【Laxus】SEQUEL:ワールドによる子会社化で向上する「ユーザ体験」

pilot boatで紹介したスタートアップのその後をお伝えする、シリーズ【SEQUEL】。今回は2019年10月に、アパレル大手の株式会社ワールド(以下「ワールド」)の傘下入り(子会社化)を発表したラクサス・テクノロジーズ株式会社(以下「ラクサス」)を取り上げる。代表取締役社長の児玉氏にインタビューを敢行。事業進捗や子会社化を選んだ背景などを、語ってもらった。

(インタビュー:2019年11月)

 

ラクサス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 児玉 昇司(Kodama Shoji)

広島市出身。シリアルアントレプレナー。早稲田大学EMBA修了。1995年早稲田大学入学半年後に最初の起業。会社売却などを経て、自身4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズ株式会社を創業。 2015年2月、毎月定額でラグジュアリーブランドのファッションアイテムが無限に使い放題(貸したり借りたり)になるC2Cシェアリングプラットフォームアプリ「Laxus(ラクサス)」をローンチ。
ローンチから54ヶ月連続で拡大中。会員数は32万人、流通総額は400億円を突破して推移。毎月の会員の継続率は95%以上。2017年3月までにWiLなどを中心に20億円以上を調達。 国内のシェアリングサービスで利用率、第1位を獲得(※)。今後、NY、パリ、ロンドン、シンガポール、香港での展開予定。NYでの事前登録では、わずか1週間で日本国内ローンチ時の実に3倍超を獲得。※バルク調べ 一般社団法人シェアリングエコノミー協会の幹事を務める。

 

ワールドは62.5%を保有する大株主に

ラクサスが運営するLaxus(以下「ラクサス」は会社、「Laxus」はサービスを意味する)は、高級バッグのシェアリング・サブスクリプションサービスだ。ユーザは月額6,800円(税別)を支払うとバッグがひとつ借りられ、バッグを返却すれば新しいバッグが借りられるという仕組みだ。登録してあるバッグはエルメスやルイ・ヴィトン、シャネルなどラグジュアリーブランドのものばかり。

またラクサスはLaxusX(ラクサス・エックス)も展開。これは個人のバッグを「貸し出す」サービスだ。タンスに眠っているバッグを貸し出し、別のユーザが借りることでお小遣い稼ぎができる。

ラクサスはデータ利用にも積極的だ。例えばすべてのバッグにICタグを設置し、在庫を管理。位置情報も取得できるので、例えばシャネルの店舗に入ったことを確認し、その日の夜にシャネルのバッグがあることをLaxusのアプリからプッシュ通知するといったことも実施している(なお、ラクサスが把握しているユーザの位置情報はお店に入ったときくらいで、常に位置情報を把握しているわけではない)。

インタビュー現在借りられるバッグは34,000個、有料会員は2万人を超えている。子会社化に伴う開示資料によれば、ラクサスの直近の売上は7.5億円(2016年度)、11億円(2017年度)、13億円(2018年度)、営業利益は▲6億円(2016年度)、▲2億円(2017年度)、5百万円(2018年度)。児玉氏によれば2019年度初月には数千万円規模の営業利益を計上しているという。

他方、「TAKEO KIKUCH」「UNTITLED」などのブランドを擁するワールドは、1959年創業のアパレル大手企業。1993年に上場しているものの、2005年にTOBにより上場廃止、2018年に再上場している。近年はファッションアイテムの製造・販売以外にテクノロジー領域にも触手を伸ばし、2018年にハイエンドブランドのユーズドセレクトショップ「RAGTAG」、サブスクリプション型レンタルサービス「SUSTINA」、2019年に米国のカスタムシャツメーカー「Original Stitch」などの運営会社を傘下に収めている。

ワールドの上山社長(左)とラクサスの児玉社長。記者発表会にて

 

さてそんな両社は2019年10月、ラクサスがワールドの子会社になることを発表。ラクサスは元々VCからの出資を受け入れており、買収前の持分比率は社長である児玉氏が45.1%、次いでVCのWiLが29.7%、その他の株主が25.2%を保有。この内ワールドは、VCの持分すべてと児玉氏の持分の一部、計62.5%を約43億円投じて取得する。残りの37.5%、いわゆる拒否権を行使できる分+αは児玉氏が保有し続ける形だ。単純に推測すると、企業価値は約70億円となる。

