こちらの記事は、pilot boatが制作支援したOpen Network Labのオウンドメディアから一部改変の上、転載したものです。元記事はこちら。
Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。シリーズ「Road to Success Onlab grads」では、プログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。
今回紹介するのは、ポッドキャストの制作や、分析システム「PitPaStudio」を開発する株式会社PitPaです。近年成長するポッドキャスト市場では番組もどんどん増えていますが、配信サービスでの視聴データ分析は簡単なものしかできません。しかしPitPaStudioを使えば、どんな方がリスナーなのかの把握ができるようになります。
またPitPaは、デジタルガレージの伊藤 穰一(以下「Joi」)のポッドキャストも制作しており、リスナーイベントでNFT会員証サービスの展開も開始。PiPaStudioやPitPaの歴史からWeb3時代のNFTの活用の可能性まで、代表の石部達也さんに伺いました。
株式会社PitPa 代表取締役CEO 石部 達也
1991年生まれ。2014年に株式会社リクルートに入社し、SUUMOやAirペイ、ゼクシィ縁結びなどの開発に着手。2018年8月より株式会社PitPaを創業。
客観的なデータだからわかるポッドキャスト番組の価値
― PitPaStudioの概要を教えてください。
PitPaStudioは、ポッドキャストの配信・分析システムです。ポッドキャストを配信したら、どんな人が聞いているか、満足してくれているのか等、色々と分析したいですよね。しかし世にあるポッドキャスト・プラットフォーム(ホスティング)のほとんどでは、再生数や年齢、性別等簡単な項目しかわかりません。データは全部プラットフォーム側がもってしまって、配信者はその一部しか見れないからです。
そこでPitPaStudioでは、あらゆる情報を意味づけ・集約し、ポッドキャストの分析をできるようにしています。例えば「平日の朝によく聞かれている」「この番組のリスナーはエンジニアが50%」「東京のビジネスパーソンが多い」といったことが分析システムからわかるようになっているんです。配信者が分析しやすいように、データをCSVでダウンロードできるようにもなっていますし、分析データを元に番組の改善をすることはもちろん、その情報を元にした広告プランもPitPaプラットフォームで作成できます。
― ポッドキャスト版のGoogle Analyticsみたいなイメージですね。リスナーの職業データ等はどのように取得しているのですか?
リスナーにはアンケートで職業や性別、ポッドキャストを聴く頻度、他に聞いている番組等を尋ねて、その回答を参考にしています。単にアンケートを送るだけではなかなか回答してくれないので、番組を聞けばわかるようなクイズを組み込んで、正解者にプレゼントを用意したりします。最近ではNFTをアンケートのお礼に配布したり、リスナーとのエンゲージメントに関する取り組みや施策なども積極的に実験しています。
― データを用いて番組を分析した内容は、想定とは異なるものでしたか?
かなり違いましたね。やはり主観と客観的なデータは違うんだなと感じました。PitPaを利用している「backspace.fm」というポッドキャスト番組では、技術的なテーマに関する内容が多いためエンジニアが多いと思っていたんです。しかし蓋を開けてみたら、エンジニアは25%しかいなくて、経営者層の割合が高いことが判明しました。リスナー属性がわかると、ポッドキャスト広告にも影響します。例えば「fukabori.fm」という番組は90%以上のリスナーがエンジニアやスクラムマスターです。なのでエンジニアを採用したい企業や、エンジニア向けの製品を販売している会社にとっては広告価値が非常に高いことになります。
ポッドキャスト広告はYouTube広告と比較されますが、今、YouTubeの広告単価が上がっているんです。ユーザーが一日で見られる広告の限界まで見だしたので、その中で広告枠を争うことになり、その結果単価が上がっているのだと思います。しかしポッドキャストはYouTubeとは別の時間に聞かれることが多いのでまだまだ余裕があり、単価はリーズナブルです。またポッドキャストは20〜30分程度の番組が多いですが、完聴率が非常に高いのが特徴です。番組にもよりますが、8割程度のユーザーが最後まで番組を聴いてくれる。YouTubeのが20%程度であることを踏まえると、完聴率の高さが際立つと思います。なので番組内の広告価値が高くなるというのが特長です。
人気が出るコツは、リスナーにどんな学びを届けるか
― PitPaはポッドキャストの番組をいくつもプロデュースしていて、番組制作のノウハウもあるかと思います。人気の出る番組の特徴を教えて下さい。
PitPaでは色々な番組を作ってきましたが、そのほとんどが失敗でした(笑)。
ポッドキャストを制作し始めた当初は、人気のTikTokerに恋愛事情を話してもらったり、海外で「True Crime」と呼ばれる犯罪サスペンスが流行っていたのでそれを真似して作ってみました。特に後者は、階段を上がるシーンや扉を開けるときにその音を効果音として組み込んだりと、細かいところまで頑張って制作したんです。ですが再生数は全然伸びなかった。今でもロングテールで聞かれてはいるのですが、制作費をペイできる程ではありませんでした。
数々の失敗を経てわかったのですが、結局、重要なのはホストと番組構成、つまり「誰が何を話しているか」です。話す人がしっかりしていれば、高価なマイクを使う必要はないし、ギミックもいらない。誰が誰に何を届けるのか。当たり前のようですが、これを考えることが重要です。
逆に、例えば「月曜はXさん、火曜はYさん…」とホストを変えている番組は伸びない印象があります。番組と人が紐付いてないといけないんですね。
― PitPaが制作している中では、どのような番組が人気ですか?
