オンラインで女性の健康をアップデート。法律から常識まで、日本が抱えるフェムテックの課題【FemTech Insight #03レポート】

近年注目を浴びている「女性(Female)」と「技術(Technology)」から成る造語「FemTech(フェムテック)」は、女性の健康に関する様々なサービスを指す言葉。例えば月経、妊娠から子育て、出産や更年期による体の変化、セクシャルヘルス、メディカル、ファッションなどだ。投資額も年々上昇しており、2020年にグローバルで約13億ドル(約1400億円)に到達するといわれている。

海外ではそういった流れからサービスの量・幅ともに拡大する一方、日本ではまだ事例も少なく、課題も多い。pilot boatはフェムテックに関する情報共有のためのFacebookグループ「FemTech Insight」を運営している他、イベントも開催。3回目となる今回は「オンライン × Women’s health」をテーマにオンラインで女性の健康に関するサービスを提供する2社が集まった。

 

イベントではまずpilot boatの納富CEOが現在のフェムテックの事例を紹介。当日のスライドは以下で公開している。

 

「アレのスマルナ」が指摘する、日本でのピル普及を妨げる課題

 

今回集まったうちの1社、ネクストイノベーション株式会社は主に月経や避妊に関する悩みを持つ 1040代女性と、医師や薬剤師、看護師などの医療専門家を繋ぐプラットフォーム「スマルナ」を展開している。ユーザはオンラインで診察や相談を受けることができ、低用量ピル・中用量ピルアフターピル(緊急避妊薬)の処方から購入、また定期便(サブスクリプション)も利用可能。20186月にサービスを開始し、現在は約4 万ユーザ(数値は2019年9月時点)が利用するようになったという。

1978年埼玉県出身。2001年帝京大学薬学部卒。2013年関西学院大学専門職大学院卒。薬剤師、MBA。外資系製薬会社のスペシャリティ事業部での経験をもとに、オンライン診察の作り出す可能性を確信し2016年にネクストイノベーション(株)を創立。(実はネクイノの2代目社長だったりする)ちなみに社名はフジテレビ系ドラマ「リッチマン・プアウーマン」よりいただきました。Twitter: @kenichi141

石井健一代表取締役は、日本に30万人いる医師のうち、産婦人科医は3%に当たる1万人しかおらず、またその約半分近くがフルタイムで働けていないと指摘する。つまり、たった-6,0000人の医師が日本の全女性の妊娠出産、婦人科系がん、不妊治療などを診ていることとなる。一方、2017年だけで168015件の中絶手術が行われた。つまり3分間に1件の中絶手術が行われている計算だ。中絶とならずとも、予定外に妊娠するケースは製薬会社の調査によると推計で年間61万件ともいわれているという。

また石井代表は、こういった性などに関するの内容が気軽に話せる内容ではないため、インターネットで情報収集する人が多いことにも言及。産婦人科の受診は心理的ハードルも高く、都市部ではその混雑も大きな課題だ。そして日本での低用量ピルの普及率はたったの4%。これだけで、日本の女性にどれだけの課題が眠っているかがわかるだろう。

また日本ではピルの使用は少子化問題などに絡めて議論されることも多いが、フランスなどピルが普及している国の方が出生率が高いことが多いと石井代表は訴える。

「スマルナ」を使えばユーザは無料で薬剤師にアクセスでき、タイムリーにピルに関する相談をすることが可能だ。また電子カルテを1ユーザごとに作っており、2回目以降の利用ではこれまでの往診や服用薬などを尋ねる手間もない。しかし「ピルのサブスクリプションで終わるつもりはない」と石井代表。女性のライフスタイルに寄りそうため、同じ悩みを持つ人が集まるコミュニティ作りや、そのほかにも構想を持っていると話した。

 

生理から出産後まで、女性が抱える苦しみに寄りそう「産婦人科オンライン」

 

イベントに登壇したもう1社が「産婦人科オンライン」を展開する株式会社Kids Public。「産婦人科オンライン」は所属する全国の産婦人科医や助産師に、体調に関する質問や悩みを気軽に相談できるサービスだ。病院を受診する前段階の悩みや、受診すべきか、または病院で聞くほどではない悩み事といった不安に寄り添う。相談はオンラインで行うため、海外からも利用もできる。ほとんどの利用者は、企業や自治体、学校など団体単位で契約しているという。

