【食べチョク】野菜・肉・魚・酒。直販で生産者のこだわりを伝えるオンラインマルシェ

pilot boatで紹介したスタートアップのその後をお伝えする、シリーズ【SEQUEL】。今回はオンラインマルシェの食べチョクだ。

こだわり食材を生産者から直販で購入できる食べチョク。好きな野菜を選ぶだけでなく、サブスクリプションでオススメの野菜や果物を送ってくれる機能も、消費者向け・飲食店向けに開始した。前回取材したときには農作物だけの取り扱いだったが、直近で肉・魚・酒の取り扱いを開始している。

前回からのサービスアップデートから、データを使った生産者支援の未来まで、食べチョクを運営するビビッドガーデンCEOの秋元氏に話を伺った。

(インタビュー:2019年11月)

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役 CEO 秋元 里奈(Akimoto Rina)

神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業した後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業。

 

 

消費者にも飲食店にも産地直送の野菜を届ける仕組み

「食べチョク」はこだわりをもった生産者が集うオンラインマルシェで、消費者が生産者から直接食品を取り寄せられるマーケットプレイスだ。農家はこだわってつくった野菜や果物を食べチョクに出品。消費者が購入すると、農家が穫れたてで新鮮な野菜を産地直送で送付してくれる。

既存の農業流通は、大規模農家を前提として制度設計されている部分が少なくない。例えば同一の生産物は同一の値段で販売しなくてはならないルールとなっている。つまり味や品質、肥料にこだわり生産している農家は、努力を価格に反映できないのだ。そんな農家でも、食べチョクを使えば既存の流通を通さなくてよいため、価格を自由に設定でき、販売できる。

 

またビビッドガーデンは、都度購入の「食べチョク」に対して、野菜のサブスクリプションである「食べチョク コンシェルジュ」を展開。通常の食べチョクはマーケットプレイスであるが故、「どの農家から買ったらいいかわからない」「選ぶのが大変」というユーザーも一定数存在するという。野菜はどうしても購入頻度が高い商材なので、都度選ぶのが大変なのだ。その点「食べチョク コンシェルジュ」は1回あたりいくらかを決めて、その範囲内でユーザの好みに合う農家や野菜を、ビビッドガーデンが選定して送るというサービスになっている。

食べチョク コンシェルジュの利用に際しては、事前に嫌いな野菜やよく作る料理、頻度、珍しい野菜が欲しいかなどのアンケートを取り、それに合わせて農家・野菜を選定。ユーザは送付の度にフィードバックを送れて、例えば「まだジャガイモは大量にあるから、次回はジャガイモはいらない」「これは嫌いではないけど入れないでほしい」といった細かいニーズにも対応している。その成果か食べチョク コンシェルジュは90%という高い翌月継続率を誇っている。ユーザからは「自分じゃ買わない野菜が届いた」とポジティブな感想が多いようだ。

また食べチョク コンシェルジュの果物版である「食べチョク フルーツセレクト」も2019年10月から展開。食べチョク コンシェルジュを運営する中で「果物を定額で届けてほしい」「旬の果物を実家に送りたい」といった声を受けてのリリースだ。次いでリリースしているのが「食べチョクPro」。食べチョク コンシェルジュの仕組みを飲食店向けにしたようなサービスだ。

(image: ビビッドガーデン)

 

新鮮なオーガニック野菜を生産者から入手したいというニーズは、当然ながら消費者だけでなく飲食店でも高い。しかし飲食店としては野菜がランダムで来ても困る。そこで食べチョクproではビビッドガーデンが農家を選定し、ある程度の量を仕入れられる野菜を飲食店向けに送付するという仕組みだ。

そもそも飲食店がこだわり野菜を定期的に仕入れようとすると、今までは自分たちで直接生産者と繋がって仕入れるくらいしか手がなかった。ECで野菜を仕入れる仕組みも整ってきてはいるが、産地直送は少なかったり、飲食店が毎回自分で野菜を選ぶのは時間がかかりすぎてしまうという課題がある。このような課題を解決するのが食べチョクProだ。

飲食店の最優先事項は集客。なので仕入れは二の次になっちゃいがちなんです。仕入れのために情報をチェックしたり、生産者とやり取りするのはかなり手間がかかってしまいます。それが食べチョクProの場合は産地直送で、しかもコンシェルジュ形式なので手間なくマッチする食材が送られてくる。これが飲食店側のメリットになっています。(秋元氏、以下同様)。

 

