なくしたものはみんなで探す。「なくすを、なくす」ためのIoTデバイス「MAMORIO」

世界最小クラスを誇る「なくすを、なくす」ためのIoTデバイス「MAMORIO(マモリオ)」。MAMORIOを付けたアイテムを忘れそうになったらスマホで通知してくれたり、なくしてしまってもMAMORIOユーザ同士でアイテムを探し出すことができます。開発秘話から会社のコア・バリューまでうかがいました。

取材日:2017年08月20日

 

なくしたものをみんなで探すIoT

今回お話を伺ったのはMAMORIO株式会社の増木社長。秋葉原に拠点を構えるIoTスタートアップです。


MAMORIO株式会社 代表取締役 増木 大己

1987年生まれ。慶應義塾大学商学部卒。ネット証券会社にて上場関連業務を手がけた後、会社での紛失で苦労した経験から、2012年7月世界初の落し物総合事業を手がける株式会社落し物ドットコムを創業。日本最大の遺失物情報のポータルサイト「落し物ドットコム」、世界最小の落し物追跡タグMAMORIOなどをはじめとして「なくすを、なくす。」をミッションに紛失に特化した事業を展開。2016年5月 社名をMAMORIO株式会社へ変更し、IoT×紛失領域への本格展開を開始。

MAMORIOは紛失防止タグのIoTで、世界最小クラスを誇る「なくすを、なくす」ためのデバイスです。MAMORIOを財布や鍵などのなくしたくないアイテムと一緒にしておけば、万が一なくしたときにも無事に見つかる、というIoTです。

実際のMAMORIO製品。長さは35.5mm、厚さ3.4mmで3gと軽量。全5色で展開。

 

MAMORIOの機能は大きく2つ。まずは手元から離れるとスマホに通知が来る機能。例えばMAMORIOを財布に入れておいて、財布を置いて席を立ったとします。一定時間近くにMAMORIOがないとスマホにプッシュ通知が来て、「財布を忘れていませんか?」と通知してくれるという仕組みです。

そしてもうひとつが「クラウドトラッキング機能」。みんなのスマホでMAMORIOを探す機能と言い換えてもいいかもしれません。MAMORIOはスマホのひとつひとつが仮想の基地局になっているそうで、MAMORIOと他のMAMORIOがすれ違うたびにその位置情報を記録しているそうです。なので、どこかにMAMORIOを入れた財布を落としたときでも、他の方のMAMORIOが財布の近くを通ってさえくれれば、財布の位置情報がわかる、というわけです。
※個人情報はわからないようになっています。

 

遺失物センターに忘れ物が届いたらスマホに通知がくる

このクラウドトラッキング機能を使って現在、駅でMAMORIOを使う事例が増えているそうです。

皆さん電車の中に、何か忘れ物をした経験はあるのではないでしょうか?忘れ物は駅員の方が回収した後、主要駅の遺失物センターに届けられます。ここに持ち主が取りに来てくれたり確認しに来てくださればいいのですが、あるかないかを確認するためだけに遠くの駅にいくのはちょっと大変です。

そこで各遺失物センターに、MAMORIO spotという、MAMORIOを検知する仕組みを設置。そこにMAMORIOが入った財布が届けられると、持ち主にスマホ経由で通知がいくというわけです。

MAMORIOの企業利用の他の例として、日本航空(JAL)と実証実験を行っているそうです。飛行機の整備に使う機材を持ち運ぶために、飛行場では数多くの台車などが使われるわけですが、あちこちに台車が移動して、今どこに台車があるかわからないといったケースがあるそうです。そこで各台車にMAMORIOをつけて、どこに台車があるかをスマホからいつでも簡単に把握することができるようにした、というわけです。

手前の作業台にMAMORIOが装着されている(credit by MAMORIO)

このケースでは、既存のMAMORIOをそのまま使ったわけではなく、SDKを配布してJAL用にカスタマイズしたアプリケーションを作ったそうです。

 

後の大変さを知っていたら開発しなかったかも

元々増木さんは証券会社に勤めていて、扱う情報には機密情報もあり、情報セキュリティは非常に厳しかったそうです。とは言っても扱うのは人間なので、どこかでミスは発生する可能性は残ってしまいます。

しかし、何かをなくしたときに対応してくれるサービスというのは多くありません。警察だってなくしものを探してくれるわけではないし、まして、なくしものを防止してくれるわけではありません。そこで「なくすを、なくす」ためのサービスを作るべく起業し、いくつかのサービスを経てたどり着いたのがMAMORIOだったそうです。

とは言っても増木さんにIoTを作る素地があったわけではなく、MAMORIOの開発は手探りだったそうです。

ベンチャーがハードウェアに取り組むには本当に大変で、MAMORIOを作るのも例外ではありませんでした。のちのちこんなに苦労するのかと思ったら、開発に取り掛かれなかったかもしれません。でも、知らなかったからこそここまで来れたんだと思います。

 

5つのコア・バリュー

その会社の企業文化は最初の10人が決めると言われています。ちょうどMAMORIO社はそのくらいの人数で、このタイミングでコア・バリューを定めることにしたそうです。

MAMORIOのコア・バリュー

1.Be Integrity. 「真摯にむきあおう。
2.Collaborate with Strength. 「互いの得意をかけ合わせ共創する」
3.Good Surprise. 「いいことをなる早で。」
4.Enjoy the Waves! 「困難を楽しもう。」
5.Go Fleximple!  「フレキ-シンプルで行こう。」

コア・バリューの詳細はこちらに記載されていますので、是非ご覧ください。
MAMORIOが大切にする5つのコア・バリュー

コア・バリューを決めても、どういう行動が具体的にあてはまるのかがわからないといけません。一旦コア・バリューを定めたあとに3ヶ月の試用期間を設けて、その間にみんながしっくり来るように調整していきました。

 

例えば「Be Integrity.(真摯にむきあおう。)」を体現する活動として挙げてくれたのがユーザボイス定例。これはその名の通り、ユーザからのフィードバックを確認する定例会だそうですが、この定例会を毎週月曜に全員参加で開催し、ユーザの声の確認から1週間を開始するそうです。まさに「真摯に向き合う」を体現しているお話ですね。

(credit by MAMORIO)

コア・バリューを浸透させるためのちょっとした工夫もあるそうです。MAMORIOは出勤報告をslackでしているそうなのですが、出勤報告をするとコア・バリューがbotで返ってくる仕組みになっているそう。

また、ちょっと忙しくなったときに「Enjoy the Waves!」と言ったり、社員同士の会話にコア・バリューが混じっているとのことです。このように、日常にコア・バリューを溶け込ませることによって、その浸透を図っているようです。

 

「なくすを、なくす」ための事業に取り組んでいく

最後に、MAMORIOの今後について、「なくすを、なくす」というビジョン達成のために何をしていくのかを伺いました。短期的には、ハードウェアをシンプルに小さく、アプリケーションを進化させていくそうですが、長期的にはどのように考えているのでしょうか?

我々はハードウェアを作っていますが、それにこだわっているわけではありません。「なくすを、なくす」という体験は、時代とともにどんどん変わっていくものだと思うのです。新しい解決策があれば、知らない分野でもどんどん取り組んでいきます。

 

インタビュー内容はpodcastでも配信しています

podcastでインタビュー内容を配信しています。テキストより情報が詰まっています。興味がわいた方は是非こちらも聞いてみて下さい。

AUTHOR
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boatのブログ」「pilot boat cast」を運営。