新型コロナウイルスの流行は、我々にメディカル・ヘルスケア・ウェルネス(以下本稿ではまとめて「ヘルスケア」と称する)情報を判断することの難しさを教えた。正しい内容は何か、この情報は信用できるのか、発信者は誰なのか。SNSにはフェイクニュースや嘘が溢れ、市井が混乱したことは記憶に新しいし、今も続いている。
新型コロナウイルスのようなパンデミックでなくても、あらゆる分野で情報発信者にとっては信頼性をどう確保するか、情報受信者にとっては真実を見抜く力は重要だ。しかしながら、殊ヘルスケア分野では、情報の真実性を見抜くことは難しい。
そんなヘルスケアコンテンツの信頼性を担保しようと立ち上がったサービスがメディコレWEBだ。ヘルスケアに関する記事やプレスリリース等のコンテンツを専門医が確認。問題ないことが確認されれば認証マークを付与する。
メディコレWEBのサービス内容や必要性、ユースケースについて、株式会社メディコレ(以下「メディコレ」)代表の橋本氏に話を聞いた。
株式会社メディコレ代表取締役 橋本礼次郎 | Hashimoto Reijiro
1985年、東京都出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、2008年に(株)フジテレビジョンに入社。記者/番組制作者として厚生労働省や医療機関などを取材・報道する中で、コンテンツの”安心化のプロセス”と”安心の可視化”に課題を覚える。課題を解決するため2021年に株式会社メディコレを創業。コンテンツ製作者と専門医が協力して安心できる医療健康情報を人々に届ける「メディコレWEB」を提供する。
ヘルスケアコンテンツの正確性を担保
「メディコレWEB」は、医師がヘルスケアコンテンツに、言わば「お墨付き」を与えるサービスだ。メディアの記事や企業のプレスリリース、企業サイトのLP等で医療コンテンツを掲載する際での利用が想定されている。お墨付き、即ちメディコレWEBで医師が確認したことの証として、企業はコンテンツには認証マークを付けられる。なお、ヘルスケア情報だけでなく、薬機法等の法律上の表現確認にも一部対応している。
ヘルスケア関連のコンテンツを企業が制作する際には、必要に応じてファクトチェックやリーガルチェックを実施し、医学的・法律的に間違いがないことや表現に問題がないかを確認している。しかし、ヘルスケア系のサービスを継続的に営んでいる企業ならいざしれず、そうでない企業がヘルスケアの記載をしなければならないときに、適切な医療関係者を探し出しチェックをしてもらうのはなかなか骨の折れる作業だというのは想像に難くないだろう。適切な監修が行われなかったことで不正確な情報が拡散されたことで発生したWELQ問題は、情報発信者が忘れてはいけないインシデントとなった。
それにも関わらず、昨今の複雑化した情報化社会は、フェイクニュースや情報を社会に撒き散らしている。新型コロナウイルス禍においても、様々なフェイクニュースが生みだされ、社会を混乱させたことは記憶に新しい。まして医療情報に関しては、専門情報をもたない一般人にとっては、真実かフェイクかを見分けるのは容易ではない。
裏を返せば、情報を提供する立場からすれば、自分たちの情報が信用に値することを証明するニーズがあるとも言える。そんなときに重宝するのがメディコレWEBだ。メディコレWEBなら、適切な医療関係者に、必要なチェックをスピーディに確認してもらえる。
コンテンツに信頼性を付与したい企業は、メディコレWEBのサイトからコンテンツのチェックを依頼する。メディコレWEBに登録されている専門医がコンテンツを確認し、エビデンスがあるのか、医療現場で再現性があるのか、表現が適切なのか、という3項目を確認する。問題ないと判断されたコンテンツに対しては「メディコレマーク」という認証マークを、コンテンツに付すことが可能だ。また、メディコレマークに加えて、オプションで医師のコメントをコンテンツに付記することもできる。
メディコレマーク掲載例。
image: 【眼科医監修】赤ちゃんの目にものもらい!? その症状と原因・対処法
なお「メディコレWEB」では「エビデンス」「現場での再現性」「表現の適切性」の3項目により「正しい情報」ではなく「問題ない情報」を認証する。これは科学的に100%正しい情報は存在せず、「正しい」情報の認定は困難だからだ。
一方でメディカルの専門媒体の場合は、執筆者がそもそも専門医であったり、監修を依頼している医師がいるだろうから、メディコレWEBを使うニーズは低いかもしれない。他方で(例えばpilot boatのような)メディカルの専門媒体でない場合には、「この記事単体の正確性を担保したい」「専門家のコメントがほしい」というときに、わざわざ専門家を探し、依頼し、条件を交渉し、ダメだったらまたやり直し……というステップを踏まなければならず、非常に手間がかかる。メディコレWEBはこんな場合に重宝されるサービスとなるだろう。
