ちょうどよいサイズでデザイン性のある家具がない
東京(や都市圏)の話になってしまうが、借家はとても狭いことが多い。国土交通省によると、一人暮らしの最低居住面積は25㎡(ただし短期間居住の例外はある)。だが実際はそれに満たない面積で暮らしている人も多いだろう。しかも東京では次々とマンションが建てられた結果好条件の立地は少なくなり、新たに作られるマンションはちょっと変な形状をしていて(三角形の部屋だったり、梁が部屋のへんな位置にあったり)、変わった形の部屋で住みにくいこともある。大変なのは一人暮らしだけではない。パートナーや子供がいれば、新たに家具が必要だ。でもいかんせん、狭いしへんな形だしで、ほどよい大きさの家具はなかなかみつからない。ちなみに同様の現象はニューヨークやシンガポールなどでも起こっているそう。
ところで家具といって第一想起するのはどこだろうか。IKEAやニトリ、はたまた無印良品だろうか。もちろん安くていい商品も多いが、いかんせんみんな使っているので、どうしても似たり寄ったりの部屋になってしまう。かといってオリジナリティのある家具は高級で手が出しにくい。
つまり今の家具は2つの家具を抱えている。
・ちょうどいいサイズの家具を見つけにくい
・オリジナリティがあって安価な家具が少ない
そんな家具業界に風穴を開けようとしているスタートアップがYourniture.(ユアニチャー)だ。CSOの峯浦氏に話を聞いた。
ユアニチャー株式会社
CSO(Chief Strategy Officer)
峯浦 望(Mineura Nozomu)
家具を1cm単位で、自由にデザイン
Yourniture.は”Your(あなたの)”と”Funrniture(家具)”を組み合わせた造語で、1cm単位で家具を作ることができるサービスだ。
たとえばYourniture.が提供するsimple boxはシンプルなカラーボックスなのだが、幅、高さ、奥行きの3項目が1cm単位で調整できる。カラーは10色から選ぶことができ、価格は自動で算出されるようになっている。
納期は1ヶ月ほどで、金額も家具量販店ほど(simple boxだと50cm×50cm×50cmで7,400円ほど)だ。
2018年12月時点でまだ準備中ではあるものの、今後は家具の形状デザインもできるようになる予定。たとえば本棚なら扉の有無や、扉は縦開きなのか横開きなのか、返しをつけて表に本を並べられるようにするのか、といった具合だ。またカラーボックスに加えてシェルフなどの収納家具のラインナップも増やしていく予定。収納家具はベッドやテーブルなどを配置したあとに置くので、「このスペースにしか置けない」などの制約条件が多くなる。そのためカスタマイズが活きるのだ。
従来1cm単位の家具を作ろうと思ったら、オーダー家具か、DIYをするしかなかった。しかし前者だと何十万という高額なものになってしまい納期も半年ほどと長くなってしまう。単なる本棚での注文はためらうし、後者では手間がかかってしまう。しかしYourniture.ならばweb上でパラメータを入力するだけで、簡単にオーダー家具が作れてしまう。つまりYourniture.はオーダー家具とDIY家具の中間に存在するのだ。
製造ロジックをアルゴリズム化して低価格・短納期を実現
峯浦氏はもともと、ヤフージャパンでデジタルマーケティングを担当。同社でさまざまな分野がwebサービスで便利になっていく様子をみていたという。しかし「もともと好きだった家具という分野は、ずっと遅れている」と感じ、家具系スタートアップへの転職を経て(後述するジャカルタの工場との縁はこのときがきっかけ)、Yourniture.を創業した。
通常家具は、人間が製造指示書作って作成している。そのため家具の計算ロジックも、職人の頭の中にあった。その職人の頭の中のロジックをアルゴリズム化したのがYourniture.の構造計算システムだ。人間がやっていたことを機械が瞬時に自動で計算してくれるので、金額と時間を大幅に削減でき、その結果低コスト化と納期の短縮を実現できる。
simple boxを例にとると、高さを出したいときに側板の長さや面積は変わるが、天板や底板は変わらない。パーツが変わることで材料の大きさや加工の仕方(ネジの数など)も変わるので、そのロジックも計算する、といった具合だ(当然実際はもっと難しいアルゴリズムだ)。使う板の量や金額を計算し、ユーザに提示。ユーザが購入すれば製造指示書を作成し、工場が製造にとりかかる。原理的にはテーブルでもベッドでも、どんな家具も製造できるそうだ。
Yourniture.は現在、自社家具をインドネシアの工場で製作。納期は1ヶ月ほどと前述したが、実は製作するだけなら1週間程度あれば十分だという。実際には配送の時間がかかるのだ。理論的にはユーザがオンライン上でこういう家具が欲しい、という情報を入力して、世界中の機械につなげれば人件費や時間に関係なく自動で、機械が一点物の家具を作ることが可能。仮に日本からの発注を日本の機械で製作することができれば、大幅な時間短縮につながる。
