マンションなどの不動産は、間違いなく人生で一番高い買い物のひとつです。でも、消費者からするとその取引は不透明なことも多いようです。この現状を打開しようと気を吐くのが、ハウスマートが展開するアプリ「カウル」。5000もの変数から中古マンションの価格を推定し、不動産の購入に透明性をもたらしています。サービスの原点は子供の時の引っ越し体験。最終的に目指すのは不動産版の証券取引所。ハウスマート代表の針山さんに、インタビューしました。
購入者からみると、不動産取引は不透明
近年、首都圏を中心に日本全国でマンション需要が増え、その価格が上がっています。これは、マンションを立てられるような土地の減少や、オリンピック・パラリンピックの開催に伴う建築費用の増加、インバウンド需要の高まりによるホテル業界の参入などが原因のようです。新しい土地が少ないので、新築のマンションは駅から遠いなど、ちょっと不便なところにできることが多いのだとか。
他方で、最近は職住隣接の人気が高まったり、リユース物件への抵抗がなくなってきたりと、新しい物件よりも中古マンションのほうがいい、という需要も増えているそうです。中古マンションだと、リフォームしたとしても新築よりも2000万円ほど安くなることもあるそうで、それも魅力の一つです。
しかし従来の不動産業界の構図では、圧倒的に買い手の情報量が少ないのが現状です。今回紹介する株式会社Housmart (ハウスマート)が提供する「中古マンション購入サービス・カウル」は、中古マンション購入の世界に透明性を持ち込み、誰もがマンション購入に満足いくような世界を作るべく健闘しているスタートアップです。
圧倒的な情報量の理由は、他社物件も掲載されているから
カウルはアプリ上で、中古マンションを簡単に購入できるサービスです。アプリを開くと不動産ポータルのように中古マンションが並んでいますが、その特徴は顧客の希望に合う物件を、自社物件、他社物件の区別なく次々と提案してくれるというもの。
不動産を探す際は、不動産ポータルサイトを見るのが一般的です。これらの不動産ポータルサイトは、色々な不動産会社から依頼を受けて、その会社の物件を掲載。顧客が物件の問い合わせをすると、物件を掲載している不動産会社に顧客の個人情報が飛び、不動産会社から顧客に連絡が行く形になっていました。
どの会社も自社物件を売りたいので、顧客にとって一番良い物件ではなく、自社の物件をお勧めします。
一方カウルでは、自社物件、他社物件の区別なく、顧客にとって最適な物件をアプリ上で提案する仕組みを構築。マンションを購入する側の立場になれば、選択肢は多いほうが自分に合った物件を探せる確率は高まります。なのでカウルでは自社物件だけでなく、他社の物件も提案している、というわけです。
カウルの仕組みは、アプリ上で予算や間取り等々の希望条件を入力していくとオススメ物件をリコメンドしてくれ、推定金額まで教えてくれるというもの。
推定金額はマンションの購入に必要な資金だけでなく、購入後のランニングコストまで教えてくれるそう。住宅ローンだけでなく、税金や修繕積立金のようなものまで、ありとあらゆるコストを計算してくれるため、勢いで買ったけどおもったより生活が苦しい…!という事態を防止してくれるそうです。ちなみに、中古マンションは階数や向きで数百万円値段が変わってしまうことも珍しくないのだとか。
不動産会社といえば、一回問い合わせるとちょっと営業がしつこいようなイメージもありますし、紹介される物件はその会社や営業マンに依存していまうという問題も。何よりIT化が進んでいないので、スマホで済むはずのこともお店に行かなくては対応してもらえません。
カウルでは基本的にテレアポのような営業行為はせず、物件探しもカウルのアプリだけでなるべく済ませる仕組みになっています。忙しい人や、スマホやアプリを使った買い物のほうがいい、という方には圧倒的に便利な仕組みとなっています。
5000の変数からマンション価格を推定
ハウスマート代表の針山さん曰く、カウルの裏側では人工知能が活躍しているそう。
人工知能自体はもはやコモディティ化しています。重要なのはインプットデータの質・量や、アウトプットへのフィードバックです。ハウスマートには不動産出身者もたくさん在籍しており、業界の知識を存分に使って、まじめにこつこつ人工知能を鍛えてサービスのUXが上がるようにしています。
株式会社Housmart 代表取締役 針山 昌幸(Masayuki Hariyama)
一橋大学で経済学を学ぶ。大学卒業後、大手不動産会社で不動産仲介、用地の仕入、住宅の企画など幅広く担当。顧客の利益が無視された不動産業界の慣習や仕組みを変えたいと志す。
2011年、楽天株式会社に入社。大手企業に対し、最新のマーケティング・ビックデータ・インターネットビジネスのノウハウを元にコンサルティングを行う。
2014年9月株式会社Housmartを設立し、代表取締役社長に就任し、スマートフォンアプリ「カウル」の運営を行う。
著書「中古マンション本当にかしこい買い方・選び方」がAmazonランキング・ベストセラー1位(マンションカテゴリー)を獲得。Housmartの経営を執り行う傍ら、テレビや雑誌への出演など、マンション専門家としての活動も行う。
