事業会社スピンアウト起業家に投資する「アプリコット・ベンチャーズ」。元CAV白川氏が立ち上げ

 

FinTech、FashionTech、MusicTech…今XTech(クロステック)と呼ばれる、既存産業×テクノロジーのサービスが増加している。これは筆者の持論なのだが、とくに業界の内側の課題を解決するようなサービスは、その業界の出身者が携わるべきだと考えている。一般にあらゆる業界で「IT化が遅れている」と言われているため、何年も特定の業界で働いている人が業界の負を認識し、同時にITの知識をつければ、その負を解決できるサービスが生み出せる。すなわち既存産業からのスピンアウト起業家の支援は、こと産業のIT化といううえで、重要な意味をもつと認識している。toCの領域だとしても、業界の知見があって困ることはないだろう。

pilot boatで紹介した会社だと、女性下着のフィッティングサービスを手がけるFITTINの本間社長は大手下着メーカーの出身だし、BtoBファッションフリマサイトスマセルを手がけるウィファブリックの福屋氏は繊維商社の出身。VisUniteは市橋社長がバンド経験者で、現役アーティストと手を組みながらビジュアル系バンドのためのサービスを運営している。

そんな「大企業や事業会社からのスピンアウト起業家」を中心に投資をする「アプリコット・ベンチャーズ」が、2018年に誕生。代表取締役の白川氏にお話を伺った。

2008年サイバーエージェントに新卒入社。広告部門にて営業職、ゲーム関連子会社にてプロデューサー職/事業責任者として従事したのち、2013年よりサイバーエージェント・ベンチャーズに参画。日本を中心とした創業期のスタートアップ20社の投資活動及び経営支援業務に従事。 2018年より株式会社アプリコット・ベンチャーズを設立し、10億円規模の1号ファンドを組成。慶應義塾大学 経済学部卒。

株式会社アプリコット・ベンチャーズ 代表取締役 / ジェネラル・パートナー 白川 智樹

(インタビュー:2018年06月)
(eye-catch image credit: アプリコットベンチャーズ)

 

スピンアウトした起業家へ投資するVC

株式会社アプリコット・ベンチャーズ(以下「アプリコット」)は2018年06月11日、第一号ファンドとして「Apricot Venture Fund 1号投資事業有限責任組合」を組成したことを発表。ファンド規模は約7億円(今後10億円まで拡大予定)、投資領域は日本を中心とするシードステージのITスタートアップで、主に大手企業・事業会社からスピンアウト(独立)した起業家・スタートアップへ投資する。

アプリコット代表の白川氏は、新卒でサイバーエージェントグループに入社。その中で広告、ゲーム、VC(サイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV))を経てアプリコットを設立。CAV在籍時には飲食店支援のfavyやスポットコンサルティングのビザスクに投資してきた。

いわば自身も事業会社からのスピンアウト(独立)組。明確な線引きがあるわけではないもののスピンアウト×ITスタートアップということで、投資先は25〜35歳くらいの起業家が多くなると予想しているそうだ。(もちろんそのレンジでなくても投資するケースはある)

必ずしも前職の経験を活かした起業である必要はありません。それにこだわって、本当に解決したい課題から目を逸らしてしまったら本末転倒です。とはいえその人のバックグラウンドと紐づく社会課題やサービスだったら、成功確率は上がるとは思います。(白川氏、以下同様)

 

アプリコットはすでに複数社へ投資を実行しており(一部のみ公開)、たとえばオフィス向け無人コンビニの600へ投資している。

 

起業を後押ししてくれるコミュニティ作りも

アプリコットの取り組みで興味深いのは「Guest Dinner」と題して、起業を検討している人が定期的に、先輩起業家の話を聞ける場を設けていることだ。

自分も同じ経験をしたのでわかるのですが、大企業からスピンアウトするという意思決定は簡単ではありません。自分もとある方に、そろそろやってみなよと言われて独立を決めたくらいです。

しかし身近に起業家や相談相手がいない場合だって多々あります。だったら起業を後押しするコミュニティ作りもしなければいけないと思って、月に1回先輩起業家に相談できる会を設けることにしたんです。

 

スタートアップ界隈の中にいると忘れがちだが、昨今スタートアップシーンが盛り上がってきているとはいえ、まだまだ関わりのない人がスタートアップに挑戦するというのは、当たり前のことではない。まして30歳を超えてきてからの起業となれば、家族がいて反対にあってもおかしくない。まわりに相談できる起業家がいない人だって多いだろう。そんなときに先輩起業家と気軽に相談できる場があるのはありがたい。

また起業前だけでなく、投資後の支援も充実を図っている。アプリコットへのLP出資者には、東急不動産とマイナビという事業会社が入っており、それぞれオフィス探し、営業の面で連携をはじめている。アプリコットのオフィスは東急不動産がプロデュースするビルで、投資先も働けるコワーキングオフィスとなっている。またマイナビは言わずと知れた人材の老舗企業。投資先の営業支援にノウハウを借りる。

よくスタートアップが相性のいいVCを探すことを「仲間集め」と表現しますが、これはVCが資金調達するときも同じです。今回は2社の事業会社に仲間になっていただき、共同で投資先のスタートアップを支援していく予定です。

アプリコットのコワーキングオフィス(credit: アプリコット)

アプリコットのコワーキングオフィス(credit: アプリコット)

 

繰り返しになりますが、アプリコット・ベンチャーズは「スピンアウト」「シード期」「ITスタートアップ」を中心に投資するVCです。私はもちろん先輩起業家に相談できる時間も設けていますし、同じような境遇にいる人とも知り合えます。私のSNSに連絡いただければ返信しますので、投資の相談と気張らずに、気軽にお声かけください。

 

「事業会社をスピンアウトした起業家」に対して投資するVC「アプリコット・ベンチャーズ」。スタートアップ起業の裾野が広がっているとはいえ、そもそも起業というのはそんなに気軽なものでもない。同社には相談できる環境もあるし、悩んでいる起業家はぜひ白川氏に連絡してみてほしい。

【白川氏のSNSアカウント】
Twitter: https://twitter.com/shirakawa_t
Facebook: https://www.facebook.com/shirakawa.tomoki.1

 

会社名:株式会社アプリコット・ベンチャーズ
代表者:白川 智樹

所在地:東京
設立日:2018年

U  R  L:https://apricot.vc/
AUTHOR
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター

1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュースとオープンイノベーションのコンサルティングをてがける。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、スタートアップ界隈初心者のためのオンラインサロン「pilot boat salon」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTech / BeautyTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。
Twitter: @jumpei_notomi

 

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