【MEDULLA】美容のパーソナライズは、コミュニケーションデータで深化する

今、美容業界の主要な話題のひとつは「パーソナライズ」だ。アメリカではProseや Function of Beauty等がシャンプーで鎬を削り、サプリメントではCare/of等が活躍している。日本でも資生堂がスキンケア・パーソナライズのOptuneを2019年から提供。フェイスパックや基礎化粧品など、あらゆる美容製品が今、パーソナライズ化され始めている。

そんな中、日本初のパーソナライズシャンプーとトリートメント(以下「シャンプー」)「MEDULLA」を2018年から提供し、業界注目の的となっているのが、株式会社Sparty(以下「Sparty」)だ。SpartyはMEDULLAに続いて、パーソナライズスキンケアの「HOTARU PERSONALIZED(以下「HOTARU」)」も2020年にリリースしている。

MEDULLAやHOTARUは所謂「D2C」だ。筆者の理解では、D2Cは単に製品をネット通販するだけではなく、webや店舗等、あらゆるチャネルから顧客データを収集し、製品開発やマーケティングといった価値提案活動に当該データを活かしていく必要がある。(※なお、本稿においてはデータとプライバシーの関係については触れない。)

MEDULLAやHOTARUのパーソナライズのために、Spartyが取り組んでいることとは。また、パーソナライズの行く先にSpartyが考えていることは何か。同社代表取締役深山氏と、HOTARUブランド責任者の西田氏に話を聞いた。

 

web診断だけで自分に合うシャンプーがわかる

Spartyが展開するブランドはパーソナライズドシャンプーの「MEDULLA」とパーソナライズドスキンケアの「HOTARU」だ。

MEDULLAはオンラインで9つの質問に答えるだけで、自分に合ったシャンプーが届くサービス。定価は6,800円(送料・税別)で、買い切りではなく、サブスクリプション型のサービスとなっている。パーソナライズのための項目は「髪の長さ」「頭皮の状態」「くせ」「髪のボリューム」「髪のダメージ」「悩み」「なりたい髪」「テーマ」「名前」の9項目で、カラーの退色や頭皮の臭いといった細かい悩みにも対応している。

深山氏によると「日本人の髪のパターンは大きく8パターンしかない」という。そこから細かい分岐をして、最終的に約3万通りの組み合わせを実施する。MEDULLAは2018年にリリースし、2年間で15万人ほどの会員を抱えるまでに成長している。

MEDULLAの特徴はサブスクリプションの採用に代表されるように、顧客との継続的な関係構築だ。一回処方を決定したらそれで終わりでなく、マイページから処方の評価や意見を投稿。その情報が次回の処方に活かされるという仕組みだ。

深山氏:
Spartyはローンチ時から、お客様と一緒に成長していくというヘアケア体験を作っていきたいと思っていました。MEDULLAはお客様にとって、あなただけのスマホの美容室なんだと感じていただきたいんです。

株式会社Sparty 代表取締役
深山 陽介(Miyama Yosuke)

1988年千葉県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、株式会社博報堂に新卒入社。大手通信会社の営業職を経て、数多くのクライアントのデジタルマーケティング戦略策定に従事。2017年5月に退職し、株式会社Spartyを創業 。“色気のある時代を創ろう”をミッションに掲げ、美容とテクノロジーの融合により、誰でも・簡単に、自分に合った商品を生産/販売/利用できるインフラの構築を目指している。第一弾として、日本初のパーソナライズシャンプー『MEDULLA』を2018年5月より提供開始。7つの質問に答えるだけで、100以上の処方からあなただけのシャンプーを製造する仕組みは、発売当初より多くの反響を獲得。海外展開も見据え、大量生産時代から誰もがブランドを創れる時代へ、化粧品/消費財メーカーのあり方を大きく変革するBeautyTechカンパニーを目指す。

 

従来のシャンプーにも当然「さらさらな髪になる」「パーマ用」といったシャンプーはあう。しかしながら複合的な条件でシャンプーを探すのは簡単ではない。例えば筆者は現在パーマとカラーを施しており、長さはショートで乾燥が気になっている。この条件に合うシャンプーをドラッグストアで探し出すのは困難だ。そんな時、簡単に自分に合ったシャンプーが選べるというのがMEDULLAの価値である。

 

MEDULLAはオンラインを中心に展開するブランドではあるものの、有楽町のマルイで店舗を展開している。

「オフライン店舗の役割は2つある」と深山氏は語る。ひとつは顧客獲得だ。経産省によると、2018年の化粧品・医薬品のEC化率は5.80%と、決して高い数字ではない。逆に言えばほとんどの買い物はリアルで行われているのだ。店舗があることによって、オンラインだけでは購入のきっかけを得ない顧客はMEDULLAとの接点をもつことになる。