ラクサスは今後ワールドから100億円規模の資金を受け入れ、成長投資に振り向ける。ワールドから社外役員は受け入れるものの、その他の役員構成や拠点、サービス名や社名などは変わらない。

元々VCが出資していたこともありいわゆるExit自体は不思議でないが、なぜこのタイミングで、なぜ相手はワールドなのか、そしてユーザへは何か影響があるのだろうか。

 

資金調達交渉から買収交渉へ

そもそも本ディールのきっかけは、ラクサスが元々考えていた(VCからの)資金調達だったと児玉氏は語る。ちなみにラクサスの登記簿をみると、前回の(資本金が変動するパターンの)資金調達は2017年3月。資金調達に際して複数のVCや事業会社と交渉しており、そのうちの1社がワールドだったという。

結果から見れば株式取得以外に100億円もの資金を投資すると表明しているのだから、検討を進めるうちにワールドとして子会社化したほうがよいという判断に至ったようだ。

とはいえ「実態としては今の経営陣が継続して経営するのだから、さすがに拒否権は残しておきたかった」との児玉氏の意向や、現在の時価総額、持株割合などを考慮し、ワールドから見て「既存株主からの株式買取+貸付による100億円注入」というスキームに落ち着いたという。

わざわざ100億円注入って表明していただいたことは、ラクサスにとってもメリットがあるんですよね。それはコンペティター(競合)を減らせたこと。

シェアリングエコノミーは最終的には価格競争に陥りやすい。UberだってAirbnbだってそう。でもラクサスは100億円の資金があるんだから、競合が価格競争をしかけにくいと思ってくれるようになりました。もちろんデータを使ったりして価格競争に陥らないように投資したりしてるんですけどね。(児玉氏、以下同様)

 

カネがあっても解決できなかった課題

ラクサスがワールド傘下に入ることを決めた目的はどういったところにあるのか。児玉氏によれば大きく3つの目的があったという。

1つ目はもちろん、前掲した借入による100億円の資金調達。2つ目が新規顧客開拓だ。ラクサスは調達する100億円を原資として、バッグの調達を加速させ「今まで以上にすごくいいカバン」を使えるようにしていく。またワールドにはアパレルブランドを中心に約600万人の稼働会員がいる。この会員のラクサスへの送客を計画しているようだ。これが上手くいけばラクサスはコスパよく新規顧客が獲得できるようになる。

傘下入り目的の3つ目は「人」だ。近年スタートアップの資金調達環境は年々よくなってきており、何なら「カネあまり」とさえ言われている。ところが資金調達はできてもそれを投資する人がいないというのが現在のスタートアップ業界の課題のひとつ。打ち手があっても実行できる人、特に経験ある人がいないのだ。これはラクサスにとっても同様である。そこでワールドと連携し人を送り込んでもらい、どんどん投資していく。

「ワールドから人を送り込む」とは言っても、お願いしたら来てくれるというイメージ。彼らと上手く協力することでラクサスは、もっと質の高いサービスを提供できるようになります。

またワールドの経営者の方々は生え抜きの方もプロ経営者もいて、皆さん経験豊富。彼らは本当にロジカルだし経験を積んでいて、彼らの知恵を拝借できることは本当にありがたい。

またワールドは、必ずしも財務的なリターンを狙っているわけではない。そんなレベルじゃないくらいに大きくなって多方面から貢献することが、結果的に恩返しになるのかなと思っています。

 

ラクサスとワールドの連携でユーザに貢献を

さて今回の買収でワールドの子会社となったラクサスだが、ユーザからすれば独立企業であろうが大企業の子会社であろうが、基本的には関係ない。しかしユーザへ何かしらの影響があるとしたら話は別だ。その点児玉氏は「ユーザにはいい影響しかない」と語る。

1つ目が、前掲したように「より良いバッグ」が借りられるようになる点だ。児玉氏は「今の原価率を50%アップ」を計画。つまりラクサスに、今よりさらに高級なバッグ在庫が置かれるということだ。ラクサスではカバン単位で利益率を把握。原価率を上げても回収できる目処が立っているという。

