JobQは転職やキャリアに関するQ&Aサービス。質問を投稿するとインターネットの向こうで誰かが回答してくれる。JobQを覗くと抽象的なキャリアの質問から、具体的な社名付きの質問まで、ありとあらゆる質問が投稿されている。一つひとつの質問が少しずつ資産になっていき、今では検索でも上位に表示されるようになってきている。
JobQを運営するライボ代表取締役の小谷氏に、jobQやユーザが抱えているニーズまで話を伺った。
株式会社ライボ 代表取締役 小谷 匠(Odani Takumi)
1990年兵庫県生まれ。
大阪府立大学工学部を卒業後、人材系スタートアップへ入社。累計70社を超える企業に対し法人営業と採用支援を行う。
その後、WebエンジニアとしてWebサービスの開発、採用企画サイト制作に従事。
同社を退社後は、フリーランスWebエンジニアとして受託開発を中心に活動。
2015年2月、株式会社ライボを創業。
自らエンジニアとしてプロダクト開発もおこなう。
「個別具体的な質問」とインターネットで、個人の疑問に回答する
「個別具体的な質問」。インタビューで印象になった言葉だ。
PCやスマホの発達によって、我々はあらゆる情報に適時に接することができるようになった。ニュースはTwitterですぐに流れてくるし、ニュースキュレーションアプリもある。オピニオンリーダーをフォローすればその業界の知見も溜まっていくし、わからないことは「ぐぐれば」調べられる。欲しいものはアマゾンや楽天でだいたい購入できる。ミレニアル世代やZ世代の中には、Google検索ではなくInstagramのタグから食事するところを決める人もいるらしい。
じゃあ我々は欲しい情報をなんでも手にできるようになったのだろうか。答えは”No”。「言語化できない」「どう検索していいかわからない」「そもそも知らない」ことはググれないし、アマゾンでも商品にたどり着くことができない。
そこで登場するのが「個別具体的な質問」。カテゴライズされた質問や万人に共通の質問ではなく、抽象的な質問や専門性の高い質問をするのだ。オフラインならいざしれず、インターネットを使えば回答が集まっていく。
ファッションや食・音楽など、とくにライフスタイル分野ではその傾向が強いのかもしれない。以前記事化した「FACY」はチャットで「個別具体的な質問」を叶えているし、Spotifyならリコメンドという形で新しいアーティストに出会わせてくれる。食や不動産といった分野でこの課題に挑戦しているプレイヤーは日本でも登場してきている。
さて本日紹介するサービスは「JobQ(ジョブキュー)」。キャリアという分野もまた、必ずしも検索では対応しきれない分野だ。JobQはQ&Aというかたちで、「個別具体的な質問」に回答している。
質問先行型、キャリア特化のQ&Aサービス
JobQはキャリアや転職に特化したQ&Aサービスだ。匿名で就職・転職・キャリアに関連した質問を投稿すれば回答をもらうことができる。2016年にスタートして月間ユーザは30万人(2017年12月現在)。コンテンツはどんどん溜まっていくので、検索経由でもユーザ数も伸びている。
もし転職経験のある人だったら、転職掲示板のような、似たサービスがあると思った方もいるかもしれない。
他サービスの場合はお題があって、それに回答していく「回答型」のサービスが多いように思います。他方でJobQは「質問先行型」という点が大きく異なる点です。
前者だと回答は集まりやすいのですが、あまりに具体的な質問や回答は難しくなります。しかし質問先行型のJobQなら、自由に質問することが可能です。我々はこれを「パーソナライズされた質問」「個別具体的な質問」と呼んでいます。(小谷氏)
JobQの質問者には若手のビジネスマンが多い。これは単純に若い人のほうがネットに慣れているということもあるだろうが、年齢が高くなると人脈が増えてきて、オフラインのネットワークを使って転職することが多いからだ。
JobQのサイトを見てみると、まずはカテゴリが目に入る。「キャリア」「転職」「就職」以外にも「ビジネス」「スキル」「雑談」といったものがある。「文系女子大学生ですが、福利厚生が充実している企業はどこですか?」「年上の部下に対してはどのようにアプローチすればいいでしょうか?」という抽象的な質問から、「xx社の年収について」といった個社名が挙がっている質問もある。聞けば、親会社と子会社では社風が違うこともあったり(とくに買収されてグループ入りした会社などはその傾向が強そうだ)、この手の質問は多いそう。
また職種が変わるような、つまり「営業からマーケティング」「バックオフィスからエンジニア」といった転職では、転職者は新しい職種のことに詳しくない。なのでこの手の質問も多いようだ。
回答のインセンティブは「承認欲求」
逆に回答しているのは一体どういうユーザなのか。聞けば「元社員の方が回答しているケースが多い」(小谷氏)とのこと。
回答するインセンティブは主に2つあるようです。ひとつは前職でお世話になった、成長できた、いいキャリアを伝えたと感じていること。こういった方々は良かった体験を他の方にも広めたいと考えてくれ、積極的に質問に回答してくれています。
