フェムテック起業家が語る、課題を超えるためにモチベーションが必要なわけ【FemTech Insight #01レポート】

「Female(女性)」と「Technology(技術)」をかけ合わせた造語「FemTech(フェムテック)」。海外では少しずつサービスが登場しているものの、日本ではまだまだ事例が少ないのが現状だ。そこでスタートアップ支援企業ビタミンとpilot boatは共催で、FemTech Insightと名付けたイベントを開催。(なおFemTechの情報共有を目的として、同名のFacebookグループ「FemTech Insight」を運営している)

本イベントではまずpilot boatの納富CEOと、ビタミンの高松CEOから、それぞれFemTechの概観とFemTechの事例を紹介。当日のスライドは以下で公開している。

 

 

2人の講演のあとには、株式会社ashlyn(アシュリン) 代表取締役社長 小島未紅氏、株式会社HERBIO(ハービオ) CEO 田中 彩諭理氏、ビタミンの高松氏(モデレータ)の3名でパネルディスカッションが展開された。以下では書き起こし形式でディスカッションを振り返りたい。

 

起業するための仲間探し

高松:
事業の内容と、事業を展開しようとしたきっかけを教えていただけますか。

小島:
日本初のノンワイヤーブラ専門ブランド「BELLE MACARON」を運営しています。忙しく働いている中で、着け心地のいいノンワイヤーブラを開発したいと思い、アパレル未経験でしたが作り始めました。

株式会社ashlyn(アシュリン)
Representative Director and President
小島 未紅(Kojima Miku)

1991年生まれ、立教大学法学部卒業後、IT企業に新卒入社しSEとして勤務。
2016年5月株式会社ashlyn設立、ワイヤー入りブラが主流の中、着心地×おしゃれを兼ね備えたノンワイヤーブラの商品開発を開始。
2017年7月、ノンワイヤーブラ専門ブランド「BELLE MACARON」を正式に立ち上げ、「Makuake」にてクラウドファンディングを実施、開始8時間で目標達成する。
2018年11月、商品に改良を重ね「24hブラ」として再リリース。
男性主導のランジェリー業界の常識にとらわれず、女性視点でのUX構築が強みとなり、コアなファンを獲得している新ランジェリーブランド。
http://www.bellemacaron.shop/

田中:
HERBIOの田中です。基礎体温を測るウェアラブルを開発しています。もともと私自身にPMS(月経前症候群)があって、会社に行けなかったりしたんです。ピルを飲んでも体に合わないし、基礎体温を測ろうとしたのですが面倒で続かないし正確性も疑わしかった。友達にも似たような方がいて、だったら寝てる間に違和感なくつけられて、簡単に測定できるものがつくれないかと思ったんです。それで研究者の方と一緒に起業しました。

株式会社HERBIO
CEO
田中 彩諭理(Tanaka Sayuri)

大学・専門職大学院と臨床心理を専攻し、女性心理について学んだ後、社会福祉や精神保健の現場で支援実務を行う。
人材会社を経て、教育系ベンチャーにて新規事業立ち上げをし、営業管理、経営企画に就任。自身の長年の体調不良などの経験から、テクノロジーで社会課題を解決する事を目標にIoTベンチャー5人目の正社員として経営企画、コーポレート担として参画しハードウェアの現場を学ぶ。
2017年9月に研究者である共同創業者をスカウトし、株式会社HERBIOを設立。
急な月経や重いPMS症状に悩まされていたこと、介護していた祖父の熱による逝去するという自身の経験から、身体におこる症状と深部体温の関係性に着目する。そして基礎研究からスタートし、深部体温と身体の変化に相関性があることを立証する。現在は研究結果をもとにウェアラブルデバイスを開発しているIoTスタートアップ代表。
https://herbio.co.jp

 

高松:
研究者の方というのは知り合いだったんですか?

田中:
全然知り合いじゃないです(笑)

基礎体温を測るウェアラブルを作りたいと思ったものの、ハードウェアの知見がまったくなかったので、いったんハードウェアのベンチャーに飛び込みました。それで開発の知識はついてきたのですが、肝心の基礎体温についての知見がない。そこで女性の基礎体温を研究している方を片っ端から調べて、現在のCRO(Chief Reserch Officer)にあたりをつけました。そこからFacebookをネットストーキングして(笑)、一緒にやらないかと声かけしました。

高松:
小島さんは逆にお一人ですよね?

小島:
社員としてはひとりです。商品開発時など必要なときに、プロジェクトを作ってチームを組んでいます。とくにデザイナーは、日本を代表するような企業でブラジャーやノンワイヤーブラなどの開発に関わっている方が参画してくれています。

高松:
その方々とはどうやって知り合ったんですか?

