「ココヘリ」でヘリコプターを派遣。5km離れた山岳遭難者を救助する。

近年人口が増えている「登山」ですが、気をつけなければいけないのは「遭難」。「ココヘリ」を持っていれば、ヘリコプターがすぐに救出に向かえます。「人の命に関わる事業」に取り組むオーセンティックジャパンの久我代表に、お話を伺いました。

 

山岳遭難を救う、福岡発スタートアップ

レジャー白書によると、2016時点の登山人口は650万人。遠足などで登っている人もいるので、趣味で登山している方はざっと500万人。この数字はゴルフや野球、テニスより多いみたいです。近年は山登りブームで登山人口は年々増えているそう。

山登りで気をつけなければいけないのは「遭難」。2015年の遭難・死亡・行方不明を合計すると約3378名。交通事故の死者が約4117名であることを考えると、山の危険は語るまでもありません。

今回登場していただくスタートアップはオーセンティックジャパン。開発する「ココヘリ」「ヒトココ」は、登山での遭難を解決しているサービスです。代表取締役の久我さんにお話を伺いに、福岡本社まで行ってきました!

オーセンティックジャパンの久我代表。

 


オーセンティックジャパン株式会社 代表取締役 久我 一総(Kuga Kazufusa)

1978年福岡生まれ福岡育ち。2001年 西南学院大学文学部英語専攻卒。
2002年パナソニックシステムネットワークス(株)入社後、SCM部門を経て商品企画部門に異動し、海外市場向け無線機器を商品化。
2012年に同社を退職後、現職に。2014年1月に「ヒトココ」を発売開始。

 

遭難による行方不明は、7年間死亡認定されない

遭難。人の命にも関わる重いテーマです。遭難というと山岳保険を思い浮かべる方もいるでしょう。しかし山岳保険はその性質上、必ずしも使い勝手のいいものではありません。

遭難すると遺体が見つからない可能性も高いですし、遺体がないと死亡認定ができません。当然葬儀もあげられませんし、生命保険もおりません。会社も無断欠勤になってしまい、それが続くと解雇せざるをえませんし、退職金ももらえません。生きていることが前提となっているので、保険料も払い続ける必要があります。死亡認定には7年かかりますが、その間にお子さんが成人したり、お金が必要な時期は過ぎているかもしれません。

脅すような感じになってしまいましたが、このような状況を避けるためにも、遭難のリスクを下げることは非常に重要なのです。

 

「ヒトココ」と「ココヘリ」で山岳遭難を救う

そもそも遭難をはじめとした山岳事故はどのように起きるのでしょうか。もとろん道を間違えることもありますし、滑落、心臓発作などの突発的なアクシデントも多いようです。携帯電話を持っていれば救助も呼べますが、山では電波が通じていないこともありますし、バッテリーが切れてしまうかもしれません。なにより、山で事故にあうのは非日常。パニックになり普段はとらない行動をとってしまうことも多いのだとか。

一人で登山をしていたら、発見が遅れる可能性だってあります。家族が異変に気づき、警察などに連絡するのは翌日以降になってしまうというケースも珍しくないそう。

運良く通報できると、救助隊がヘリコプターなどで出動します。しかしヘリコプターから、どこにいるかもわからない人をみつけるのは至難の技。ヘリコプターが近くを通っているのに救護人を発見できず、素通りしてしまうことも珍しくありません。

そこで登場するのが、オーセンティックジャパンが展開する「ヒトココ」と「ココヘリ」。ヒトココは電波を発信する携帯端末。数km離れたところからでもその場所がわかるというプロダクトです。他方のココヘリはヒトココの電波をキャッチして、ヘリコプターで救助に向かうというサービスになっています。

 

遭難者を探す時間を圧倒的に削減

まずはヒトココから紹介。ヒトココは大きめの消しゴムサイズで、わずか20gの携帯端末。トランシーバーのようにそれ自体が電波の発信機になっています。一回充電すれば3ヶ月間ほど使用が可能。

ヒトココの受信機(左)と、発信機(右)。発信機はカメラのレンズキャップ程度の大きさしかない。

 