もうひとつは承認欲求ですね。人間誰しも自分知っていることを聞かれたら嬉しいものです。たとえば私は社長でありながらエンジニアでもあるので、「エンジリアニングしながら事業開発をするコツ」などを聞かれるのは嬉しいんです。
JobQでは会員登録の際に、今までにどんな会社で働いていたかを入力する。それをもとに質問者や回答者にタグを割り当てている。たとえばA社に関しての質問が出てきたら、A社に所属している(していた)人に通知がいって回答を促す、という仕組みになっているそうだ。
質問の回答率は80-90%程度。さすがに具体的すぎる質問には回答がつかないこともあるが、ほとんどの質問には回答がつく。ユーザの中には自分が回答できる質問を探してまで回答してくれる方もいるそう。
また企業の人事部で登録している人もたくさんいる。自社がどういうふうに映っているのかを確認し、それを採用活動にフィードバックしているというように使っている方が多いようだ。
フローコンテンツを積み上げてストックに
今のJobQのモデルは最初から考えていたものではなく、小さなピボットを繰り返しながらたどり着いたものだった。
JobQを始めた当初は、SNSやバイラルと相性がいいと思って力を入れていました。でも蓋を開けてみたら、検索とすごい相性がよかったんです。
転職サービスってずっと使い続けるわけではないですよね。なので転職を考えていないときに通知が来てもアクセスされないんです。だったら必要なときに必要な方がアクセスできたほうがいいだろうということで、検索流入を意識した設計に切り換えました。
冒頭で「個別具体的な質問」の話をした。もちろんこれならパーソナライズされた質問に回答することができる。そして回答が溜まれば溜まるほど、検索されるコンテンツも増えていくのだ。JobQは地道に質問と回答を増やしていき、その甲斐あって今ではたとえば「<社名> 社風」「<業種> 未経験」などの検索結果で上位表示することが多くなってきている。
JobQは自分のためのサービス
小谷氏にJobQを開発しようとしたきっかけを聞いたところ、「そもそもJobQは自分のためのサービスなんです」とのこと。
小谷氏は前職でもともと法人営業を担当していた。しかし体調を崩してしまい、しばらく休職。その間にプログラミングを学び、それもあってエンジニアとして復職することになった。
突然エンジニアとして働くことになり、右も左もわからなかったので色々な人に相談しました。当然エンジニアの方の意見は参考になります。私はたまたま近くに相談できる人がいるからまだ良かったですが、相談相手がいないケースもあるでしょうし、ネットで聞けたらもっと楽だったかもしれない、と感じたのです。
復職した小谷氏は、エンジニアとして活躍。しかしもともと起業を志していたことに加えてエンジニアリングのスキルもついたということで、会社を退職し、ライボを創業。JobQをローンチした。
検索から、一歩先のサービスへ
キャリアのQ&Aサービスとしての地位を築いているJobQ。現在も一部転職エージェントとは連携しているそうだが、次の展開として自らが転職エージェントになることを視野に入れているそうだ。
近頃HR Techのスタートアップから聞こえるのは、大手で既存の転職エージェントの限界だ。もちろん大手なので求人数は多く、選択肢は多い。エージェントが共感してくれたり、背中を押してもらえることが転職のきっかけになることもある。
しかしエージェントが若すぎたり、文系バックグラウンドのエージェントだとクリエイティブ職をサポートしきれなかったりという課題があるのも事実。またKPI管理をしようとすると、どうしても面接数や採用決定数が指標になってしまう。つまりエージェントが会社の論理で動いてしまい、転職者中心になっていないというのだ。
JobQはこの問題に挑んでいく。たとえば各ユーザがどういった質問をみているかといった情報を収集。特定の企業や業界をチェックしていたら、その会社への面接に誘導するなどの導線を作る。つまり相談から、実際に転職するという次のステップへ事業領域を拡大するのだ。
昨今は「働き方改革」がキーワードになって、労働のあり方が問われています。人間は生きているうちの半分は仕事をしているので、自分が活躍できるキャリアを築くというのは大事なことです。
転職とは一時的なアクションであり、当たり前ですが働いている期間のほうが長いんですよね。ライボのビジョンは「個が活躍する社会をつくる」。これを叶えるためには、転職時だけでなく働いている期間もサポートしていきたいと思っています。
就職・転職時やキャリアのQ&Aに始まり、その範囲を拡大しようとしているJobQ。まずは質問してみたり、回答できる質問を探してみてほしい。
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
podcastでもインタビューを配信しています。興味がわいた方は是非こちらも聞いてみて下さい。
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boat」「pilot boat cast」を運営。