小島:
起業したときのプロセスにも関わるのですが…。

そもそも私はSEで、アパレルの知識はありませんでした。会社もまだ設立してなかったので、縫製工場に「ブラジャーを作りたい小島です」って個人名で電話したんですけど(笑)、まぁ門前払いです。工場だけじゃなくてアパレル系商社にアプローチをしていく中で、少しずつ実現のメドがついてきました。その過程でデザイナーに伝がある方がいて、紹介いただきました。

 

課題はモチベーションで乗り越える

高松:
アパレルの知識がない上での交渉なんて、すごいタフだったのと思います。そこまでできる動機はなんなんですか?

小島:
着け心地のいいブラジャーでありながらかわいいデザインの商品というのは、自分がどうしても欲しいアイテムで、それが世の中にないということに非常に違和感があったんです。周りにヒアリングしていても自分と同じものを求めている方がたくさんいるのはわかっていましたし、ビジネス的に考えても成功できる商材だと確信していたので頑張れました。

高松:
ありがとうございます。HERBIOはIoTの開発ということで、そういった意味でも苦労もあるかと思います。

田中:
自分一人ではできないので、まずチーミングが必要ですよね。HERBIOで私はビジネスサイドを担当し、CROが深部体温の測り方や研究、アルゴリズムの開発をしています。CTOはシステム構築ですとか、デザイン担当です。

大変なことはたとえば開発の人員だったり、OEM先とのやりとりなど色々あるのですが、事業を進めるうえで最大の課題はやはり「規制」ですね。基礎体温を測る機器は医療機器になるので、その認定をうけなくてはいけません。それがやはりベンチャーにはハードルが高いですね。

高松:
こちらもどういうモチベーションが田中さんを動かしているのですか?

田中:
ちょっと話が逸れるように聞こえるかもしれませんが、基礎体温というのは実は、赤ちゃんの死亡を回避できるかもしれないのです。どういうことかいうと、赤ちゃんの死亡原因で3番目に多いのは乳幼児突然死症候群(SIDS)で、その原因はうつ熱だと言われれています。これは赤ちゃんが寝てる最中に突然死んでしまうというものです。あまりに突然なので、お母さんも気づけない。近年は不妊治療をしている方々も多いですが、せっかく子供ができても、突然亡くなってしまうなんてとてもつらい。

でもその予防に、体温が使える可能性があるんです。現時点で有効な解決策はありませんが、HERBIOの技術を活かすことで、女性だけでなく赤ちゃんの突然死を防げる可能性があります。なので中長期的にはその分野にも取り組んでいきたいなと。

もしHERBIOがこの分野に取り組まなければ、誰か一人が死んでしまったり、誰かひとりが生まれてこないかもしれない。そういう使命感もモチベーションにつながっていますね。

 

FemTechにおける専門家とのコミュニケーション

高松:
お二人とも、市場から戦略を考えるというよりは、原体験が事業に活きているタイプですね。チームの中でご自身の役割といいますか、心がけていることはありますか。

小島:
BELLE MACARONでは商品開発と販売をしているので、2つ目線があるかなと。ひとつは消費者目線。アパレルやパターンの知識がありすぎると、消費者目線になりきれないことがあると思うんです。なのでそういった専門知識はデザイナーやパタンナーに任せて、業界内では言えないような問題提起を意識しています。販売面では、私はもともとエンジニアなのもあって、販売サイトのコーディングなどはすべて自分でやっています。

高松:
専門家とコミュニケーションするというのは、それはそれで大変じゃないですか?

小島:
専門家もそうですし、とくに男性メンバーと開発するのも大変です。男性に開発中のブラジャーについてのここをもっとこうしたい、ここがサンプルの課題ですよねと言っても、男性は普段ブラをつけないから、うまく伝わらないんですよね。なのでもう思い切って私がランジェリー姿になって、男性メンバーもいる中で、細かい胸の動き方や着用感を直接伝えました。

これが洋服や靴だったら実際の使用感もわかってくれるかもしれませんが、ランジェリーは女性のものだから、男性には簡単に共感してもらえない。多くの会社ではフィッティングモデルを用意するのでしょうが、私は経営者の立場だし、それでいい商品が作れるならと、実際に自分でフィッティングをしてパタンナーの方と改良を重ねていきました。それでやった結果、本当に商品が良くなりました。思い切ってやって良かったですね。

高松:
専門家という意味では、田中さんも研究者との会話が難しいこともあるんじゃないですか?

