会議室や飲食店をみんなで使う。空きスペースのシェアエコ「スペイシー」

ある調査によると、2017年の日本のフリーランスの数は1122万人で、前年から5%以上も増えている。副業の推奨や複業に抵抗が少ないミレニアル世代の台頭を考慮すれば、このフリーランスの増加は今後も続いていくだろう。

フリーランスになって問題になるのは働く場所だ。自宅でも働くのもいいが、気持ちを切り換えたり、一緒に働く仲間がいる場合は働く場所を用意したい。かといってオフィスは高いし、そんなに利用頻度が高いわけでもない。敷金礼金を用意するのも大変だ。コワーキングスペースを使っている人も多いかもしれないが、渋谷などの人気エリアはいつも満席気味。

そんな状況に解決策を見出そうとしているのがスペイシー。会議室をシェアする「スペイシー」や、夜間レストランの昼の時間をコワーキングスペースとして貸し出す「スペイシーコーヒー」を運営している。代表取締役の内田氏に話を聞いた。
(インタビュー:2018年03月)

株式会社スペイシー 代表取締役 / CEO 内田 圭祐
株式会社スペイシー 代表取締役 / CEO 内田 圭祐(Uchida Keisuke)

関西学院大学 総合政策学部卒業。
2004年より株式会社リクルートスタッフィングにて法人営業を担当。 2009年 株式会社アイデアマンを設立。太陽光発電の見積りサイトを成長させた後に上場企業へ売却。2013年10月に株式会社スペイシーを設立。

貸会議室を格安で貸し出すシェアリングエコノミー

スペイシーは大きく2つのサービスを展開している。ひとつが会議室のシェアリングエコノミーである「スペイシー」、もうひとつが「スペイシーコーヒー」だ。順に紹介したい。

「スペイシー」は貸会議室のサービス。インタビュー時点で約4000室の会議室が貸し出されている。貸会議室というと、自社で会議室を保有し、それを貸し出すというスタイルが一般的。しかしスペイシーがそれらと異なるのは、掲載されているほとんどが、他の会社や個人が空いている部屋を会議室として貸し出す、いわゆるシェアリングエコノミーの形式をとっていることだ。ユーザは1時間500円〜で他の会社の会議室を借りることができる。従来の貸会議室の料金体系からすると破格に感じるが、ここまで安いのは貸主が遊休の不動産を貸し出しているからだ。どうせ遊休なのだから安くても収入があったほうがいい、というわけだ。

フリーランスや小さな会社でも、当然打ち合わせや採用面接や会議室を使いたいというニーズはある。しかし自社ではスペースの問題で会議室を設置できなかったり、かといって増床するほど恒常的に使うわけでもない。会議室需要が一時的に発生しているのだ。

他方で会議室を持っている会社も、朝から晩まで会議室をフル稼働させているわけではなく、空いた時間は遊休になってしまう。それを外部に貸し出すことができれば家賃の足しになる(場合によっては家賃以上の金額を稼ぐこともあるそうだ)。

貸し出された部屋の利用用途は8割が会議や採用面談、セミナーなどのビジネス用途だが、中にはカードゲームをやったり、主婦の方々の集まりの使われるようなケースもあるらしい。

空きスペースは単独で貸し出すには手間がかかる

スペイシーがリリースされたのは2013年の10月。まだシェアリングエコノミーという言葉が一般的に使われる前のことだ。なぜ内田氏は空き会議室を貸し借りすることのニーズを見出したのだろうか。

前の会社を経営していたときに途中から事業がうまくいかなくなったことがあって、30人入る部屋に4人でいたことがあったんです。でも契約上すぐに退去はできなかったんですね。貸し出そうかとも思ったのですが、LPを作ったり広告をうつのも大変だな、と思って諦めたんです。結局時間をおいて小さな部屋に引っ越したわけですが、今度は会議室がないのでカフェで打ち合わせをしていました。当然機密性の高い会話はしにくいわけです。かといって貸し会議室をしょっちゅう使っていたらお金もバカになりません。

そこで両者をマッチングするプラットフォームを作れば、winwinの関係が築けるんじゃないかと思ったんです。(内田氏、以下同様)

内田氏が前の会社を経営しているとき、一時は従業員が30人ほどいたそうだ。しかし事業の関係で大幅にリストラ。一気に4人に減った。すぐにオフィスを移動したかったのはヤマヤマだったのだが、退去するためには数ヶ月前にオーナーに通告しなければいけないため、すぐの移転は難しい。空いたスペースを貸し出すことも考えたが、これまたオーナーと相談しなければならないし、4ヶ月後の移転するスペースに入居する会社なんてそうそうみつからない。じゃあ一時利用してくれる企業をみつけるかというと、そのためにLPを作ったり広告をうったりするほど手間はかけられなかった、というわけだ。