誰が何を話しているか、リスナーにとって「学びのあるコンテンツ」と言ってもいいと思いますが、そういう番組は伸びます。それこそ(デジタルガレージ創業者の)Joiさんの「JOI ITO’S ポッドキャスト」ですね。これはJoiさんのネットワークを通じて、世界中から様々なゲストが出演する番組となっています。
Joiさんがテクノロジーやネットカルチャーに詳しいのは周知の事実なので、ホストとしての存在感は間違いありません。先日はLinkedIn共同創業者のReid Hoffman(リード・ホフマン)氏が登場していて、Joiさんのネットワークを活かした番組となりました。
コンテンツとしては海外で流行っているテクノロジー分野の話題を取り上げていて、今だとNFTや暗号資産といった話題を取り上げています。日本語だと情報が少ないものを詳しく解説していて、独自性が高いのは間違いありません。実際、非常に多くの方に聞いて頂いています。
他には、クラフトビールの専門番組「クラフトビールにすべてを」も面白いですね。先日はよなよなエールのことを5回にわけて60分程延々と話していたのですが、そんなに一つのクラフトビールのことを話す機会ってなかなかないと思うんです。お酒好きのリスナーには学びがあったのではないでしょうか。Apple ポッドキャストでもフィーチャーされ、よなよなエールを提供しているヤッホーブルーイングも全面的に協力してくれたのもよかったです。これも、番組内でちょっと話しただけならわざわざ紹介してはくれなかったと思います。ホストの熱量が生んだ動きでしたね。
TikTok運営のダイナミズムを間近で感じて起業を決意
― 石部さんはPitPaの代表でもありエンジニアでもありますよね。PitPaを創業した経緯を教えてください。
私は新卒でリクルートにエンジニアとして入社しました。SUUMO、Airペイ、ゼクシィ縁結び等の開発に携わり、リクルートで4年間を過ごしました。副業が推奨されていたこともあって、中国系の音声関連のスタートアップでも働いていたんです。その会社に投資している会社が、TikTokを運営しているByteDance社にも出資していて、TikTokがものすごい勢いで成長していく様子を端から見ていたのですが、成長のための打ち手がすごかったんです。例えば、Youtube広告をほとんどジャックするくらい出稿したり、音楽業界に新しい商習慣で果敢に交渉に行ったり、それを中国・アメリカ・日本と世界規模で展開していたと聞いています。日本人からすると異常な動きに見えるかもしれないですが、海外のメガベンチャーからすれば普通のことなんだそうです。リクルートも国内では大企業ですが、もっと海外のスタートアップのダイナミズムを感じたい、そう感じて副業していた会社に転職したんです。ただこの話にはオチがありまして、転職してから2ヶ月でその会社は倒産してしまいました。それでやむを得ずPitPaを起業したんです。最初は音声SNSを開発していました。
― そんな経緯が…転職してすぐに大変でしたね。音声SNSはどんなサービスだったんですか?