2010年に日本医科大学を卒業。その後、産婦人科医として関東圏の大学病院や総合病院、産院で勤務。20181月より株式会社Kids Publicに参画し、妊産婦や女性一般の悩みに対応する遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」の代表を務めている。他に、東京大学大学院での研究活動や、子宮頸がんの検診・予防法や性教育に関する講演なども行なっている。

「出産は命がけ」とはよく言われるが、Kids Public産婦人科統括部の重見大介医師によると、実は妊娠・出産に関わる死因の1位は自殺だという。妊婦中に7%の人が、また産後では15%もの人がうつ症状を発症するためだ。これは本人だけでなく、子どもや家族らにも影響が大きい問題でもある。産前産後の切れ目ないケアが、これを解決する手段の一つになりうるという。

また生理痛にも問題が多いと重見氏。月経痛を持つ女性は80%ほどにもなり、その30%に鎮痛剤が必要とされているのだという。また月経痛がある人の子宮内膜症のリスクは月経痛がない人の2.6倍にもなる。さらに子宮頸がんも女性の健康で取り上げられる大きな問題の一つだが、日本では年間1万人が罹患し、年間3000人が死亡している。

性教育も課題とされていながら、日本ではあまり進捗がない分野だ。教育だけが原因ではないが、年間16万件もの中絶が起こり、さらに高校生が妊娠した場合には約90%が自主退学してしまうという。どれも大きな社会問題でありながら、あまりにも進捗がないのだ。

産婦人科に関わる数多くの問題を解決するには産前産後の継続サポートから普段の健康管理などあまりにも幅広い課題があり、これは病院だけでは解決できない。しかし病院に行かずとも情報提供や精神的寄り添いで解決できる場合もあり、こういったケースに対してオンラインで対処できるのが産婦人科オンラインとなっている。

 

日本はまだフェムテック後進国 普及させるには何が必要か

 

国内にさまざまな課題がある中で今後すべきこと、課題となっていることは何なのだろうか。トークセッションではこの2社が、ディスカッションを行った。

 

現時点で日本でフェムテックの高まりを感じますか。(太字はモデレータ、以下同様)

重見:正直、日本ではまだまだフェムテックは盛り上がっていないと感じています。海外では例えば月経血だけで検査できたりと、アグレッシブな製品を作っているところもあります。日本ではまだまだそういった例は少ないように思います。

石井:ピルの分野は追い風を感じているけれど、フェムテック全体ではまだまだ認知度が上がっていません。オンライン診療に関しては法律的な問題もありますから、逆風しかありません(笑)。アフターピルのオンライン診療の議論が今年1月から始まっていますね。

重見:オンライン診療の議論では、検討会に産婦人科の先生(学会・医会の代表)が呼ばれていましたが、その先生方の意見によって当初より制限を厳しくしようという方向になった。他の科の先生がアフターピルを出すなんて危ないのでは?という議論にもなったんです。個人的には誰が処方するかというよりも体制をしっかり整えることが重要なのではと思っています。フェムテックだけでなくオンライン診療のシステム自体が、まだ日本全国で数十件しか使われていないと言われています。普及はまだまだ、これからという段階だと思います。

国内でフェムテックを盛り上げていくために何が課題になるのでしょう。

石井:僕はハヤカワ五味さんがやっている「イルミネート(illuminate)」みたいに、アナログからオンラインに流れていくサービスが、最初に普及すると思います。多くの女性は生理用品を買うので、生理用品のサブスクリプションは違和感なく受け入れられそうです。しかしオンライン診療は普段の生活にないもの(診察)を繋いでいるので難しい。「イルミネート」のようなサービスが一般の方に浸透すると、その後から色んなものが出てくるのではないかと考えています。

オンライン診療よりももう少し手前のものから、ということですね。

重見:本来ビジネスサイドがいいと思って始めて普及したことは、よっぽど問題がない限り医者集団が潰すことはできません。ニーズに沿ってやっていけば、社会が認めていく形になっていくのではないでしょうか。もちろん、法律には逆らえませんが。

 

フェムテック」だけど、テクノロジーだけでは駄目? ユーザ視点をどう導入するか

 

「女性」が対象であるということの難しさはありますか?

