本当に役に立つ知育アイテムはどれ?
今回紹介するサービスは、株式会社トラーナが運営する、知育玩具の定額制レンタル(サブスクリプション)サービス「Toysub! (トイサブ!)」だ。
知育玩具に興味を持っている親は少なくない。しかし適齢がわからない、どのおもちゃがいいのかわからない、買っても遊んでくれないなどの悩みもある。トイサブ!なら月齢に合ったおもちゃを送ってくれるし、サブスクリプションで複数のアイテムを送ってくれるから遊んでくれないという悩みも軽減される。飽きたおもちゃは返却して、新しいおもちゃを借りればいいだけだ。
そもそも世のお母さんお父さんは、どこでおもちゃを買うのだろうか。アマゾンなどのECという方も多いだろうし、買いに行くとしても最近は玩具小売店がどんどん減少しているので、家電量販店に行く人も多いだろう。おもちゃの小売りは近年劣勢で、先日は米玩具小売りの雄トイザらスの破綻が報じられた。
では家電量販店で売られているおもちゃはどんなものが多いだろうか。実はキャラクターものが多く、これはIPや利益率との兼ね合いでそうなってしまうらしい。
ところで最近は、「知育」という言葉も珍しくなくなってきた。知育玩具も探せばたくさんあるが、なかなか手に取る機会がない。まして子供に合うかどうか、買っても子供が使ってくれるのかもわからない。
世のお母さんお父さんは、おもちゃを買う時に次のような問題を抱えているらしい。
- 子供のタメになるものを買ってあげたいが、どれを選べばいいかわからない
- 子供の年齢にどのおもちゃがあっているかわからない
- 買っても子供がすぐに飽きてしまうかもしれない
さてそんなおもちゃの問題を、ビジネスモデルで解決しようとしているのがトイサブ!だ。自身にも4人の子供がいる代表取締役の志田氏に、話を伺った。
(インタビュー:2017年12月26日)
株式会社トラーナ 代表取締役 志田典道(Shida Noromitsu)
東京都出身、1983年生まれ。明治大学法学部卒。四児の父。大学在学中に友人とWeb及び紙媒体のディレクション・開発制作を行う株式会社デコラボを創業。その後事業を譲渡し、複数の外資系企業でエンジニア、プロダクトマネージャや日本支社の立ち上げ経験を経て株式会社トラーナを創業。
60日で最大6つのおもちゃが送られてくる定額レンタルサービス
トイサブ!は知育玩具のサブスクリプションサービス。45日、隔月、半年コースがあり、その日数が経過したら新しいおもちゃが4〜6つ送られてくる。人気なのは月額2,980円の隔月コースだ。
トイサブ!に申し込み後、プランニングに必要な基礎情報を入力する。子供は何歳何ヶ月で、持っているおもちゃにはこういうものがある、こういうおもちゃが欲しいという要望を記入するのだ。
ある調査によれば、子供は何歳何ヶ月でこういうことができるようになる、ということがわかっているらしい。たとえば最初は四角や丸といった形は識別できないが、xx歳からできるようになる、といった具合だ。トイサブ!にはベビートイ・インストラクターがおり、各種学術調査やプランシートの情報などをもとに、彼らが各子供にパーソナライズされたおもちゃを選んでいる。トイサブ!にはインタビュー時点で900種類の知育玩具があり、その中から月齢に合わせたものを子供ごとに選択しているという。
おもちゃがいつ返却されてくるかはわかっているので、子供の月齢はこうだから次はこのおもちゃを送ろう、というプランニングも難しくなく、在庫の回転もスムーズだ。
現状のユーザはコミュニティに入って「いない」ママ
トイサブ!の対象年齢は4歳未満(ただし「トイサブ!!プラス」という、4-6歳向けのプランもある)の子供だ。近年は共働きの夫婦が増えているとのことで、子供のおもちゃを選ぶ時間がない夫婦がメインユーザかと思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。
ユーザ観察をしていると、コミュニティが薄い都市圏のユーザが多いです。(志田氏、以下同様)
「おもちゃのレンタル」や「おもちゃのサブスクリプション」というワードはまだ、検索されるほど世の中の認知度が高まっていない。トイサブ!に行き着くのは、ママメディアに取り上げられたのをみて、そこから検索してくるママだ。メディアでは「おもちゃを選ぶのが大変」「おもちゃが多くて家がちらかっている」「おもちゃは適当に選んでしまっている」などという切り口で紹介されることが多く、共感してくるママがトイサブ!に興味をもつという。
志田氏によるとママメディアをみているのは、ママコミュニティに深く所属していないママだそう。コミュニティに所属しているとそこから情報が入ってくるので、メディアをみたり検索することは少なく、逆にコミュニティに所属していないとメディアを閲覧して、情報を検索するそうだ。そうしてトイサブ!のユーザは「コミュニティが薄い都市圏のママ」に収斂(しゅうれん)していくらしい。
これからはコミュニティにマーケティングしていくことが必要だと考えています。まずは地方のコミュニティをおさえるべく、地場の方々と連携しているところです。
ECサイトと違う、おもちゃの本当の評価
