AI接客、ECパーソナライズから内装空間サーキュラー、堆肥化まで、リテールのSUが登場|New Commerce Conferenceレポート

コマース・リテール領域のスタートアップと事業会社の新たな出会いと学びの機会を提供するカンファレンス「New Commerce Conference」が2024年10月30日に開催された。主催はコマース領域に特化して投資する独立系VCのNew Commerce Ventures株式会社。本稿ではそのスタートアップピッチの中から、編集部が注目した4社を紹介する。

なお「コマース・リテール領域」と紹介したものの、以下の図や同社の情報発信を見ていると、New Commerce Venturesはその範囲をかなり広く捉えていることがわかる。イベント当日に行われた10社のスタートアップピッチも、それを反映してか、一般的に「コマース・リテール」と言って想起するものよりも幅広い領域のサービスがプレゼンされたのが印象的だった。

(New Commerce Venturesのwebサイトから引用)

 

スタッフの個性に合わせたAIが接客を実施

AIQ(アイキュー)株式会社は特許AI技術と生成AIを活用して企業のDXを支援するスタートアップだ。ピッチでは「DIGITAL CLONE」を用いた2つのサービスを紹介している。

まずは人のインサイトを可視化する「プロファイリングAI」とLLMの技術を掛け合わせ、本人さながらのコミュニケーションが可能なAIを生成する「デジタルスタッフ」だ。実在するスタッフのSNS投稿をAIに学習させ、当該スタッフのクローンを設計し、接客させる。

例えば「子供の運動会にふさわしい服装を教えて」とAIに尋ねると、洋服をレコメンドしてくれる、という具合だ。スタッフ毎の個性が反映されているため、レコメンドするアイテムにも差が出る。一例を挙げると、小学生の子供がいて運動会の経験があるスタッフは、洋服だけでなく日焼け止めにも言及する。プレスリリースによると、KDDIとはデジタルスタッフを活用したAI接客の実証実験をしており、積水ハウスはデジタルスタッフを活用したサービスを開始しているようだ。

他方の顧客調査ツール「DIGITAL Customer」はデジタルスタッフとは逆に、消費者をクローン化する技術だ。生成されたクローンが企業のインタビューやアンケートに回答する。企業が独自に溜めているアンケートやインタビューデータを反映させてクローンの精度を向上させることも可能。これにより企業の顧客調査コストの圧縮を狙う。DIGITAL Customerの技術はカシオ計算機に導入するなどしているようだ。

 

数ヵ月を24時間に短縮できる堆肥化技術「コムハム」

生ゴミを高速分解する微生物群「コムハム」を販売するのは株式会社komhamだ。

コムハムは所謂「堆肥化」に関連するサービス。堆肥化はゴミの焼却に比べて環境面・コスト面で優れている。そのため海外では普及が進んでいる地域もあるものの、国内では処理に係る時間や臭い、湿気、スペースといった課題があり、浸透していないという。コムハムはこういった課題を解決する。

コムハム最大の特徴は処理スピードだ。一般的な堆肥化が数週間〜数ヵ月かかるところ、コムハムは最速24時間に短縮できる。処理スピードが遅いために完全に稼働できていない従来の処理施設にコムハムを導入することで稼働率を上げられれば堆肥化できる量が増えるため、結果的に施設の売上げ増加に繋がるケースもあるそうだ。

コムハム菌は産廃処理業者等に販売しているものの、もっと広く普及を図るためにコムハム社が開発したのがスマートコンポストだ。ソーラーパネルが付いていて、その発電のみで自動駆動できる。生ゴミの投入データや、コムハムがゴミを分解した量、削減した温室効果ガスの量といったデータを取得できるのも特徴だ。既に大手企業の社内やイベント、離島、自治体で利用が進んでいるという。

 

植物廃棄物を利用した、内装空間のサーキュラーエコノミー

国内では建設業界の高齢化が進んでいる。また近時の資材高や環境負荷低減圧力は、内装事業者や発注者の悩みの種で、イベントに出展するためのコストが2倍になったという話もあるそうだ。

株式会社Spacewasp(スペースワスプ)は、植物廃棄物を家具や内装資材に換えることで、何度でも作り直せる内装空間を創るスタートアップだ。焼却処分されている大量の内装空間を最終的に植物に戻すサーキュラーエコノミーを構築している。

Spacewaspのターゲットの一方は、林業や木材加工、農業事業者だ。彼らが排出する植物廃棄物を活用することで、資材高に関係なくサステナブルに内装空間を作れる。他方が、アパレルやオフィス、展示会といった、空間を介してサービスを提供していたり、空間そのものを運営していたりする空間系の事業者だ。

Spacewaspのソリューションには2つのサイクルがある(上図参照)。一方が植物を中心とした「Plant Cycle」だ(上図の左円)。植物を破砕して再生し、特殊な樹脂になり、3Dプリンタやプレス機械を使って内装資材や家具、床材にする。作成した内装資材等は再度破砕することで、他の資材に生まれ変わらせることが可能だ。

他方のサイクルが「Interior Cycle」だ。ある空間をスキャンし、3Dモデルを生成し、これを元に生成AIが内装を自動提案する。内装が決まったら、3Dデータが分割して生成されるので、それに基づいて資材を成形し、現地で組み立てれば内装が出来上がる。内装は組み立て式なので、施工には練度の高い職人が不要なのも特徴の一つだ。

 

iOSブラウザ拡張機能を用いて、ECのパーソナライズと統一されたUXを同時に実現

ショッピングアシストアプリ「PLUG」を提供するのは、株式会社STRACT。当然ながら各社が提供するECはそれぞれ独立しているので、ユーザー体験もバラバラになる。STRACTはユーザーとEコマースの間のエージェントとなることで、その統一化を目論む。

同社が提供するPLUGは、オンラインショッピング時におけるクーポン・キャッシュバック検索、最安値検索が可能な、iOS Safariのブラウザ拡張機能だ。Safariの拡張機能を設定するだけで利用できる。ピッチ時点では、アップルやアディダスといった1000以上のECサイトで利用可能。2024年7月現在、アプリのダウンロード数は90万を突破している。

 

PLUGには様々な機能が提供されている(上図参照。一部機能は今後実装予定)。例えば「PLUGベストプライス」は、あるECの商品ページにアクセスすると、当該商品が最安値で販売されているショップを通知する機能だ。「PLUGオファー」は、ユーザーの行動データを元に、パーソナライズされたキャッシュバックやクーポンを発行するもの。例えばユーザー毎に還元率等の条件が変更されるなどの個別化がされる。これらの機能を利用することで、ECサイト提供企業は、訪問者のコンバージョン率、リピート率、購入単価が改善し、ユーザーのLTVを上げられる。

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New Commerce Conferenceは、リバースピッチ、トークセッション、スタートアップピッチ、ネットワーキングの4部立てだった。本稿では3番目のスタートアップピッチの一部を紹介した。

なおリバースピッチには、EC・小売・物流領域の事業会社15社が参加し、自社のCVC・オープンイノベーション活動を紹介している。当日は約400名が参加登録していたそうで、リバースピッチには彼らとの連携を目論むスタートアップが、逆にスタートアップピッチには彼らとの共創を企図する大企業が多く参加していたようだ。スタートアップ等によるブース出展も盛り上がっていた。

(執筆:pilot boat 納富 隼平)