重見:一概には言えませんが、合理性ですべてを解決する人は、男性と比べたら少ないとは思います。例えば、ただ解決法と理由を伝えるのではなく、そこに気遣いを感じることで「安心した」と言われることもあります。なにもかもテクノロジーだけでは解決できないと感じています。だから、優秀な先生が病院で診療しても、安心してもらえるとは限らない。オンライン診療ならではのやり方があって、それをちゃんと医療者側も学ぶべきです。チャットで3行の文章を「これで大丈夫」と送っても、相手には伝わらないんです。

石井:ネクストイノベーションには「スマルナ薬剤師」というサービスがあるのですが、医学的に正しいことだけを返しても返信がないんです。でも女性が連絡すると返信があるんですよ。それも気遣いを感じられるか、人の気配が感じられるかということなのかもしれませんなのでフロントエンドは女性に設計してもらって、バックエンド(ビジネスサイド)には男性も入るという運用体制にしています。

また生理日やピルのアラーム設定はとても面倒くさいもの。それを体感するために、男性も含めてみんなで生理日管理アプリをダウンロードして使ってみました。旅行と生理日が重なると嫌、という気持ちがわかったりしましたね(笑)。男性女性というよりも、ユーザ視点に立てるかということが大事ですね。

重見:同じ妊娠・出産後の人でも、生活リズムは個人ごとにかなり違います。例えば産まれて3か月以内のお子さんが「夜必ず起きる」といっても、10~15分で母乳をあげ終わる人もいれば、1時間以上かかる人もいます。ユーザの視点に立つことは非常に重要です。

石井:また、ユーザ視点に立つという点でスマルナでは医師に「絶対怒らないで」と伝えています。よく「産婦人科で説教された」とツイッターなどに書いている方がいるのですが、相談をすることがが怖い体験にならないように気をつけています。

 

産婦人科=嫌な体験にならないように、ということですね。

石井:そうですね。ツイッターはよく見るんですが、他にも気になることがあって。「ピルを飲むのは生理痛のためです」と書く人が多いんです。そんなこと書く必要ないのに。日本の高校でも「この中に(ピルを)飲んでいる人、まさかいないよね?」と言われた、といったことがあったみたいなんですが、ピルを飲んで何が悪いんでしょう?

重見:産後のお母さんでも体調の理由やしばらく妊娠しないようにするためにピルを飲む、というケースもありますが、周りの目を気にされる方がいらっしゃいます。日本ではピルを使用することに対しての精神的・物理的なハードルが大きいように感じます。欧米だと避妊具やピルなどを無償で大学で配ったり、医者が学校などにきて処方できる場合もありますよね。

石井:北米はお医者さんに行かなければいけないですが、。ベトナムやタイだとコンビニで買える国もあります。ピルは300円くらい。日本は診察料もいれたら20003000円くらいなので、10倍近い料金なので、場所的にも値段的にもアクセスしづらいですよね。

サービスを始めて気が付いた、意外なニーズはありましたか?

重見:
私たちのサービスは診療(診断・薬の処方)ではなく“相談”で、薬では解決できない部分もケアしたいと思っています。産後1ヶ月以降でこんなにメンタルのことで悩んでいる人たちがいるのかというのは、私自身サービスを始めて実感しました。そういう時期の方たちは病院に来る機会がほとんどないので、驚きましたね。

石井:
最初にネクストイノベーションがはじめたのはEDや薄毛治療薬を出す「スマ診」という男性向けサービスでした。そのまま同じUXで女性向けのスマルナを始めたので、当時は使いにくかったと思いますが、ニーズが高かったからハードルを乗り越えてでも利用してくれる方がたくさんいました。「ピルが届きました」とかわざわざ細かく連絡くれたりもします。

重見:
産婦人科オンラインで使えるツール(チャット、音声通話、テレビ電話)は色々あるのですが、テレビ電話で話す人が1%以下と、想定よりも少なかったんです。半分はチャット、残りは音声のみの通話です。ただこれは夜間に使用する方が多いため、例えば化粧などの問題があるからかもしれません。

一方でkids publicでは「小児科オンライン」も展開していて、こちらは1-2割くらいがテレビ電話。お子さんの顔を診てもらいながら相談したいからだと思います。科によってツールの割合が変わるというのは興味深い発見でした。

 

