オーガニック野菜のマーケットプレイス「食べチョク」が生み出す、農家と消費者のコミュニケーション

 

エシカルやサーキュラーエコノミーなど食の分野でも、環境や人権に優しい商品を選ぼうとする動きが広がっている。たとえばグローバルではフェアトレードベースのチョコレートやコーヒーが存在感を増しているし、もっと身近なところなら「生産者の顔が見えると安心」「どうせならいい活動をしている企業の商品を購入したい」といった需要もあるだろう。とくに近年は食の安心に関心が高まっている。そうなると注目されるのがオーガニックな生産物だ。

その証拠を示すように、生産者が集まって農産物などを直売するマルシェやファーマーズマーケットが、都市圏で人気を博している。有名なのは表参道で開催されているFarmer’s Market@UNUや、YEBISUマルシェ。農家が直接販売するので、季節の商品やオススメの食べ方などをコミュニケーションをとりながら買い物できるのが人気の理由だ。掘り出し物に出会えることもあるし、直販で生産者の顔も見えることは食の安心感の醸成に一役買っている。消費者のニーズも多様化しているから、色々な種類の野菜や果物が選択肢になるのは嬉しい。

今回紹介するビビットガーデンが運営する「食べチョク」は、オーガニック野菜に特化したオンラインマーケットプレイス、いわばオンライン版のマルシェだ。代表取締役の秋元氏にお話を伺った。

(インタビュー:2018年05月)

株式会社ビビッドガーデン
代表取締役 CEO 秋元里奈(Akimoto Rina)

神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業した後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業。

 

ECではなく、コミュニケーションが発生するマーケットプレイス

秋元氏の実家は農家。少量多品種生産でとうもろこしや小松菜、柿などを生産していて、農業は身近だった。新卒でDeNAに入社し新規事業の立ち上げやスマホアプリに関わるものの、自信の経歴もあって農業関連での起業を志す。当初は使われなくなった農地の活用や農家の新規就業者を増やしたいと思っていたが、次第に流通に課題を感じるようになった。

新規就業者を増やしてもそもそも仕組み的に農業が儲からなかったら、誰も興味をもってはくれません。現時点でも素晴らしい野菜を作っている農家さんはたくさんいますが、農家も消費者も満足いしているは言い難かったんです。そこでまずは流通の負を解決しようと思い、こだわり農作物、具体的にはオーガニック野菜や果物に特化したマーケットプレイス「食べチョク」を始めました。(秋元氏、以下同様)

 

そもそもオーガニック野菜(※)とは「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと…(中略)…を基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」のこと。有機農家は1.2万戸で、農家全体の0.5%ほどしかいない(農水省(2013))。

(※)ここでは有機JAS認証の有無を問わず有機農業の定義に準拠する野菜を「オーガニック野菜」と表記する。また有機農業の定義の詳細は「有機農業の推進に関する法律」を参照。

食べチョクに登録するのはそんな貴重な0.5%の農家。とくに野菜に関しては全てが農薬・化学肥料を一切使用していないオーガニック野菜となっている。(果物など完全に無農薬で生産することが難しいものもあるため、掲載基準は「農薬・化学肥料の使用を県基準の半分以下に抑えている農家」となっている。)

食べチョクの基本構造はいたってシンプル。オーガニック農家が野菜や果物を食べチョクに出品し、消費者はそれを購入する。そうすると農家が穫れたてで新鮮な野菜を農地直送で送付してくれる。

ただし食べチョクは「ECではなくコミュニティプラットフォーム」(秋元氏)。通常のECなら購入されたらそのまま送付するだけだが、食べチョクではリアルのマルシェと同様に「オススメの食べ方」や「どうやって育てているのか」といったコミュニケーションが発生している。生産者の顔もみえるため、農産物に対する安心感も醸成される。マルシェにいつも通うのは大変だし、野菜をたくさん買ったらそれなりの重量があるので、オンラインで家まで配達してくれるのは嬉しい。

 

消費者の声を農家に届けて、マーケットインの農業を

消費者だけでなく農家が食べチョクを利用するメリットも大きい。オーガニック野菜の生産は農薬などを使った野菜に比べて生産効率が悪いことが多いので、オーガニック農家としては販売価格を高く設定したい。しかし既存の流通システムだと、買い取り価格は野菜ごとに一定価格と決まっている。野菜を大量に生産・販売する農家にとっては便利なシステムだが、オーガニック農家にとってはせっかくこだわって野菜等を作ったのに、単価を上げることができない。

オーガニック野菜の生産を志して、新規に就農する人は相当数いる。しかしもちろん生産自体が大変ということもあろうが、手間暇かけたのに希望金額で販売できないことから、だんだんと普通の野菜を生産するようになってしまう、といったことも珍しくない。

そこで食べチョクでは農家が野菜の販売価格を決められるようになっている。つまり自分たちのこだわりを伝えることで、適正な価格で販売できるようにしているのだ。なお価格は購入量が多いほど割安になっていく。

