【クックパッド】食と料理の社会課題を、スタートアップと一緒に解決する

食と料理にまつわる社会課題を解決する

2018年06月、クックパッドが主催するアクセラレーションプログラム「クックパッドアクセラレータ」のデモデイが開催された。

クックパッドは言わずと知れた、レシピの投稿・検索を中心にサービス展開している日本のFoodTechのリードカンパニーだ。しかしクックパッドアクセラレータ責任者の住(スミ)氏によれば「クックパッドが解決しているのは、食と料理の社会課題のうち、ほんの一部」だという。同社が解決しているのは主に「料理スキルの減少」で、「食材の流通・販売の画一化」「料理文化の損失」といった他の社会課題はまだ山積しているというのだ。

クックパッドがアクセラレーションプログラムを開始する前に行ったのが役員を含む有志が参加した合宿で、この目的は「食と料理にまつわる社会課題」の全体像を把握すること。ここで作成されたのが以下の「食と料理にまつわる社会課題マップ」だ。

(credit:クックパッド)

これらの社会課題を解決するには、クックパッドだけでは難しい。そこでクックパッドが見出した答えが、アクセラレーションプログラムを通じて、スタートアップと協働して課題解決に取り組むということだった。

 

スタートアップ支援にコミットし、一緒に社会課題を解決

クックパッドアクセラレータには130件応募、書類選考に36社が合格し、ピッチ審査には13社が参加。最終的に5社が採択されている。数多あるアクセラレーションプログラムに比してクックパッドアクセラレータのユニークな点として、責任者の住(スミ)氏が挙げたのは以下の点だ。

1. 課題解決と価値創造
上記社会課題のうち、どこをクックパッドと一緒に解決するのかを応募段階からスタートアップとディスカッションした。クックパッドにどのようなメリットがあるかではなく、「スタートアップと共に社会課題を解決する」ことが主眼だ。この社会課題の折り合いがつかなければ、実績のあるスタートアップでも採択はされないという。

2. 高いコミットのハンズオン
採択企業には、住氏を中心にハンズオンで支援。たとえばアドウェル社とは、毎週のように共同でユーザインタビューを実施。翌週までに改善する、というサイクルを繰り返した。

クックパッドアクセラレータの住氏(左)とアドウェルの小原氏(右)

 

3. 採択企業にオフィスを開放
ビビットガーデン社とアドウェル社の住所はクックパッド内になっており(デモデイ時)、実際に両社は住氏の隣のシマで働いている。このフロアはアクセラレータ専用のフロアや隔離された空間ではなく、他の社員も働く通常のオフィスだ。アクセラレーションプログラムで、スタートアップにオフィスを開放するという事例は多いものの、その場合でもセキュリティなどの観点から、通常のオフィスとは隔離しているケースがほとんど(非難しているわけではなく、妥当な判断だと思う)。しかしクックパッドはスタートアップにも通常のフロアを開放。「すぐ隣にいるから気軽に声をかけられるし、スタートアップもクックパッドの社員や利用可能なリソースに簡単にアクセスできるんです」(住氏)。

 

デモデイに登場したのは採択された5社。クックパッドとの取り組みも発表

さてここで、アクセラレータープログラムの採択企業を簡単に紹介したい(デモデイの登壇順で紹介)。なおpilot boatはクックパッドアクセラレータと連携し、ビビットガーデン社とアドウェル社のインタビューを実施している。両社の事業詳細はそちらも確認してほしい。

リンクアンドシェア / クラウドフード

リンクアンドシェアが提供するクラウドフードは、主に地方にいる食品メーカーと、スーパーや百貨店などの小売店をマッチングするwebマッチングサービスだ。地方の生産者は各地に分散しており小売店のバイヤーはすべてを把握できないし、生産者側も頻繁に営業に行くことは難しい。食品という歴史の長い業界ということもあり、IT化も進んでいない。クラウドフードはwebによるマッチングという形式でこの課題を解決する。

【クックパッドとの協業】
・地方の特産物を使った商品は食べ方や調理方法が分からないため売りづらく、全国の流通に乗りづらいという問題点がある。そこで小売店にクックパッドの棚を設置し、レシピカードと共に商品を販売。消費者の購買促進に繋げた。

 

エーテンラボ / みんチャレ

エーテンラボが運営するみんチャレは、五人一組のチームになってダイエットや早起きなどの習慣化を応援するサービス。チーム内では互いに進捗を報告したり、マイルストーンの達成を褒め合ったりする。一般に習慣化の成功率は8%と言われているが、みんチャレの習慣化割合は70%近いとのこと。また人は自分から行動すると幸福度が増すことが確認されており、みんチャレも結果的にユーザお幸福度増加に貢献しているそう。