「自分のいたらなさでスペースが余ったとはいえ、事業譲渡や事業部まるごと海外に行くなど、似たような状況はあるはず」と考えた内田氏は、会議室のシェアリングエコノミー事業を手がけることを決心した。

最初は自社でマンションの一室を借りて、テスト的に部屋を貸し出した。当時は1時間で1000円以下という格安の貸会議室はなかったこともあって、ユーザの反応は上々。家賃が10万円なのに、20万円ほどを売り上げることに成功した。このビジネスに確信をもった内田氏はスペイシーを正式にローンチ。貸会議室のシェアリングエコノミーを本格展開しだした。

ちなみに先述したように、貸会議室は駅前などの立地を抑えられればリターンの悪くない投資になるようだ。投資用に部屋を用意し、スペイシーで貸し出しているような人もいるとのこと。貸会議室という用途なら内装や家具などの初期費用も比較的少なくてすむし、スペイシーに掲載しておけば広告費もかからないので、費用対効果のいい投資になることも多いそうだ。

1杯50円のコーヒーでレストランがワーキングスペースに

スペイシーを使うユーザの中には、wifiや電源を使いたいノマドワーカーもいる。そういう人はカフェなどでその需要を満たしているように思うが、都心部のカフェはいつもいっぱいで空いていない。かといって貸会議室を借りるとかなり高額になってしまう。そこでスペイシーが次に注目したのが「夜型の飲食店」。こういったお店は当然夜には営業しているが、昼間はある意味で遊休資産となってしまっている。

カフェで仕事をしている方々は、飲み物が飲みたいというよりは働く場所が欲しいんですよね。夜型の飲食店を昼間はコワーキングスペースとして使えれば、ノマドやフリーランスの方には働く場所になりますし、飲食店にとっても副収入になってwinwinの関係になると思ったんです。

そこでスペイシーは「スペイシーコーヒー」をリリース。「1杯50円でスペシャリティコーヒーが楽しめる新業態のカフェ」だ。

(credit by スペイシー)

スペイシーコーヒーでは全店舗に電源やWiFiを完備。現在は数店舗の運営だが、店舗が増えれば毎日違った場所で仕事をすることも可能になる。カフェで仕事をするニーズのひとつにはオフィスや会議室のような殺風景なところではなく、クリエイティビティを刺激してくれるような環境を欲すということもあろうが、スペイシーコーヒーはそもそもがレストランなのでそんなニーズもばっちり満たしてくれる。そして何よりコーヒー1杯が50円、スペース利用料金が30分50円(今後値上げの可能性はある)という安さは嬉しい限りだ。

店舗側には遊休時間をうまく使う以外のメリットもある。昼間はユーザに仕事をしに来てくれれば、そのまま夜にも飲食店として使ってくれる可能性も高まるし、スペイシーコーヒーで掲載されていることが自然に広告にもなる。

スペイシーコーヒーはインタビュー時点ではテスト運営中。将来的にはタブレットだけお店において、ユーザが来たらセルフで登録し、自由に過ごせるような形にしたいとのことだ。

スペイシーのビジネスモデル(pilot boat作成)

スペイシーのビジネスモデル(pilot boat作成)

シェアリングエコノミーから可能性のパラダイムシフトを

紹介した2つのサービスだけでなく、今後もスペイシーは「外で働く人を助ける」サービス領域を拡大していく。2018年03月にリリースしたのは最初の10日間が350円/日、その後は88円/日で借りられるレンタルwifi事業だ。まだ計画中だが、貸会議室のようなスペースでオンライン講義を視聴できるといったことも企画しているとのこと。外で働く人や機会が増えれば増えるほど、スペイシーのサービスを利用する機会も増え、相乗効果が見込まれる。

今後のスペイシーの事業展開はどのように考えているのだろうか。

スペイシーの登場によって、格安で会議室を借りられるようになりました。ただ現在はマンションの一室のような会議室が多いんです。なので中期的は高級貸会議室を安く貸し出せるよう、ラインナップを揃えていきたいですね。

スペイシーのミッションは「心にある可能性を創造する」。仕組みを変えることによって、可能性のパラダイムシフトを起こしていきたいと思います。

貸し会議室から昼間の飲食店までさまざまな場所を、シェアリングエコノミーの観点からパラダイムシフトをおこすスペイシー。今後もその動向に注目してほしい。

会社名:株式会社スペイシー
代表者:内田 圭祐

所在地:東京
資本金:2億6,300万円(資本準備金含む、インタビュー現在)
設立日:2013年10月

URL    :https://www.spacee.jp/

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AUTHOR
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。
2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。2017年よりASCII STARTUPでBtoCベンチャーのコラムを連載中。
Twitter: @jumpei_notomi