運動のアプリも食事コントロールのアプリもたくさんある。最近は写真を撮ったら人工知能が勝手に栄養素計算をしてくれるアプリもあるのだとか。だけどダイエットは続かないし、それどころか不健康な食事ばっかりしている気がする。
ただ…運動なんてアプリを使わなくてもやってる人はやってるし、食事の度に食べたものを入力するのは大変。だいたい自分で作った食事の栄養素なんてわからないじゃないですか。(というかそんなことできるこまめな人ってそんなアプリいらないんじゃ…?)
というわけでもっと簡単な栄養管理アプリがほしい。そんな人のために開発されたのが「SIRU+(シルタス)」だ。買い物をするだけで簡単に栄養情報を収集してくれて、栄養の偏りの見える化もできる。代表取締役の小原氏に話を伺った。
(インタビュー:2018年05月)
食事を自動で記録。栄養管理ができるアプリ
アドウェル株式会社が運営しているのは買い物履歴から栄養管理ができるアプリ「SIRU+(シルタス)」だ(2018年05月現在、クローズドβとして運営)。スーパーやコンビニで買い物をすると、購買データをアプリが収集。購入したものを自動で栄養素に変換し、記録してくれる。記録されると栄養素の偏りがわかり、足りない栄養素を補給できるような食事のリコメンドもしてくれる。
アプリではまず、「美肌になりたい」や「子育て中」といった目指す志向性や現在のステータス、家族構成などを入力し、次に自分が使用しているカードやポイントなどの情報を連携させる。あとはアプリのサーバがカードなどから購買データを収集し、カロリーや脂質、タンパク質といった栄養情報を勝手に記録してくれる。毎回食事のたびにアプリを起動したり記録をしたりといったことは必要なく、普通に生活をしていればいいだけだ。
摂取している栄養素が記録されているので、不足している栄養素もわかる。たとえばビタミンCが足りなければ、それを補給できる食べ物やサプリメントを教えてくれる。そもそも(管理)栄養士でもない限り、自分にどんな栄養素が足りていないか判別するのは難しい。たとえば貧血の症状がある人は意識して鉄分を摂取しているかもしれないが、実は鉄分は十分で実際は鉄分の吸収を補助するビタミンCが足りていない、といったことがあるらしい。SIRU+ならそんなときは鉄分ではなくビタミンCをリコメンドしてくれる、といったことも可能だ。
既存の栄養管理アプリって、一日だったり一食だったり管理しなきゃいけないので大変なんですよね。1回でもカロリー高いものを食べようものならすぐに怒られちゃう。どうしても疲れて食べたいときだってあるし、友だちとの飲み会だってあります。よほど意識が高い方でないと管理することは難しいのではないでしょうか。そもそも健康というのは一日単位ではなく、トータルで考えればいいはずです。なので一日単位にこだわる必要はないんですね。
SIRU+は食べ物をいつ食べたかという点は一旦優先度を下げて、食べ物を購入したときにすべての栄養素を記録します。正確性は多少落ちますが、買った時に摂取量は決まっているので、あとの配分は細かいこと。なのでSIRU+は長期的に自分に寄り添ってくれるサービスになっていくんです。(小原氏)
SIRU+のアプローチは食事を気にする家庭の支えにもなる。食事改善は、栄養バランスや好き嫌いを考えるなどワンステップ追加しないとなかなか難しいが、そのひと手間をSIRU+がやってくれ、あとはSIRU+のアドバイスにしたがって買い物をすればいいだけだ。毎回献立に頭を悩ましていたものが、週に2、3回の買い物に気を使えばよくなるなら、負担はかなり軽減されるはずだ。
栄養士の観点からも問題なし
SIRU+が購買データを収集するためには、各種カードやポイントなどとの連携が必要。アドウェルは経済産業省事業の電子レシート社会インフラ化実証実験や、同じく経産省主催の買い物レシートデータを活用したアプリコンテスト(アドウェルが最優秀賞を受賞)などへの参加も含め、連携先を拡大している。
逆に言えば、現金決済や非提携のカード情報などは自分で入力しないといけない。しかし2020年に向けて、これから決済はどんどん電子化されていく。そうすれば自動でSIRU+に集まる情報も増えていくので、ユーザはどんどん楽に情報をインプットできるようになっていく。なお家庭単位で買い物をすると、それを家族に配分しなければならないが、それについては今後の課題として取り組んでいるそうだ。
栄養管理をするアプリということで、SIRU+には栄養士も何名か参画している。前掲のようにSIRU+は1食ごとに食事を記録しているわけではないので、ある意味で完全な正確性は犠牲にしているわけだ。栄養士の観点からみて、SIRU+の仕組みはどのように映っているのだろうか。
「そこに目をつけたか!」という感じで、最初聞いたときは目から鱗でした。知り合いの栄養士も同じような感想です。栄養士としては通常、確かに完璧なものを目指してしまいますが、SIRU+でも健康を管理することは十分に可能です。むしろ難しい栄養学を簡単にできるこのアプローチを常識にしていきたいですね。(アドウェルの管理栄養士の中村氏)