食べチョクproのユーザには「食材にこだわっているフレンチやイタリアンのレストラン」「オーガニックカフェやサラダバーを提供しているようなカフェ」「コールドプレスジュースなどのジュース店」が多いそう。特にコールドプレスジュースはオーガニックにこだわることも多い。ジュースにするので品質は高いが型崩れしていて、一般向けには卸せない商品でも問題ない。農家としても収益が増える可能性のあるありがたい販売先だろう。

肉・魚・酒も新たにリリース

ビビッドガーデンは2019年7月、「肉チョク」「魚(ウオ)チョク」「酒チョク」をリリース。名前の通り「食べチョク」の肉、魚、酒バージョンだ。肉チョクでは牛肉や豚肉などの畜産物を、魚チョクではマグロやウニ、海鮮などの水産物を取り扱う。

農作物のマーケットプレイス『食べチョク』で肉・魚の取り扱いを開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000025043.html

もともと、「食べチョク」を立ち上げるタイミングから肉など野菜以外を扱う予定でした。なのでサービス名が「ベジチョク」などではなく「食べチョク」なんです。

ただ構想としてはあったんですけど、ヒアリングをしていると野菜が売れづらいという課題が重く、野菜から始めることにしたんです。

 

秋元氏によると、野菜、肉、魚、酒が並ぶと、どうしても肉や魚が注目されてしまうのだという。そのためすべて横並びで始めると肉や魚が目立ち、野菜はあまり買われないという事態になりかねなかった。そのためめずは野菜からサービスインし、今回遅れて肉、魚、酒をリリースしたのだという。

また購入頻度の問題もあるだろう。例えば魚は旬があるので「シーズンだからカキを注文しよう」といったように、シーズン毎の購入になってしまうと取引回数が減ってしまう。手数料モデルを採用する食べチョクとすれば、購入頻度の高くなる野菜を最初に検証したいというビジネス的な判断もあったと推測できる。もちろん秋元氏が野菜農家出身で課題が明確だったという事情もあるだろう。そしてこの度、先述したコンシェルジュなどの仕組みも整い、野菜を定期的に買ってもらう仕組みができたこともあって、肉や魚にもサービスを拡張したというわけだ。

(image: ビビッドガーデン)

 

ビビッドガーデンは野菜をオーガニックなものに限定しているように、肉・魚・酒にも取り扱い方針を定めている。

 

肉チョクではホルモン剤や抗生物質を極力使用していない、適切な畜舎環境で育てられている家畜の肉を取り扱っている。肉は流通構造の都合もあって特に、消費者に直販している事業者は少ない。だからこそ食べチョクで安全な肉を直販する意義は大きい。

魚チョクの特徴は「持続可能な漁業」だ。SDGsに「海の豊かさを守ろう」という項目があるほど、海の環境汚染は世界的な課題となっている。海の環境資源を守るためには乱獲しない、生態系を崩すような稚魚は取らないという持続可能性に対する取り組みが重要になっいる。これらを踏まえ魚チョクでは、持続可能な漁業に取り組んでいる生産者による魚のみを取り扱い、薬剤処理や化学的な飼料を使っていない等の基準を課している。酒チョクは原材料がオーガニックであること、添加物が入っていないことが基準だ。

 

生産にデータを活用する

今後食べチョクでは、データを生産に活かせるようになっていく可能性がある。実際秋元氏も「データはどう使うかを考えて取らないといけない」と語る。

例えば農業。飲食店としては今すぐ野菜が欲しいということももちろんあるが、1ヵ月後のメニューを決めたり、高級店だったら数カ月先の季節限定メニューを考えることも珍しくない。そのため飲食店には、今後どんな野菜が市場に出ているかという情報ニーズがあるのだ。だが野菜を生産する農家は現状、必ずしもニーズに答えるように野菜を生産できているわけではない。

その点食べチョクは、各農家の野菜がいつ生産されて、いつ出荷されたという過去のデータを持っているので、来年はどの作物がいつ頃出荷されるという予測が可能だ。そのデータを使えば飲食店に、今後出てくる野菜の案内ができる。

生産者ももちろん出荷管理等はしているのだが、管理が手書きだったり来週までの予定しか提供していないということも珍しくない。そのため食べチョクによるスケジューリングは、生産者にも飲食店にも付加価値を生んでいると言えるだろう。

また食べチョク コンシェルジュを開始したことで、消費者の嗜好データも取れる。生産計画にも活かせるだろうし、消費者としては「昨年食べたあの野菜」をリコメンドしてくれるというのは嬉しい限りだ。

 