もちろん店舗といえどもシャンプーを直接試すわけにはいかないが、シャンプーにおける重要な要素である香りは確認できる。またMEDULLAはカスタムヘアオイルも販売しており、こちらは実際に店頭での試用も可能だ。さらに後述するMEDULLAのセカンドラインもある。店舗で潜在顧客にMEDULLAを知ってもらうことにより、次回からはwebでMEDULLAを購入してもらう、というフローを想定しているようだ。

1つ目とも重なるが、店舗の役割の2つ目はOMOだ。既存の顧客が店舗に足を運び追加の体験をすることで、よりエンゲージメントの高いファンになってもらうことを狙っている。

深山氏:
OMO施策はまだ全然できていないのですが、コミュニティを作る以上、「場」というのは非常に重要だと思っているので、店舗はその起点にしていきたいと考えています。

 

海外では店舗を単なる販売の場所でなく、ブランドのファンが集まるコミュニティとして考えている新興ライフスタイルブランドが増えている。代表的なところではLululemonは店舗にコミュニティスペースを作り、ヨガ等のイベントを頻繁に開催。顧客のエンゲージメントを高めるための施策だ。Spartyも将来的にはこのように、顧客にシャンプーを紹介する以上の体験を提供するのかもしれない。

 

web+カメラ診断による、スキンケアのパーソナライズ

MEDULLAの登場からちょうど2年。2020年5月22日に誕生したのが、パーソナライズドスキンケアのHOTARUだ。現在はローション(化粧水)とモイスチャライザー(美容乳液)を提供している。両方共それぞれパーソンライズされた商品が顧客に届く。女性がメインターゲットではあるものの、男性の使用も可能だ。

HOTARUも「乾燥」や「ニキビ」等、ユーザーはweb上でMEDULLAと同様に10個の質問に回答。MEDULLAと異なるのは、PCやスマホのカメラを使った肌診断だ。両者を使ってユーザーの肌を診断し、スキンケアをパーソナライズしていく。なお肌診断のシステムは‎「YouCam メイク」等で知られる台湾のAR企業perfect社の技術を採用した。

HOTARUもMEDULLAと同じく一旦診断したら終わりではなく、ユーザーからのフィードバックをもとに、テクスチャーや乾燥状態等を再度パーソナライズさせていく。

(image: Sparty)

 

ここまで記したとおりMEDULLAとHOTARUは、web診断やフィードバックという、肌診断以外は似たプロセスでユーザーにプロダクトを提供している。

西田氏:
MEDULLAでは頭皮や髪の悩みを、HOTARUでは肌の悩みをユーザーに伺っていますが、最終的にはひとりのお客様の悩みを一体として統合していきたいと考えています。実際、肌の状態と頭皮の状態は非常に近しいんですね。肌診断の情報をMEDULLAに反映し、なりたい髪質からスキンケアをカスタマイズするなんてことも、将来的にはできるはずです。

 

株式会社Sparty
西田 将之(Nishida Masayuki)

1989年愛知県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2012年にグリー株式会社に入社、スマホ版GREE NEWSの立ち上げ、同サービスの数百万MAUへのグロースに従事。2015年に探検ドリランドのプロデューサーに就任し、年商数十億の組織を牽引。その後Wright Flyer Studiosにて新規ゲームタイトルの立ち上げ、IPタイトルの海外展開を担当。2019年4月からノイン株式会社でマーケティング部長を担当。2020年1月から株式会社Spartyに参画。パーソナライズスキンケア「HOTARU PERSONALIZED」のブランド責任者を担当。

 

顧客データがパーソナライズを深化させる

MEDULLA・HOTARUとパーソナライズを展開するSpartyだが、パーソナライズが向いている顧客は、美容に詳しい層ではなく「知識はそれほどないが、自分に合った商品を探している人」だと語る。美容に詳しい人は何もかも自分で調べて自分で選択できてしまうので、パーソナライズは必要ないのだ。

また昔ならいざ知れず、プロダクトや口コミなどこの情報が溢れる時代において、自分に合う商品を探し出すのは、非常に困難。そのためSpartyは自らのコンセプトを「いいものより合うもの」と定めている。そのための手法がパーソナライズだ。