【クックパッドとの協業】
・クックパッドからみんチャレ内に開設された公式チャレンジ「クックパッドで料理」へ送客し、料理の習慣化の検証を実施。クックパッドはユーザのチャット履歴を個人情報がわからない形で確認し、たとえば「料理写真を上手く撮りたい」といったニーズを汲み取ることに成功した。
・今後は料理初心者が料理を習慣化するようなプログラムの共同開発などを企画している。

 

プランティオ / PLANTIO HOME

新しいアグリカルチャーを作ろうと息巻くのはプランティオ。2018年から徐々にステルスモードを解除し、露出期に入っている。

同社が作ろうとしているのは農業アクティビティのカルチャー。農業体験ではなく、もっと都市圏で農業に触れ合う機会を作ろうとしている。たとえばビルの屋上に農園をつくり、そこで収穫した野菜を近所の飲食店で提供したりといったことを企画している。また野菜の収穫期や水量などの管理ができるIoTプランター「PLANTIO HOME」にて、自宅でも簡単に農作物を育てられる環境を整えていく。

【クックパッドとの協業】
(どちらも中長期的な施策)
・スマートプランターを使うことで、野菜の収穫期がわかる。そのタイミングでレシピを出したり、逆にあるレシピを作るために必要な野菜の栽培を提案する。
・今後はクックパッドが開発しているスマートキッチンサービス「OiCy」との連携を検討。

 

ビビットガーデン  / 食べチョク

一般に少量生産のオーガニック野菜農家は、こだわりや付加価値の割に野菜を高く販売できない。他方で近年はマルシェが人気で、多くの消費者が駆けつけている。そこでビビットガーデンが取り組むのが、こだわり農家のオンラインマーケットプレイス「食べチョク」だ。消費者はオーガニックな野菜を簡単に購入できるし、農家とコミュニケーションをとることもできる。

【クックパッドとの協業】
・クックパッドのサービス内に食べチョクのバナーを貼ったり、ユーザテストを実施。たとえば珍しい食材を販売する場合にはそもそも調理の仕方がわからないため、食材そのものよりもレシピを推したほうがいいことなどを確認。
・クックパッドユーザと、伝統野菜を使った農家とのワークショップを実施。ワークショップに参加したユーザはエンゲージメントが高くなり、自主的にレシピを投稿するなどの行動を確認した。

【参考記事】
オーガニック野菜のマーケットプレイス「食べチョク」が生み出す、農家と消費者のコミュニケーション|pilot boat

 

アドウェル / SIRU+

アドウェルが取り組むのは食のヘルスケア、買い物から栄養管理をする「SIRU+(シルタス)」だ。普段の買い物の購買履歴から食の情報を自動で収集して分析。自分の買い物の傾向を把握してくれ、足りない栄養素を含みかつ自分が好きそうな食べ物をリコメンドしてくれるなどの機能をもつ。現在はポイントカードなどと連携することで購買情報を収集しているが、将来的には電子決済などからの情報収集できるようにしていき、ここで集めたビッグデータをマーケティングなどに使えるようにしてマネタイズポイントにしていく。

【クックパッドとの協業】
・クックパッドと共同でユーザテストを実施。
・将来的にはデータ連携し、リコメンド内容でクックパッドのレシピがみられる、などの施策を検討していく。

【参考記事】
買い物するだけで栄養管理。自然と健康になれるヘルスケアアプリ「SIRU+」|pilot boat

 

デモデイは始まり。ここから継続的な関係を築く

以上、アクセラレーションプログラムに採択された5社を紹介した。いずれも前掲した「食と料理に関する社会課題」に向きあい、取り組んでいる会社だ。

デモデイは卒業ではありません。むしろ今までがある意味でお試し期間で、ここからが本当の始まりです。そもそもプログラムをオープンでやっているのは、デモデイに来てくださった皆さまを含め、色んな方と協力して食と料理の社会課題を解決できると思っているからです。

今後もクックパッドは本日プレゼンしてくれた5社をはじめ、いろんなスタートアップと社会課題に取り組んでいきます。(住氏)

 

今回のクックパッドアクセラレータはまだ初回。次回以降の計画は現時点ではまだ非公表とのことだが、今後もスタートアップとオープンイノベーションに取り組み、「誰もが料理を楽しんで幸せになる世界」を構築することを期待したい。

 

AUTHOR
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター

1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュースとオープンイノベーションのコンサルティングをてがける。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、スタートアップ界隈初心者のためのオンラインサロン「pilot boat salon」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTech / BeautyTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。
Twitter: @jumpei_notomi

 

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