実際、メディコレ社代表の橋本氏は、前職のフジテレビジョン社で働いていた際、記者・番組制作者として厚生労働省や医療機関などを取材・報道する中で、メディカル情報の正確性担保に課題を覚えていた。
私は前職、テレビ局で働いていて、報道記者として政治や厚生労働省を担当し、情報番組では当然ヘルスケア情報を取り扱っていました。メディカル領域は、間違った情報・不正確な情報が健康被害になる可能性があるので、その取扱は慎重にしなければなりません。とはいえ「この程度の情報ならマスメディアで取り上げていい」という判断指標があるわけではなく、困っていたんです。(橋本氏、以下同様)
メディコレWEBにはいつでもアクセス可能なので、コンテンツ制作者の発注も専門医の確認も、作業は深夜でも早朝でも日中でもできるし、専門医を探す手間も省ける。デジタルを使ってコンテンツを作成するためのプロセスが省けるため、その意味ではコンテンツ制作のDXとも言えるだろう。情報の正確性を担保することにはニーズがある。そう確信した橋本氏は、メディコレ社の起業に至った。
周辺領域とヘルスケアが溶け合う時代だからこそ
ヘルスケア情報の正確性を担保するために医師に確認したいと言っても、医師なら誰でもいいわけではない。コンテンツの確認には専門医が必要な状況もあるからだ。例えば新型コロナウイルスに関する意見では、感染症の専門医が必要だろう。メディコレWEBには専門医が登録されているとのことだが、どの程度の専門医がいるのだろうか。
この点「内科・外科だけではなく、基本的な診療科はひと通り揃っている」と橋本氏は語る。その内訳も細かく選べるようになっており、例えば内科だと、総合内科、消化器内科、呼吸器内科、循環器内科、アレルギー・膠原病内科、神経内科、糖尿病内科、腎臓内科、血液内科、感染症……といった具合で選択可能だ。もちろん「『感染症』と『精神神経科』」といった複数項目のチェックも可能となっている。なおメディコレWEBには、2022年6月現在、約1000名の医師が控えているという。
また先述した医師のコメントも、「200文字以上」「400文字以内」等と文字数を指定でき、もらったコメントはコンテンツに掲載可能となる。医師の顔写真・実名をコンテンツに付すことも可能だ。ちなみに確認するコンテンツはファイル形式を限定せず、Word、Excel、PowerPoint、画像、動画等、幅広く対応可能となっている。
メディコレWEBは、スタートアップやベンチャーキャピタル、またはpilot boatのようなスタートアップを取り上げる媒体にも有効ではないかと筆者は感じている。というのも、近年ヘルスケアは色々な分野との境界を曖昧にしているからだ。例えばスポーツサービスがヘルスケアに進出してくるというのは珍しい話ではないし、介護やIoTだってヘルスケアとか関わっている。しかし、これら周辺領域の事業者が必ずしもヘルスケアに明るいとは限らない。しかしヘルスケアが専門ではない故に、必ずしも専門医とのコネクションがあるとは限らない。そこでメディコレWEBを使って、コンテンツや表現の正確性を担保することが有効と考えられるわけだ。
またメディコレ社は、医師と周辺事業者を繋げるための「ブリッジ事業」を展開。これは例えば、医師向けアンケートや、PRイベントのキャスティングといったことをその内容としている。これによってメディコレは、医師と一緒にフィジビリティを確認するといった価値を提供していきたいと考えているようだ。
例えばライフスタイル企業が新規事業でヘルスケア分野に挑戦するとき、事業内容にかかわる医学的なフィジビリティは重要な要素となる。そのエビデンス確保に、メディコレが抱えている知見の高い医師たちにたくさん協力してもらうのだ。新規事業はポジティブな意見だけではなくネガティブな意見も重要だが、なかなかネガティブ意見は得難い。しかしメディコレならそれもできると橋本氏は語る。
例えば糖尿病の解決に関わりたい会社があるとします。この疾患は重度になると失明してしまったり、他の慢性疾患が併発して起きてしまったりと、他の疾患への影響が大きい病気ですし、昨今は糖尿病患者へのメンタルケアも重要視されています。このように、糖尿病の解決には専門医だけではなく、その周辺への影響も理解しなければなりません。
つまり周辺情報も含めて総合的に糖尿病を理解したいと思ったときには、糖尿病の専門医に加えて、眼科医や精神科医の知見が必要になるかもしれないんです。ゼロから専門医を探すのは骨の折れる作業かもしれませんが、メディコレならすぐにグループ座談会を設定してネガティブ・ポジティブな意見を出すといったことも可能。これは今までにない複合的なフィジビリティチェックとなり得ます。これが実現すれば世の中に流通するヘルスケアのサービスが、よりブラッシュアップされていき、ひいては健康寿命が延伸し、健康な人々が増えていく。そういった手助け・社会貢献をメディコレでしていきたいですね。