使い方は簡単で、登山する際にヒトココを持ってもらうだけ。登山届け通りに帰ってこなかったり、家族が異変を察知して通報してくれれば、すぐにヘリコプターが出動します。

ヘリコプターが出動する際には、発信機から電波を受信するレシーバーを持って遭難現場に向かいます。ヒトココの発信機からの電波は最大5km先から検知が可能で、雪山でも問題ありません。この仕組みを使った救助は、出動から5分ほど、かかったとしても十数分で遭難した方のところへ到着するそうです。早い。

このようにヒトココを持っていれば、位置の特定や捜索の時間がぐんと減るわけです。

 

1日10円、年間3650円でヘリコプターが出動

「救助しなければいけない方をすぐに見つけられる」だけでも嬉しいのですが、ココヘリの効果はこれに留まらないそう。

まずは安心感の醸成。普段から訓練しているような方ならいざ知れず、一般の方が山で遭難したらパニックになってしまい、普段では絶対に取らない行動をとってしまうこともあるようです。しかしヒトココを持っていれば、万が一迷っても絶対にみつけてくれるはず、と安心できるそうなのです。先日も一般の方が遭難しかけたらしいのですが、安心感から冷静な行動がとれたのだとか。

第2に二次災害リスクも減らしていること。ヘリコプターではなく、捜索隊が歩いて遭難者を探すこともありますが、その際に絶対に気をつけなければいけないのは二次災害。そのため捜索隊にヒトココを装備してもらい、二次災害を防止するという取り組みも実施されているそう。東京消防庁のハイパーレスキュー、警察、自衛隊の一部ではすでに導入が始まっています。

そして費用の面でも効果が大きいのです。

ヒトココは初期投資なし、年間3,650円です。一日あたり10円の計算ですね。何百万円とかかるかもしれないコストが年間それだけになるんですから、顧客は迷う意味がありません。

 

1日10円で遭難者を救う

救助のためにヘリコプターを呼びます。警察などの出動は費用がかかりませんが、もし民間の会社にヘリコプターでも捜索を依頼することになれば、1分あたり1万円のコストがかかります。人名がかかっているとはいえ、決して安い金額ではありません。

ところがヒトココの使用料は、年額わずか3,650円。1日10円の計算です。これでヘリコプターを1事案につき最大3回9時間、つまり540分のフライトをすることが可能になります。金額にすると540万円。これが年額3,650円で保障されるのですから、決して高くはないでしょう。

 

たしかにヒトココを使用するとコストは抑えられるし発見する確率も上がりそうですが、そうすると山岳保険は使わなくなるのでしょうか。

登山人口の52%が山岳保険に加入しているというデータがあります。登山人口が全体で600万人として、半数の300万人がすでに山岳保険入っているんですね。つまり自分には遭難、生命のリスクがあると認識している方々がこれだけいるんです。彼らにとって3,650円は決して高くありません。結果として保険だけでなく、ヒトココと両方に加入していただいているユーザも多いのが現状です。家族への迷惑は最小限にしたい、という方が多いようです。

 

災害が多い国だからこそ、人の命に関わる事業を

ヒトココの仕組みは当然海外でも使用可能。たとえばヨーロッパでも登山は盛んです。ヨーロッパでも山で遭難者を発見することは相当に苦労しているようで、そこにヒトココが導入されれば発見率を劇的に改善できる可能性があります。

また現在は山で使われているヒトココですが、仕組み的には海での使用も可能。海でも使えないかとの問い合わせも多く、将来的には海でも使えるようにしたいとのことです。

最後に、オーセンティックジャパンの今後についても伺いました。

オーセンティックジャパンの目標は100年続く会社を作ることで、事業ドメインは「人の命に関わること」です。日本は自然が豊かで、だからこそ自然災害やリスクが多い国ですよね。人の命に関わる事業をする素地があるのです。便利なことや楽しいことはスマホにまかせて、我々はこれからも、命に関わる事業に取り組んでいきます。

 

オーセンティックジャパンの福岡オフィスは、元々小学校の図工室。

 

インタビュー内容はpodcastでも配信しています

podcastでインタビュー内容を配信しています。テキストより情報が詰まっていますので、興味がわいた方は是非こちらも聞いてみて下さい。

AUTHOR
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boatのブログ」「pilot boat cast」を運営。

 

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