西田氏:
「パーソナライズ」と言うと、ちょっとオタクっぽい科学みたいに聞こえるお客様もいるようです。しかしやっていることは、「悩みを聞いて、悩みに合った処方をする」というシンプルなもの。MEDULLAやHOTARUはさらに、そのお客様が自分で認識していなかったような自身の課題を解決していけるようなプロダクトにしていけると思っています。

 

西田氏が語る「認識していなかった自身の課題」の一例は、「肌の悩みから頭皮の課題がわかる」といったことだ。こういった課題を浮き彫りにするためには、ユーザーのデータを上手く収集する必要がある。そのためにSpartyが重要視しているのが、ユーザーからの定期的なフィードバックだ。例えばHOTARUのスキンケアでは、製品を届けてから1~2週間程で、製品の使用感や満足感を聞く仕様になっている。ユーザーからは「テクスチャーはもっとこってりした方がいい」「もっとさっぱりした方がいい」という声が届いたら、それを元に再びパーソナライズに活かしていく。

またフィードバックを求める際には、当初の質問項目にはなかった食生活や睡眠生活といったライフスタイルに関することも聞き、パーソナライズを深化させていく。もちろん夏と冬では悩みも変わってくるので、パーソナライズ内容も変化する。

ところで、先述したようにパーソナライズに向いているのは、「知識はそれほどないが、自分に合った人」だ。とすると、フィードバックが上手くできないということはないのだろうか。

その解のひとつが、HOTARUのカメラを使った肌診断というテクノロジーの活用だ。フィードバックという定性データはユーザーが要望していることなのでもちろん重要なのだが、実際に今の状態はどうなんだというアクチュアルデータに基づいた処方もspartyでは重要視している。ユーザーは気づいていなかいが、カメラ分析によると実はシミができ始めているので対処したほうがいい、といった具合だ。

HOTARUの肌診断で取れるデータはシミ、シワ、クマ、キメの4つだが、今後項目を増やしていくかもしれない。肌診断のテクノロジーを提供しているパーフェクト社は中アリババが運営する天猫(Tmall)等、様々な場所にサービス提供しており、今後より多様なデータが取れるようになる可能性が高いからだ。

またデータの収集に関して深山氏は「あらゆるコミュニケーションからデータを取り扱う」と語る。

深山氏:
そもそもSpartyでは顧客体験を「革新」「ときめき」「カスタマーサービス」の3つから考えています。ことデータに関してはカスタマーサービスが大事になってきて、そこでは処方力の向上や商品ラインナップの向上、ソフトウェア価値に加えて、コミュニケーションも重要です。コールセンター、LINE@、処方箋カード、会報誌等、あらゆる接点がコミュニケーションで、データを収集し、活用しようとしています。

 

インフルエンサーモデルはパーソナライズと矛盾?

MEDULLAを先頭に成長をひた走るSpartyだが、2020年に入って、MEDULLAのセカンドラインとして「ME BY MEDULLA」を発売している。先述したようにMEDULLAは既に15万人の会員を抱え、頭皮・毛髪に関するヘアカルテデータを保有。このデータから多くのユーザーが抱える悩みに対して効果のある処方をした、言わば日本人の平均的な髪質のためのシャンプーが「ME BY MEDULLA」だ。現在基本的には店頭での販売を前提として発売されている。

またこれとは別に、アーティストの伊藤千晃氏、韓国のインフルエンサー강태리(カン・テリ)氏を起用したオリジナルモデルMEDULLA「SPECIAL HAIR CARE BOX」を発売している。これは彼女達専用の処方を施したMEDULLAを、一般向けにも販売するというものだ。2020年7月にはディズニーとコラボした「Disney SPECIAL HAIR CARE BOX」も発表している。

どれも平均的な日本人や特定の人物に合わせた処方をしたアイテムなので、これらの販売は、一見パーソナライズと矛盾するようにも思える。他方でパーソナライズというある意味で「小難しい」ことをやるよりは、憧れの芸能人やインフルエンサーと同じ処方をして、その人物に近づきたいという気持ちも理解できる。この点Spartyの狙いは何なのか。

まずセカンドラインについては、いわゆる2ステップマーケティングだという。先述したようにシャンプー等はリアルの購買が90%を占めているため、店頭販売は重要なチャネルだ。店頭でME BY MEDULLAという、一種のサンプル品を体験してもらい、気に入った場合はMEDULLAを購入してもらうというフローを想定している。

他方のオリジナルモデルは、もちろんマーケティング上の認知拡大という目的もあるだろうが、将来的な「在庫リスクなしに、誰でもパーソナライズアイテムを簡単に作って販売できる基盤を作る」ための布石でもあるという。