メディコレはベンチャーキャピタルの投資意思決定にも有用なのではないかと、橋本氏は語る。ベンチャーキャピタルがスタートアップへの投資を検討する際、専門家に話を聞くことは多いが、その専門家探しには時間がかかる。自力で探したりスポットコンサルティングを使っているベンチャーキャピタルもいるので、同様にメディコレを使って専門医をアサインすることはあり得るだろう。ちなみにメディコレなら複数人をアサインして座談会をし、投資対象のテーマに対してネガティブ・ポジティブな意見をレポートにしてまとめて提供してもらう、という使い方も可能だそうだ。
安心できる情報を提供する「情報安心化ベンチャー」に
メディコレWEBにコンテンツの確認を依頼した場合の時間と費用も気になるところだ。
まずメディア用の記事であれば、平均で1.5〜2.5営業日程度で確認は終わるそう(ちなみにこれまでの最速は1時間25分だそう)。費用はチェックするコンテンツ次第だが、チェックプラスマーク付与だけなら5000円、医師のコメントをリクエストすると併せて1万円程度であることが多い。筆者の主観ではあるが、専門家を探し連絡して条件交渉をして作業をしてもらう、ということを考えれば破格だと感じている。
プレスリリースの場合は記事チェック・マーク付与で5万円、追加で医師のコメントを付与すると合計10万円。金額が通常の記事より高いのは、プレスリリースという公益性の高さ故の名前・顔出しリスクによるものだ。
最後に営業資料やLPでは、記事チェックとマーク付与で5万円というのはプレスリリースと変わらずだが、医師コメントに関しては、月額掲載で、1か月10万円(1年契約だと8.3万円に割引き)。高めの金額設定になっているが、「1年間コメントを使って100万円の支払い、営業マンが10人いるとしたら一人当たり月間1万円弱の計算。そう考えると納得いただける数字だと考えています」(橋本氏)とのことだ。
メディコレWEBの(想定)利用者はどのような企業だろうか。まずはここまで例に出しているように、メディア企業は想像に難くない。またSEO企業やインフルエンサーアサイン企業の利用も橋本氏は想定しているという。
2017年に世間の耳目を集めたWELQ問題は、メディカル情報の取り扱いの難しさを改めて確認する契機となった。この問題を契機に、メディカル情報の取り扱いをストップするという意思決定をしたSEO企業も少なくない。しかしながら、もちろん問題があったとはいえ、WELQが一定の読者数をもっていたことは、メディカル情報のニーズを示すものでもある。決してメディカル情報やSEOが悪いというわけではなく、不正確な情報発信が悪だったのだ。そのためメディコレWEBを利用しながら正しい情報を発信していきたいというSEO企業からの相談も、メディコレは受けている。
ヘルスケア情報は、まだまだ世の中に足りていません。なので「安心できる」ヘルスケア情報は、もっと発信していかなくてはならない。メディコレWEBならそれが可能です。メディアやSEO企業と協力して、良質なヘルスケアコンテンツを世に増やしていきたいです。
またインフルエンサーをキャスティングしたり、そのマネジメント会社の利用も促していきたいと橋本氏は話す。現在ヘルスケアに関わる内容をインフルエンサーに依頼することは、内容の担保ができないとマネジメント会社がストップしているケースも多い。このような場合にもメディコレWEBなら、案件を受ける時のジャッジとして使ったり、インフルエンサーの制作コンテンツを医師にレビューしてもらうといった使い方ができるだろう。
最後に、ヘルスケア情報の発信で問題となるのは医学的な正確性だけでなく、薬機法や景品表示法といった法令による規制も問題となる。その点メディコレWEBでは、法令のチェックも実施。社内に医学博士かつ法学博士もいるし、今後もチェックできる体制を拡充していくとのことだ。
メディコレは「情報安心化ベンチャー」になりたいと思っています。
前職がマスメディアだったこともあり、私は「知る権利」について考える機会が多かったんです。先進国である日本においてこの権利はかなり根付いてきて、むしろ今はそのアップデートが求められていると考えています。
「知る権利1.0」が「情報を知る権利」だとすると、「知る権利2.0」は「安心できる情報を知る権利」。「メディコレマーク」という認証マークを付与することで、世の中に安心できる情報で充たす。これが私達の社会貢献だと考えています。この情報安心化ベンチャーという側面を大事にしながら、今後事業をしていきたいと思っています。
専門医のアサインを簡便にすることで、世界に「安心できるヘルスケア情報」を増やすメディコレだが、まだ同社は2021年に設立された若い企業で、メディコレマークの普及はまだまだこれからだ。ふと閲覧したヘルスケアコンテンツにメディコレマークが付与されていることを、楽しみに待ちたい。
インタビューはpodcastでも配信しています
メディコレWEBに関する橋本氏のインタビューはpodcastでも配信しています。こちらもお楽しみ下さい。
(interview / text: pilot boat 納富 隼平、edit: pilot boat、photo: taisho)