今より良いバッグを仕入れれば、ユーザ体験のレベルが上がって、チャーンが減ることもデータから分かっています。ラクサスのKPIは原価率ではなく継続率。継続率が1%改善できれば、1.5倍の原価なんてすぐに回収できます。

 

継続率を高めるとは言うものの、ラクサスの月次継続率はすでに平均90%を超えている。toCサービスとしては決して低くない数字だ。逆に退会しているユーザの主な理由は「そもそも借りたいバッグがない」「借りたいバッグが貸出中」など。より良いバッグに投資することで、これらの退会を予防しにかかる。

ユーザメリットの2つ目は、バッグと洋服の組み合わせだ。

 

ラクサスはバッグを紹介する際、ユーザの投稿や洋服とのコーディネートを併せて掲載している(上図参照)。元々はバッグの雰囲気を確認してもらうための施策だったのだが、ユーザから「このコーディネートも併せて提供してほしい」という声が少なからずあったそう。

従前は洋服の写真画像を借りてきて、問い合わせがあったときには借先に送客していただけなのだが、必ずしも在庫を用意しているわけではないので、ユーザのリクエストに答えきれていたわけではなかった。今回の買収を機に、洋服を全部ワールド傘下のブランドに統一し、在庫情報などの連携もできれば「バッグを借りるに際し、そのバッグに合うコーディネートもマルっと購入する」というフローが完成。バッグだけではなく洋服とのコーディネートも提供できるようになる。もちろんCRM連携や、ファッションの嗜好性と相性のいいバッグを提案するといったことも可能だろう。

 

IPO準備は引き続き

ラクサスは今回の買収でワールドの子会社となったものの、引き続きIPOは目指していくとのことだ。具体的な時期は明示しなかったものの、「そんなに遠くない時期に」とのことだ。また今後は、従前から計画していた海外進出も意識していきたいと児玉氏は語る(前回記事参照)。

実は既に商談している海外のセレブリティ・ブランドもあるんですよね。日本から世界に出ていけるビジネスモデルってあまりないので、やっぱり世界に出ていきたいなとは、ずっと思っています。今回の買収スキームはその挑戦のために、ワールドがかなり気を配ってくれました。

まだ私個人としては33%超株を持っているし(笑)、これで終わりではありません。この買収をきっかけに、Laxusをより飛躍させていきたいと思います。

ラクサスを前回取材したのが約1年半前。その間にファッション業界では、サステナビリティやサーキュラー・エコノミーに対する動きが世界的に進んだように感じている。具体的には再生可能な素材の開発や廃棄の減少、リユースなどだ。

Laxusが実施するサブスクリプション・モデルはサーキュラー・エコノミーの文脈にも適っている。実はラクサスはサイトやサービスの中で、サスティナブルについて度々言及している。

 

ラクサスのwebページ

消費者サイドが二次流通品を受け入れる環境が整い、リサイクルできる素材が開発されたりするサーキュラー・エコノミーは、サブスクリプションというビジネスモデルと相性がいい。所有せずとも、必要なときに借りて、使えなくなったらリサイクルしてまた使えばいいからだ。今後サーキュラー・エコノミーや環境保全などの影響力は増していくだろう。

他方、ファッション分野にて世界で支配的なサブスクリプション企業はまだない。児玉氏が語るように、レンタル・サブスクリプションのビジネスモデルは世界で戦える素地が残っているように感じる。Laxusが世界で戦う姿をお伝えできる日を待っている。

会社名:ラクサス・テクノロジーズ株式会社
代表者:代表取締役社長 児玉 昇司(Kodama Shoji)
所在地:広島・東京
設立日:2006年8月
URL    :https://laxus.co/
※情報は記事公開時点のものです。

 

インタビュー内容はpodcastでも配信しています

podcastで取材時のインタビューを配信しています。

 

制作チーム

TEXT・PHOTO
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO
1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。 2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」、その他スタートアップイベントを運営。得意分野はファッション・ビューティ×テクノロジーをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライター、大手企業向けオープンイノベーション・コンサルティングも務める。
Twitter: @jumpei_notomi

 

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