当時、音声市場は中国やアメリカでは伸びていたのですが、日本ではまだ市場がありませんでした。それでチャンスがあると思って60秒版音声Twitterみたいなサービスをローンチしたんです。ただ、中国では電車の中でも音声入力する方が多いのですが、日本では考えられないですよね。気軽に音声を入力できる環境が日本にはなかったんです。そういった環境の違いもあって、最初のサービスはあまり上手くいかず、ピボットを決断しました。
その際、投資してもらっているVCとも色々とディスカッションしました。VCは色々と打ち手を考えてくれたりもしたし、「やりきる」ことは大事だとも思います。ただ大事なのは事業をやりきることではなく、起業家としてやりきること。このままやっても「ちゃんと儲ける」イメージができなかったので、ピボットを決意したんです。あのまま音声SNSを続けていたら今のPitPaにはなっていなかった。勝てないと思ったらすぐにやめることは今でも意識しています。
それでじゃあ次はどうしようかと思ったのですが、音声市場自体は間違いなく存在するし、配信したものが聞かれることはわかっていたので、じゃあシンプルにポッドキャストコンテンツを制作しようとなりました。ただポッドキャストの制作なんてしたことないから最初は大変でしたよ。マイクなんて何を買っていいかわからないからYouTubeを見ながら選びましたし、オーディオインターフェイスって何? って色んなことに困りながら、制作して配信し続けました。
配信を続けていくと、自然と「どんな人が聞いているのかな」とリスナーの属性や指向を分析したくなりました。でも当時、ポッドキャストプラットフォームで分析できることはたかが知れていたため、自分がエンジニアということもあって、試しに自分たちで分析ツールを作ってみることにしたんです。簡易的なものを作って、配信者に使ってもらったら評判がよくて、本格的にPitPaStudioの開発に踏み切り、今に至ります。
ポッドキャスト×コミュニティ×NFTの可能性
― Joiさんの番組に話が戻りますが、先日Dynamic NFTの会員証サービスを導入したことを発表していました。こちらはどういった内容でしょうか?
まずDynamic NFTとは、NFT発行後も特定の条件に合わせてNFTの表示仕様を変化させるPitPa独自の技術です。本NFTの会員証を発行することで、ポッドキャスターとリスナーによる双方向のコミュニケーション醸成を目的としています。番組の聴取頻度やお便りの数等、リスナーの貢献度に応じて、NFTに表示されるポイント数やステータスが変化していきます。
番組の会員証を持っていれば、Discordで運営している番組専用のコミュニティに参加できる仕組みになっています。また先日開催した会員限定イベントでは、NFT会員証を入場券として使用しました。
現在のNFTは投機的なイメージがあるかもしれません。ただ、Joiさんとポッドキャストを制作している中で「お金に変えられないトークンやNFTの価値は何か」「お金以外のNFTの使い方を試してみたい」という議論になったんです。それで番組と絡ませてNFTで色々と試してみることにしました。
まだ始めたばかりで試行錯誤しているところですが、イベントやコミュニティ醸成の一環としてNFTを使うのは面白いと感じています。リスナーのエンゲージメントが高くて、CRMとしても価値が高い。特に転売ができないという特徴は、日本のIPとも相性がいいように思えて、今後も色んな活用ができそうな予感がしています。
― NFTの活用という意味では、必ずしもポッドキャストだけに絞らなくてもいいような気もします。
そうですね。現在はポッドキャストとNFTを扱っていて、直近では NFTの問い合わせもあり、なんの会社なのかわからなくなっています(笑)。PitPaは音声コンテンツを開発するためのメンバーが集まっていることもあって、NFTは音声コンテンツの可能性を広げる技術と捉えています。
そもそもPitPaでは採用する上で、can・mustはもとより、will、つまり「PitPaでは何を成し遂げたいのか」ということを大事にしています。今は音声ビジネスにwillがあるメンバーが集まっているので、ここから離れることはよっぽどのことがないとできないかなと思います。
― 最後に、今後の抱負をお願いします。
音声市場では、まだ誰もちゃんとマネタイズができていないと認識しています。なのでまずはちゃんと「広告価値のあるメディア」として、ポッドキャスト事業をビジネス化していきたいです。それを支える技術として、NFTも研究していきたいと思います。
また直近で、大企業のブランデッド・コンテンツの配信も決定しました。「学びのあるポッドキャスト」を作って、リスナーに価値を届けていきたいと思います。