法律、人員のリソース、ユーザとの接点…どのようにサービスは広げられるか

 

法律面やユーザの要望に対し、感じている課題を教えて下さい。

石井:
僕たちのサービスには法律の解釈が切り離せません。厚生労働省が出しているガイドラインというのがあって、この指針とサービスが必ずしも合わない。

僕たちは科学的根拠や合理性という観点からレギュレーションを作ろうとしていて、違法ではありませんが、「ルール」には引っかかってしまうんですよ。このルールがオンライン診察法みたいなものになったら違法になってしまうかもしれませんね。

重見:
産婦人科オンラインも厚生労働省などが“ルール”の境界線を変えてしまったら、一気にできることの内容が変わる可能性があります。

石井:
ガイドラインは法的な拘束力がないので、その通りにしないお医者さんがいても本来は怒られません。

また日本の場合って医療=保険診療ですよね。自由診療の場合は保険からお金払ってないので、本来は違法でない限り契約で当人同士でやってくれという形のはずです。

重見:
アメリカは政府による医療保険が十分でない状況もあり、、企業主導で先進的な医療を導入しようとしています。他方でイギリスの医療は100%税金で政府管轄なんですが、政府が企業と組んでテクノロジーを普及させようとしている。そういった点は日本と違うところですね。

 

トークセッションの最後には、会場に集まったフェムテック関連会社やメディアなど様々な人からも熱のこもった質問が飛んだ。

 

そもそも産婦人科医は少ないと思うが、産婦人科オンラインではどのような方が働いているのでしょうか。(太字は質問者、以下同)

重見:
夜勤明けや仕事後に産婦人科オンラインで働いて下さっている方もいますが、出産後などにフルに復帰できない女医さんや助産師さんも多くいます。お子さんがいると病院への復帰のハードルが高いというだけで、経験もあり知識もある優秀な方がオンラインで価値を提供できることは潜在的な人材活用に繋がると考えています。

 

ユーザとどのように接点を持っていますか?

石井:
SEOなどはもちろんですが、生理日予測アプリと組んで、生理日が近づくとレコメンドしたりしている。それとツイッターがありがたく、毎日誰かしらスマルナについて呟いてくれていて、そこからの流入もあります。ユーザ接点については新たな施策を仕込んでいるところです。

重見:
産婦人科オンラインはモデルがまた違って、toCは全体の1%以下で、ほとんどは企業や自治体、病院、学校などと提携して展開しています。これによって利用者が無料で相談できる仕組みにしています。

 

最後にミートアップをしてイベントは終了。日本での先駆者として走る2社へ世間からの期待の大きさ、そしてその課題の大きさに気づかされる時間となった。

ネクストイノベーションの石井氏とkids publicの重見氏が語ったように、まだまだフェムテックの普及に関する課題は山積しています。今回のFemTech Insightでは、その中でも「ピル」や「産婦人科」という、すでにオフラインであるソリューションを「オンライン」化するサービスに登壇していただきました。

フェムテックでは研究開発系でない限り、多くのサービスが「オンライン」で事業展開することになります。日本のフェムテック×オンラインの先駆者であるスマルナと産婦人科オンラインから、学ぶことは多いと考え登壇をお願いし、実際参考になるお話を聞けてとてもよい会になりました。(FemTech Insight主催のpilot boat 納富)

 

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制作チーム

WRITING
臼井杏奈(Anna Usui)
ライター、エディター
1993年生まれ、青山学院大卒。大手新聞社の記者職を経て、「WWD BEAUTY」で編集記者。主にビューティテック、ビューティ系スタートアップ、中国・韓国などの海外美容市場について執筆。現在はフリーとして同紙で中国美容市場についての連載を持つ他、さまざまな美容・ウェルネス業界に関するトピックスについて執筆・編集を行う。
Twitter: @19930210_
PHOTOGRAPH
森田大翔(TAISHO) 写真家/映像作家
【写真】 雑誌やWeb広告など、人物を中心に撮影。イベント撮影や企業様の採用写真(Wantedlyなど)も多く撮影。
【映像】 企業様を対象にしたドキュメンタリー映像やメイキング映像が多く、ドローンを使用した撮影も可能。(CM撮影など)
【受賞歴】 “The new generation digital photo contest 2013” 最優秀賞受賞
 

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