実はYourniture.のアイディア自体は珍しくないんです。でも実現のためには工場やコストカット、システム面など、小さなスタートアップがやるのは大変。今になってやっとできる環境が整ったのだと思います。(峯浦氏、以下同様)
今になってやれるようになったというのは、システムだけの話ではなく、カルチャー的な側面もある。日本の家具はちゃぶ台やタンス、ふすまのように、昔からデザインというよりは実用性に振り切っていた。峯浦氏によると、実際住居にかけるお金の割合は、日本より欧米のほうが多いそうだ。それが最近になり日本でも、生活空間をリッチにしようとする動きが出てきている。
しかしながら現状家具を買おうとすると、最初に想起するのはイケアやニトリ。もちろん安くていい家具を提供してきた彼らの役割は大きいものの、「イケアっぽい」「ニトリっぽい」部屋になってしまうという一面もある。かといって中間価格の家具は少ないし、デザイン性を追求すると高級になって、おいそれとは手を出しにくくなってしまう。つまり「家具業界は二極化していて、インテリアを楽しめるのは富裕層しかいないんじゃないか」という状態になってしまっているのだ。
その点Yourniture.なら、低価格でさまざまなサイズ・カラーの家具が作れる(今後はデザイン面でもオリジナルのものを作れるようにしていく計画だ)。いわゆるマスカスタマイゼーションができるようになれば、家具をあちこちに探しにいく手間がなくなり、家具の選び方も変わっていくだろう。
世界中で1cm単位の家具を作る
Yourniture.はオンラインで欲しい家具を登録すれば、自動で製造指示書をつくって、商品を製造し届けるというスキーム。しかし「自由に家具を作る」という需要は消費者だけでなく、アパレルブランドなどのtoBにもある。
Yourniture.のシステムを、誰でも家具の自社ブランドをもてるように、SaaSとしてクライアントに提供することを考えています。たとえばアパレル各社は近年、アパレルに加えてライフスタイル全般を取扱っていますよね。家具はライフスタイルの中で、金額的にも印象的にも大きな影響があります。Yourniture.のシステムを使って、インテリアショップやセレクトショップなどの方々が、家具を簡単に提供できるようにしていきたいですね。
Yourniture.のシステムを最大限利用すれば、受注生産になるのでブランドは在庫をもたなくていいし、倉庫や物流も任せてしまうことができる。低単価・低リスクで家具のOEMを実施することができる。
また今後は、収納家具や椅子、ベッド、テーブルなど家具のラインナップを増やすことに加え、世界での展開も考えているとのこと。前述したように、Yourniture.は現状でも家具の製造はインドネシアでしているし、工場の都合さえつけば、世界中で製造することは可能だ。実際Yourniture.をリリースした当初、国内で話題になると同時に、海外からも反応があったそうだ。
家具は世界で50兆円という巨大な市場。家具は国ごとに特性があるので、単にグローバルで販売するというよりは、カスタマイズが合理的です。またたとえばニューヨークなどの都市圏でも家は狭く、東京と同じような課題を抱えているのですが、今までソリューションがなかったので、ニーズもあるのです。
ニーズがあるとはいえ、現在のインドネシアで製造して、ニューヨークまで配送することになれば、配送時間は膨大になってしまう。その解決のためにも、世界中の工場との提携を模索していく必要がありそうだ。
1cm単位で家具をつくれるYourniture.。住居が狭いユーザにはもちろん、家具のラインナップを増やしたいブランドとしても嬉しい存在だ。家具どころか「理論上は構造物ならなんでも対応可能」とのことで、これからどんどんラインナップを増やしていくという。Yourniture.の家具が各家庭に溶け込む日を、心待ちにしている。
スタートアップ情報
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
podcastで取材時のインタビューを配信しています。
最新情報はLINE@で!
記事配信時に、LINE@でお知らせしています。記事更新の連絡が欲しい方は、LINE@のフォローをお願いします!
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター
1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。 2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」、その他スタートアップイベントを運営。得意分野はファッション・ビューティ×テクノロジーをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライター、大企業向けオープンイノベーション・コンサルティングも務める。
Twitter: @jumpei_notomi