田中:
一般論ですが研究者は論理だってますよね。先行研究の論文などの論文もありますし、議論するには感覚だけではダメで、ちゃんとした言い分が必要というのはあります。

とはいえ私自身の強みだし、やらなくてはいけないのは「これとこれをかけ合わせればできるんじゃないの?」と突き通すことです。研究者の言語は理解しつつも、作りたい世界観をぶつけています。

とくにHERBIOはヘルスケアの会社。先ほども申し上げたように規制などもあって、5年先、10年先を見据えた戦略が必要です。社内はもちろん外部とのコミュニケーションも大事ですね。

 

女性向けの市場では、認知度アップが必要

高松:
その流れで今後活動についても教えていただけますか。

田中:
国内では薬事法などに対応しながら、事業開発を進めます。最初は女性用の基礎体温を測るデバイスとして展開していきますが、将来的には赤ちゃんや更年期の方の体調を管理も睨んでいます。

高松:
とくに子供向けの可能性にはワクワクしますよね。言葉もしゃべれない子供たちに向き合うという意味では、IoTデバイスは相性がいいように感じます。

田中:
日本だけではなく、海外でも使える可能性があります。深部体温から健康管理するというデバイスは国内外にあるにはあるのですが、私の感覚では違和感なく計測できるというレベルではありません。もちろん海外の規制に対応するのは大変ですが。

高松:
小島さんは今後どういった形で展開していきますか?

小島:
現在は「24hブラ」という売出しをしています。ワイヤーブラと同じようなデザインだけど、ナイトブラとして夜寝てても大丈夫という商品展開です。ただそれをどうやってわかってもらうのか、欲しいと思ってもらうのか、というのが今の課題です。

小島:
実は私はクラウドファンディングを2回経験しています。結果的には成功したのですが、最初のクラウドファンディングの担当者からはマーケティングの厳しさも聞かされていました。「今まで誰も作ったり売ったりしていない商品を『面白そう』と思ってクラウドファンディングしてくれるのは男性がほとんどだよ」って。それは確かに当たっていて女性はブランドだったり、しっかり商品を見極める傾向があるのかなと感じています。なので目新しさだけではく商品を浸透させ、選択肢のひとつにしていくのが、女性向けのサービスには必要。これはFemTech全般にも共通するのかなと。

高松:
たしかに認知度を広げていくことは大事ですね。

小島:
ブラジャーは西洋の服飾文化から来たもので、もともとコルセットのように体を固定したり、良い形、良いプロポーションにするという概念からつくられたものです。なので包み込む、支えると言うよりは、「体型をしっかり固定する」というイメージなんですね。だからワイヤーを使っているし、胸を「寄せて上げて」という表現にあるように、男性に好まれやすい胸を作るという目線も含まれた商品でもあるんです。

じゃあ女性が365日胸の形をキープしていたいかというと、もちろんそうじゃない方もいます。なのに既存のブラジャーが当たり前になっていて、ワイヤーが入っていると言うのが常識になってしまっています。そうではなく女性目線で着心地のいいアイテムを広めたいですね。


高松:
最後にFemTechに興味があるという方々に、メッセージをいただけますでしょうか。

小島:
社会的に起業したり働く女性が増えてくると、次第に女性の声が市場や商品に反映されてくると思います。消費者もメディアがCMでやっているからとか、有名だからとかというよりも、自分で買うものを選ぶとことが増えてくると思います。そういった背景もあって、これからFemTechのが伸びていくのではないでしょうか。

田中:
私自身、もともと起業はまったく考えていませんでした。でも社会を変えたいという人は、声を上げたり、考えて行動すればいいのかなと。それが起業かどうかはわかりませんが、自信を持って前に進んでいただきたいです。そういう方が増えたらいいなと思います。

高松:
お二人とも、お忙しい中ありがとうございました。

イベント後には懇親会も実施。登壇者とだけでなく、参加者同士のコミュニケーションの多さも印象的だった。

TEXT
peitaro / Notomi Jumpei
Representative CEO of pilot boat, LLC
Born in 1987. Graduated from Business Administration, Meiji University, graduate school of accounting, Waseda University. Passed the Certified Public Accountant examination while in the university. After engaging in auditing accounting with a major audit firm, participated in a venture support company and produced more than 300 pitch / event. In 2017 independently established a joint venture company "pilot boat" and continues to support startups. Pilot boat, runs media which introduces startups in long interviews and conducts toC venture presentation event "sprout", and other startup events. Speciality is Fashion, beauty, technology, lifestyle and culture system toC service. Also serve as a writer on startup and innovation-related theme in various media and consults major companies for open innovation.
Twitter: @ jumpei_notomi
PHOTOGRAPH
Masaru Morita (TAISHO) Photographer / Movie writer
[Photo] Shooting mainly for people, such as magazines and Web advertisements. Shooting a lot of event shoots and company recruitment photos (Wantedly etc.).
[Video] Many documentary images and making images are targeted at companies, and it is also possible to shoot using drones. (CM shooting etc.)
【Award history】 "New generation digital photo contest 2013" Best award won
Twitter: @taishi_jp

 

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