窪氏、石井氏

 

なお、イベント自体が本来はオフレコだったことを考慮し、以下では発言者を特定しないこととする。

4社に共通して挙げられる課題は、やはり「国内における胃袋(需要)の減少」だろう。2008年以降、減少している国内人口が食品メーカーに与える負の影響は小さくない。各社はそれをカバーする目的もあって、新規事業開発や、スタートアップ投資を含めたオープンイノベーション活動に取り組んでいるようだ。本業であるビールや飲料事業の強化はもとより「ヘルスケア」や「サステナビリティ」といった新規領域に関心のあるCVCも少なくない。

「人口減少が加速する飲料食品市場に対して、見出している一番のチャンスは?」という質問に対しては、複数の会社が「コミュニティ(またはコミュニケーション)」と回答。ある登壇者は「ワクワクする飲料体験、お酒の新しい楽しみ方を提案して、ライフスタイルコミュニティの形成に繋げていきたい」と話す。別の登壇者は「いつ、どこで、誰と食事を楽しむかは、コミュニケーションの非常に重要な要素」だと語った。「成人の1/4程度しか積極的にお酒を楽しまない」と言われる中でも、残りの3/4がコミュニケーションを必要としていないわけではない。その意味では今後はノンアルコール飲料などにも勝機を感じているようだ。

続いてパネラーには「成熟する日本市場において、DeepTechスタートアップに求めるモノは?」という質問が投げかけられた。社内に研究開発部門をもつ企業が、外部のDeepTechとどう連携するべきなのか。

ある登壇者は「DeepTechスタートアップは、技術的な手段である「How」には特に優れていると感じる。しかし具体的な連携を生み出すためには、その技術を使って何をするかの「What」も大事だ」と語る。逆に大企業側としては、スタートアップに対して、自社がやりたい「What」を伝えていかなくてはならないと課題に感じているようだ。

また、せっかくスタートアップと大企業の両社が協業に関心をもっても、スタートアップが保有する技術の権利関係がネックとなり、案件が前に進まないケースがある点にも、懸念が示された。

 

CVCを継続していくための課題と乗り越え方

パネルディスカッションの第二部は、国内メーカー大手4社から、以下の面々が登壇した。

・味の素株式会社 コーポレート本部R&B企画部 イノベーション戦略 CVCグループマネージャー 斎藤 博幸 氏
・ハウス食品グループ本社株式会社 経営戦略部 チームマネージャー 竹山 知華 氏
・パナソニック株式会社 CVC推進室 麻生 遊 氏
・ホンダ·イノベーションズ株式会社 Senior Associate Project Management 羽根田 里志 氏
・HERO Impact Capital Founder&General Partner 渡邊 拓 氏(モデレーター)

(左から)渡邊氏、斎藤氏、竹山氏、麻生氏、羽根田氏、石井氏

 

今回の登壇企業のCVC活動はどれも、財務リターン目的というよりは、戦略的な協業構築を目的としている企業が多いようだ(ただし、海外で活動する中には財務リターンの獲得を主目的とするケースもあるとのこと)。ただその戦略は多岐に渡り、「短期的には出資を通じた協業を進め、長期的にはM&Aを目指す」という方針や、「自社の事業領域を拡張するための手段としてCVCを運営する」という方針を掲げる企業もある。ファンドごとに情報収集、協業、財務リターンと役割を明確に切り分けたり、アクセラレーションプログラムとCVCを組み合わせて運用したりする事例も紹介された。

ある企業は「1号ファンド時点では社内に協業の風土が醸成できず、出資はしたものの具体的な連携が進まなかった。その教訓から、2号ファンドではあらかじめ共創のビジョンを描いた上で、出資と協業をセットで進めるようにしている」と語る。また別のファンド担当者は「二人組合では、ともするとノウハウが社内に蓄積されないので、そうならないように気をつけている」とのことだ。「社内外から来る相談の中で、協業としては非常に面白い案件だが、投資には向かない案件」をどう断るのかに苦心していると語る担当者もいた。

「CVCが取るべき選択肢として、費用対効果が高いものは」と投げかけられた登壇者は「本来CVCは、R&Dとしては費用対効果が高いはず。なぜなら投資したお金が返ってくるのだから」と語る。また既にCVCとして先鞭をつけているある会社から「ファンドは3本目から楽になる。1・2本目は投資が先行するので苦しいが、3本目になると1本目のリターンが返ってきて、社内の説得コストが下がる」とアドバイスを受けた会社もあったようだ。

別の企業は「まだホームラン案件が出ていない」ことをCVCの課題に挙げる。ただし、失敗の度に気づきや反省点は社内に蓄積しているようで、各施策の実行スピードは早くなっているようだ。

ところで、ファンドの期限は一般的に10年程度が多いと言われる。しかし経営者の任期は10年未満であるケースも多く、「ともするとファンドと経営者の目線が揃わない」と、あるCVC担当者は悩みを口にする。その時々のトレンドや経営者の関心も大切に扱いしつつ、「投資リターンも出せて、協業もできそうなスタートアップを狙う」ことでこの悩みを解決しようとしているようだ。

それに関連し、ある登壇者は「CVC活動を継続するためには、継続的に財務リターンを得ておき、CVC活動の説得性を高めておくことも重要」と語った。別の担当者も「「CVCがなくてはならない」とまでは言わずとも、「あると便利だ」と経営者に理解してもらえれば、とりあえず続けられる。それがあるのとないのとでは、社内の立ち位置が全く変わる」と呼応する。この登壇者は「自分の足を動かして、スタートアップはもちろん、ベンチャーキャピタルやエコシステムビルダーとの対話を重ね、個人または会社に知見を蓄積していくことが、経営者へのフィードバックに繋がる」と、「自力でやる」ことの大切さを会場に説いた。

パネルディスカッションが終わり、懇親会を経て「CVC vs CVC (メーカー編)」は終了。タイトルに「メーカー編」と付されているように、他の業界などをテーマに掲げたイベントも開催される予定だ。次回は2026年3月23日に開催予定とのことで、関心のあるCVC担当者は主催者にコンタクトをとってみてほしい。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、写真:ソネカワアキコ)