SIRU+で最低限の健康を担保する
ヘルスケアアプリはすでにたくさん世に出ているが、小原氏は「いちいち記録しなきゃいけなかったり、ほとんどが大変そうに感じた」という。睡眠や運動はスマホやウェアラブルデバイスで入力に必要なしに勝手にデータが収集されているのに、食は現在のところ自動収集はできていない。
その人の食に対する考え方の中で、少しずつ健康になれるサービスがほしいなと感じたんです。しかも簡単に。そんなとき自分の購買データをみてたら、同じものばっかを買っていることに気付きました。だったら買うときに記録できれば、それでだいたい食事管理できるんじゃないの?と思ったのです。
小原氏自身も「お酒も飲み会も好きで、決していい食生活はしていません(笑)」と語る。とはいえ「このままでは不健康になるかもしれない」という恐怖があるという。この感情がつきまとうかぎり、いつまでたっても食生活は楽しくならない。
そこでSIRU+の着想に至る。誰でも簡単に食生活を記録できて、最低限の健康を守れるようにするのだ。カードやポイントなどの連携先が増えれば、ユーザは何をせずとも食生活が記録され、足りない栄養素を補給できる食べ物のリコメンドまでしてくれる。ヘルスケアアプリを使って1週間も経たないうちに離脱してしまった経験がある方も多いだろうが、SIRU+なら普通に生活していればいいだけなので、その心配もない。
食は家族とのコミュニケーションだったり、仲間との飲み会だったり、本来楽しいもの。なので食を我慢するということは、それらを断つということになってしまいます。SIRU+を使っていただいて自然と健康になり、食へのストレスを減らしていきたいですね。
「健康じゃないかも」から解放する
これからSIRU+はユーザの拡大もしていくが、同時に将来的な展開についても併せて仕込んでいる。前掲のように食のデータは自動化されておらず、ゆえに食事データを幅広く保有できている会社はいない。SIRU+が食のデータを広く収集できれば、食事データが必要な多くの他社サービスと連携できる可能性がある。たとえば以下のような連携を想定しているようだ。
- スマート家電との連携
スマート家電は2018年、多くの家電メーカーが次のビジネスチャンスとして狙っている市場。SIRU+が持っている食に関する情報とスマート家電を連携し、たとえば冷蔵庫にある食材と不足栄養素の関係がわかれば、食材などのリコメンドが可能になるかもしれない。
- 健康診断など、外部ヘルスケアサービスとの連携
厚生労働省によると特定健康診査の実施率は約50%、つまり国民の半数が健康診断を1年に1回以上の頻度で受けていないのだ。そんなときでももしかしたら、食生活が基準以上に乱れている人には健康診断を勧める、といったように、SIRU+が健康診断を補完できるかもしれない。実際に健康診断や血液検査を実施している企業とは連携を開始している。
- ビッグデータのマネタイズ
ユーザから広く収集したビッグデータでマネタイズを図る。たとえばSIRU+なら「ビタミンDが足りていないであろう30代女性」といった情報が収集できるので、ピンポイントに広告を出したり、ECと連動するといったことが考えられる。「ただSIRU+はあくまでヘルスケアアプリなので、ユーザが納得する形での提供が大事とは考えています」(小原氏)とのことだ。
最後に、中長期的なSIRU+の未来について伺った。
繰り返しになりますが、「食」だけがヘルスケアデータで唯一自動化できていないのです。食のデータは欲しい企業が多いのに、です。2020年には決済データのほとんどがデータ化され、それに伴い食のデータも増加します。まずはSIRU+を様々なサービスと連携させ、難しい栄養学をユーザの生活に落とし込んでいきます。
これができれば健康じゃなくなるかも、という不安から、かなりのユーザを解放できるはずです。皆さんの健康のために、SIRU+を普及させていきたいですね。
この他にも、購買データを家族から個人に分配したり、食生活にも「東北は濃味だが京都は薄味」のような地域偏向(卵焼きだってしょっぱい家庭と甘い家庭がある)を調整する必要があったりと、解決しなければいけない課題はある。しかし食のデータが自動で収集・分析され、体調をコントロールしてくれる未来というのは、あってしかるべきである。今後のSIRU+の拡がりに期待したい。
代表者:小原 一樹
所在地:東京
設立日:2016年
URL :http://adwell.co.jp/
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。
Twitter: @jumpei_notomi
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
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