現在トイサブ!のユーザは700人程。毎回送ったおもちゃのアンケートを書いてもらっており、どのおもちゃの評価が高い/低い、というデータが溜まってきている。このデータを分析している過程でわかったことがあるそうだ。
他社のECサイトにもレビューや点数はついているのですが、トイサブ!ではまったく違う結果になるのです。
わかりやすいのが「壊れやすさ」。たとえば1ヶ月程で壊れてしまうおもちゃがあるとしよう。ECでこのおもちゃを買って、1週間ほどでレビューを書く。しかしその後数週間使っていたら、そのおもちゃは壊れてしまう。しかしレビューは既に書いてあるので、このおもちゃの評価は高くなったまま、というわけだ(もちろんあとから修正する場合もあるだろう)。
しかしトイサブ!ではレンタルを繰り返すので、このおもちゃが壊れやすく、実際にはもっとレビュー結果が低いということが判明する。つまりサブスクリプションというビジネスモデルを採用することで、購入とは異なるおもちゃのデータが集まるのだ。
また前述したように、子供の月齢とおもちゃには適齢期がある。6ヶ月の子供に1歳用のおもちゃを与えてもダメなのだ。本当はいいおもちゃなのに、時期を間違えたせいで低いレビューになっている商品もあるかもしれない。トイサブ!ではインストラクターが適齢なおもちゃを選んでくれるので、このような問題が起きる可能性は低い。
トイサブ!では今後、集まったデータをもとにおもちゃのプランニングに活用していく。社内で自動的におもちゃをリコメンドしたりスケジューリングすることに活かしていくようだ。またこのようなおもちゃのデータは「トイサブ!しかもっていないはず」とのことで、データを使ったC向けのメディア運営も計画しているそうだ。
おもちゃ×サブスクリプションの原点
おもちゃの定額制レンタルサービスとしてユーザを増やしているトイサブ!。その原点はなんだったのだろうか。
私には子供が4人いるのですが、最初の子が生まれた時に家電量販店におもちゃを買いに行ったんです。そうしたら店頭にあるものがIP(知的財産権のある)のおもちゃばかりだったんですね。他方でおもちゃには知育や機能にフォーカスしたものもたくさんあるはずなんです。ですがそもそも見つからないし、見つかってもどれを選べばいいのかわからない。この疑問がトイサブ!の始まりです。
玩具小売店が減っている現在、おもちゃを買うなら家電量販店(かEC)が中心になるだろう。しかし家電量販店に行ったらキャラクターものなどIP商品のラインナップが多い。
家電量販店ではそのビジネスモデル上、リベートによって扱える商品や置かれる棚が変わってくると言われている。一般にIP商品は利益率が高くリベートが払いやすいので、結果として顧客の目につく場所への露出が増える。他方で知育商品などは原価率が高くなる傾向にあり、リベートは支払いにくく、消費者が購入する機会が減ってしまう。つまり機能的なおもちゃだったり知育商品だったりにもニーズはあるが、消費者の目に届かないのだ。トイサブ!はこの状況を変革していく。
志田氏によると、アメリカにも類似のビジネスをしている企業があるらしい。しかしその会社はキュレーションEC型のビジネスモデルを採用している。当初はこれも参考にしたらしいが、買っても使われなかったらもったいない、日本の住居は狭いのであまりモノを増やしたくない、というユーザの声もあり、最終的にサブスクリプションモデルに行き着いたそう。
サブスクリプションやレンタルは、たとえばファッション分野で進んでいると思いますが、始めたのはスタートアップでした。おもちゃも業界の中からこの考え方は出て来ないと思います。業界の外モノだから、できることがあるとおもっていますし、まだまだおもちゃ業界はよくできると思っています。
データを活用したおもちゃ製造へ
月齢にあったおもちゃを提供し、本当にこどものためになるおもちゃを提供しているトイサブ!。今後の展望はどのように考えているのだろうか。
先ほども申し上げましたが、おもちゃに対するデータが溜まってきていまして、このデータはトイサブ!でしか保有していません。このデータを活かして長期的には自分たちでおもちゃを作っていきたいんです。
知育玩具のように、機能性をもった素晴らしいアイテムはたくさんあり、トイサブ!ではそれらをユーザに使ってもらっている。他方で誤飲や怪我の可能性、耐久性や安全面からもっと改善できる余地があるアイテムも多いそう。トイサブ!ではデータを使ってこのようなアイテムの改善もしていくといいう。
また現在は、0-4歳の乳幼児がメインターゲットとなっている。中期的には対象年齢の拡大も考えているそうだ。
自分たちだけでビジネスを大きくしていくのではなく、こども向けのビジネスやママ向けにサービスを運営している方とパートナーシップを組みながら、トイサブ!を成長させていきたいと思います。
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
podcastでもインタビューを配信しています。興味がわいた方は是非こちらも聞いてみて下さい。
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boat」「pilot boat cast」を運営。