ちなみに農家は「キャベツ農家」といった言葉があるように、単一の生産物を作っているイメージがあるが、小規模でも何十種類の野菜を作っていることも珍しくないそう。なので「夏野菜セット」や「高原野菜セット」のような詰め合わせで販売されるような商品も多くなっている。農家や季節ごとにオススメが異なるので、消費者も飽きずに食べチョクや野菜を楽しめる。特集は農家サイドが自主的に作っている場合もあるし、食べチョクが「こういう特集をやります」といって、農家が出品するケースもある。パクチーが流行ればパクチー入りの野菜セットを企画したりと、消費者の声を吸い上げ、農家側にも情報提供している。

株式会社ビビッドガーデン_食べチョク_秋元里奈

従来野菜などは卸業者や小売店を通して販売されていたため、消費者の声が直接的に農家に届く機会は少なかった。しかし食べチョクに参加している農家には、消費者との直接のコミュニケーションから、または食べチョクを通して消費者の声が入ってくる。感謝の言葉をもらうことも当然あり、それが農家のモチベーション向上につながるケースも少なくないし、厳しい声は野菜の生産改善につながっている。

今までの農家さんは流通の仕組み上、野菜作りに対してプロダクトアウト的な発想にならざるをえませんでした。つまり作りたいものを作って売る、という状況です。しかしこれからは消費者がどんな野菜や情報を望んでいるのかというマーケットインの発想も重要。食べチョクの仕組みを使って農家さんに消費者の情報が届く体制もつくっていきたいです。

 

食べチョクで販売される野菜等には、一般的な野菜だけでなく伝統野菜(京野菜、三浦大根など)も含まれている。地方独自の伝統野菜というのはたくさんあって郷土料理として食されているが、形が特殊だったり味に癖があったりして、地元の外のスーパーに並ぶ機会は少ない。なので料理の仕方が一般に浸透しておらず、おいしい食べ方も知られていない。したがって伝統野菜の調理には、地元の農家とのコミュニケーションが必要になるのだ。食べチョクはもともと農家と直接コミュニケーションをとるサービスなので伝統野菜の販売にも向いている。

また伝統野菜はスーパーでは購入できないので、それが詰め合わせに少し入っているだけでも、消費者からすると食べチョクでオーガニック野菜を購入する価値になる。オーソドックスな野菜はいれつつも、適度に伝統野菜が入っていることを気にいる消費者が多いようだ。

 

オーダーメイドのサブスクリプションサービスも

冒頭で述べたとおり、ファーマーズマーケットが人気ということは、オーガニック野菜のニーズがあるということだ。食べチョクには2018年05月現在、100超の農家が参画しており、「新鮮で安全な野菜が食べたい」と思っている消費者に野菜を届けている。しかしたくさんの出品があるという状況は、逆に野菜などを選ぶに選びきれない、つまりどの野菜が自分にとってベストなものなのかわからないという悩みも生み出してしまった。

そこで食べチョクが2018年02月に始めたのが「食べチョクコンシェルジュ」。オーガニック野菜のオーダーメイド宅配で、好きな野菜や嫌いな野菜、また伝統野菜など珍しい野菜をどの程度入れるかといった情報を登録すると、食べチョクが野菜を見繕ってくれるサブスクリプション型のサービスだ。

自分にカスタマイズされた野菜が農家から届くだけでなく、届いた野菜にフィードバックを返すことでより自分の好みに合った野菜が届くようになる。そこからその農家のファンになる消費者もおり、次回から指名買いするといったこともあるのだとか。

 

最後に食べチョクの今後の展開を伺った。

すでに食べチョクには100を超える農家に参画頂いていますが、我々の基準を超えるオーガニック農家は世の中に1万はいるはずです。なので数千の農家が参画できるほどのマーケットプレイスを目指しています。

また現在扱っているのは野菜や果物などの一次産品が中心ですが、今後はたとえばオーガニックなリンゴを使ったジュースなどの加工品も増やしていき、より広い消費者にこだわり農家の商品を楽しんでいただけるようにしていきたいと思います。

 

さらに今後は、伝統野菜の農家の方を招いたイベントや飲食店とのタイアップなど、リアルな場でも食べチョクの野菜を食べられる機会を増やすことも計画している。オンラインだけでは試食ができないので、そこの課題を解決していきたいようだ。

今後オーガニック野菜や果物の需要は高まっていくだろう。しかしスーパーには納得できるものがなかなかおいていない。しかし農家から直接オーガニック野菜を購入できる食べチョクなら、そんな問題も解決できる。なにより農家と消費者がコミュニケーションをとることで両者の距離が近づき、こだわり野菜は消費者にとってはより身近になる。食の選択肢が増えることで、食の価値が高まる消費者は必ずいる。今後も食べチョクが農家と消費者を増やし、家庭にオーガニック野菜が増えていくことを期待したい。

株式会社ビビッドガーデン_食べチョク_秋元里奈
会社名:株式会社ビビッドガーデン
代表者:秋元 里奈

所在地:東京
設立日:2016年

URL    :https://www.tabechoku.com/

 

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AUTHOR
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。
Twitter: @jumpei_notomi