 

深山氏:
今は誰でも簡単にインターネットを使って情報発信ができて、オンラインショップの開設も簡単です。そしてこの先の時代は、誰でも簡単に製品が作れる時代が来るとSpartyは考えています。実際例えばsitateruは洋服を簡単につくれるようにしているし、海外ではOEM会社とのマッチングを通じて化粧品を作ることも簡単になってきています。Spartyは将来的に、誰でも簡単にシャンプーやスキンケアを作れる基盤を作り上げたいんです。

とはいえ「じゃあやろう」と言っていいスタートは切れない。そこで著名な方のオリジナルモデルをユースケースとして作っています。将来的にはインフルエンサーや一般の方がオリジナル商品を作るという世界を作っていきたいんです。

 

 

深山氏の語ることは、いわばパーソナライズのプラットフォームであり、これはマス・カスタマイゼーションやインダストリー5.0という言葉で語られていることの、シャンプーや化粧品への適用と考えていいだろう。

もちろんパーソナライズ製品を誰でもつくるというのは、簡単なことではない。これまでの大量生産を前提としたサプライチェーンではたちいかないケースも多分にあるだろう。実際、例えばスニーカーをパーソナライズする動きは大手企業を中心にみられているが、アディダスは基幹工場を閉鎖している。もちろんスニーカーとシャンプーでは勝手は違うものの、製品のパーソナライズは非常に難しいことが見て取れる。その点Spartyには、化粧品OEMであるサティス製薬が出資しており、連携しながら体制を整えているようだ。

 

深山氏:
もちろん他の商材への進出も考えています。ただSpartyが得意なのは「曖昧なものへの対処」です。例えばオーダーメイドには、スーツや家具といったものがありますが、これらは自分の欲しいものがある程度わかっているものです。他方で化粧品のような、悩みやソリューションが曖昧なものは、提案の仕方も変わってくる。そう考えると商材としては、ヘルスケアのような商材のほうがいいかもしれませんね。

 

あらゆる商品のパーソナライズ化という意味でSpartyは、2020年7月に新たな取組みを始めている。サブスクリプションビジネス支援サービスを提供するテモナ株式会社と共に、パーソナライズドD2Cソリューションの提供を開始したのだ。診断ソリューションを基盤にしたEC事業者向けのパーソナライズドD2Cソリューションを提供。システム提供をテモナが、コンセプト・デザイン・UX設計をSpartyが担当するという。これによりアイディアはあるがパーソナライズD2Cのノウハウがない事業者も、市場参入しやすくなる。

(image: Sparty)

 

Spartyが扱っているビューティ×パーソナライズという分野は、美容の民主化であろう。美容は時間とお金さえあれば、昔からパーソナライズできていた。それがデジタルテクノロジーを使うことで、誰でも恩恵を受けられるようになってきているのだ。

深山氏:
パーソナライズは既存の化粧品の在り方を根底から変革する可能性を秘めています。これまではチャネルごとに商品戦略を立てていましたが、パーソナライズだと消費者起点にならないといけません。パーソナライズすることで、自社で販路をもち価格統制もできてデータも全て取れることが、既存の化粧品メーカーと異なるポイントになってきます。ここから消費者にとっての化粧品のあり方を、変えていきたいですね。

 

パーソナライズを基軸に、シャンプーとスキンケアを展開するSparty。先に見据えるのは、パーソナライズが民主化される世界だ。デジタルテクノロジーを使ったトイレタリーや化粧品のパーソナライズは、大手からもスタートアップからも次々と登場しているものの、まだ業界を代表するような勝者はいないように思える。その点Spartyのインタビューからは、明確なOMOやマーケティング戦略を感じられた。

 

インタビューはpodcastでも配信しています

 

制作チーム

TEXT
ぺーたろー / 納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat 代表社員CEO
1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。 2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」、その他スタートアップイベントを運営。得意分野はファッション・ビューティ×テクノロジーをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライター、大手企業向けオープンイノベーション・コンサルティングも務める。
Twitter: @jumpei_notomi

PHOTO
森田大翔(TAISHO)
写真家/映像作家
【写真】 雑誌やWeb広告など、人物を中心に撮影。イベント撮影や企業様の採用写真(Wantedlyなど)も多く撮影。
【映像】 企業様を対象にしたドキュメンタリー映像やメイキング映像が多く、ドローンを使用した撮影も可能。(CM撮影など)
【受賞歴】 “The new generation digital photo contest 2013” 最優秀賞受賞

 

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