食べチョクでは中間流通を挟まず生産者と消費者や飲食店が直接繋がるため、生産者がフィードバックを受けやすいという特徴がある。「『何を作ったらいいか』という悩みを持っている」(秋元氏)農家には助かる仕組みだ。

食べチョク内では例えば野菜を仕入れた飲食店が「これ、すごいおいしかったので、多めに仕入れたいです」とリクエストすると、それに対して農家が「今まではちょっとしか作ってなかったんですけど、来年はもうちょっと量を増やしますね」と回答するようなやりとりが生まれている。中間流通を挟んではこのようなコミュニケーションは生まれにくく、言わば食べチョクによる直販の仕組みが、農家のPDCAを回すような態勢を生んでいるのだ。

農家は40年やっても40回しかPDCAを回せない、特殊な業界です。そんな中「食べチョク」に登録している直販したいという生産者は、若い方を中心にモチベーションが高くて、生産物を良くしていきたいという向上心がある方々が多い。毎年新しいものを作ったり、1回のPDCAのチャンスを逃さずに色々とトライされています。そこに食べチョクの仕組みが貢献していきたいですね。

 

また消費者直販の仕組みは生産者にとって、ブランディングにもなっている。実際筆者も食べチョクで野菜を買ったのだが「うちはこういった農家です」というパンフレットが入っていたり、購入者向けに手紙が入っていたりと、スーパーで買う野菜を買うのとは一味違う体験を味わった。こういったナレッジは食べチョクとしても生産者にシェアしているそうだ。

 

米流通大手と提携

ビビッドガーデンは2019年10月に総額2億円のシリーズAファイナンスを発表。VCやエンジェルからも調達しているものの、株主に神明ホールディングス(以下「神明」)の名が挙げられている。同社は神戸を本拠とする米の流通会社。ビビッドガーデンが農業系の事業会社を株主に迎えるのは今回が初めてのこと。

生産者と農家の直販取引(市場外流通)の増加、生産へのロボットの活用、卸売市場法の改正など、農業を取り巻く外部環境はどんどんと変化している。そんな中両社が提携することで、ビビッドガーデンは今後生産者拡大にともなう物流のテコ入れに際しては神明のノウハウが役立てたいし、逆に神明としては事業のIT化に際してビビッドガーデンの知見を活かしていきたいとして、今回の提携に至ったと秋元氏は語る。

実際、米は買い物するには重いこともあって、野菜等と比べてECとの相性はよく、したがって食べチョクとの相性もいい。今後食べチョク内での米の販売テストも検討しているとのことだ。

また食べチョクとしては神明と協力することで、生産者の増加が期待できることはもちろん、例えば「米の食味診断」ができるかもしれない。食べチョクに登録している米が「もっちり」なのか「あっさり」なのか、どういう分布になっているか出せるようになれば、消費者としても楽しんで米を選べるようになる。実際食べチョク内ではニッチな米の登録もあるので、食味診断と掛け合わせられれば、当該米の魅力を訴求しやすくなるだろう。

 

【編集後記】

農業が1年に1回しかPDCAを回すチャンスがないように、一次産業は回転が遅い領域だ。しかも既存の仕組みではこだわりを持てば持つほど、損をしてしまう一面もある。

しかし透明性やトレーサビリティ、そしてストーリーが求められる昨今において、オーガニック野菜や環境に配慮された生産物の価値は、本来的に高まっているはずなのだ。ECという環境が整った今、食べチョクが実現しているのは、そういう価値の高い生産物を消費者に届けることである。

食べチョクは今後、データを活用して生産者を支援していくという。一次産業はデータ活用もまだまだ遅れており(進んでいる業界というのもあまりないが)、だからこそその価値は高い。

生産者と消費者のために次々と新しい施策を打ち出す食べチョク。食べチョクが創る生産の未来に期待したい。

 

インタビューはpodcastでも配信しています

 

制作チーム

TEXT
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO
1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。 2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」、その他スタートアップイベントを運営。得意分野はファッション・ビューティ×テクノロジーをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライター、大手企業向けオープンイノベーション・コンサルティングも務める。
Twitter: @jumpei_notomi

PHOTO
森田大翔(TAISHO)
写真家/映像作家
【写真】 雑誌やWeb広告など、人物を中心に撮影。イベント撮影や企業様の採用写真(Wantedlyなど)も多く撮影。
【映像】 企業様を対象にしたドキュメンタリー映像やメイキング映像が多く、ドローンを使用した撮影も可能。(CM撮影など)
【受賞歴】 “The new generation digital photo contest 2013” 最優秀賞受賞

 

最新情報はLINEで

最新記事を配信したら、LINEでお知らせしています。

Add friends