カウルでは間取り、日当たり、駅からの距離などを人工知能にインプットしてマンション価格を推定するわけですが、その変数はなんと5000種類。同じ駅からでも(筆者の地元の)横須賀での10分と、青山の10分では種類が異なるそうです。また、ディベロッパーや施行会社によってもマンションの値段に差がついてくるそうで、これらを積み重ねると5000種類もの変数になるそうです。
カウルのメインユーザは30代の方々で、結婚や子供が生まれたタイミングに、はじめてマンションを購入する方が多いとのこと。アプリで展開していることもあって、IT企業に勤務している方やコンサルタントなど、ITリテラシーが高めの方々が多いようです。マンション購入という高額な買い物なので、家でじっくり選ぶのかと思いきや、最近は通勤中やランチ休憩中にアプリで物件をみるユーザも多いそうです。
カウルでは売り手から手数料をもらわない
一般的な不動産仲介会社は、売り手と買い手の両方から手数料収入をいただいているケースが多いのだとか(両手仲介といって各約3%が上限)。しかしカウルでは、買い手からの手数料収入しかいただかないケースが多いそう。
詳細は省きますが、両手仲介では必ずしも依頼人(売り手か買い手のどちらか)の利益を取れない可能性があります。他方のカウルは、消費者が中古マンション選びに失敗しないために作られたサービス。なので、買い手からだけ手数料をいただき、そのかわりに買い手のことを最優先に考えるモデルとなっています。
しかしそれでは、利益が単純に半分になってしまわないのでしょうか。
カウルでは、お客様にマンションを直接案内すること以外のほとんどをテクノロジーで代替して、徹底的に人件費をカットしています。
一般的な不動産仲介会社では、人件費がコストのほとんどを占めています。しかしこの人件費のうち、実際にお客様に物件を案内しているのは全体の10%程度なのだとか。では他の時間に何をしているのかというと、チラシのポスティングや営業電話だそうです。
カウルでは、これらの行為はすべてアプリやオウンドメディアで代替。そうすると営業マンの人件費負担が軽くなるので、買い手からの手数料をいただくだけでも、全体としては利益が出る体質になる、という仕組みです。
不動産に興味をもったのは「飛び跳ねても怒られない家っていいな」と思ったから
針山さんがハウスマートを創業してカウルを運営する原体験は、幼少期のとき。
私の実家は本当にボロかったんです。飛んだり跳ねたりしたら下だけではなく、上の階からも怒られるほどです(笑)。 ところが、小学生のときに中古マンションを購入して引っ越したんですね。そうすると跳んでも跳ねても大丈夫なんです(笑)。そこから不動産に興味を持ち始めました。
不動産に興味をもった針山さんは、昔ながらの不動産会社に就職。しかし、自分が受けたくないと思う営業はするし、お客様を迷わせないために公開しない情報だってある。気合いと根性が優先されるこの業界は、ITがあれば変えられると思った針山さんは、楽天でのITスキル習得を経て、2014年にハウスマートを創業しました。
中古マンションに限らず、不動産の購入は人生で一番高い買い物です。それにもかかわらず、他の買い物では当たり前の口コミやレビューはないし、不動産会社のサービスの質だって高いわけではない。金額からすれば高級ホテルなみの待遇を受けたっておかしくないはずです。不動産業界をもっと良くしたいという思いから、ハウスマートを創業しました。
ハウスマートにジョインするメンバーの中には、中古マンションを購入するときに、いやな思いをしてしまった方もいるのだとか。業界に問題意識をもっていたり、負の側面を解消したいという思いに賛同するメンバーが集まっているようです。
メンバーに求めるのは「温泉力」
中古マンション業界に課題意識をもっているという、カウルのメンバー。その採用基準は「温泉力」だそう。
温泉に入るとポカポカして元気になりますよね。人も同じで、他人に元気を与えられるのがいい人材だと、ハウスマートでは考えています。特にベンチャーでは、この人と話していると楽しいな、と思っていただけることが大事ですから。
ベンチャー企業に限らずですが、昨今の採用市場で重視されるのはいわゆるコミュニケーション力。温泉力と似ているのかもしれませんが、「口下手でもいいんです。言っていることがわからなくても、他人を暖かくさせる人はいます。」とおっしゃっていたのが印象的でした。
カウルが目指すのは「不動産版証券取引所」
最後に、カウルの今後を伺いました。その答えは「不動産取引の証券取引所」とのこと。
例えば、楽天の株価はネットで調べれば誰でもすぐにわかりますし、インサイダー情報で利益を得てはいけません。株式市場では当たり前ですが、不動産取引ではそうはなっていません。不動産の適正金額はわからないし、買い手は不動産の情報を十分に開示されていないのです。人生で一番高い買い物である不動産でこの実情なのは、明らかに消費者の利便性を損ねています。カウルはこの現状を打開するサービスの第一歩となっており、ハウスマートはこれからも、この公明正大な課題に取り組んでいきます。
様々な課題を抱える中古マンション市場に、透明性とITを持ち込むことでユーザ体験を向上しようとするカウル。スタートアップが挑むには難しい課題かもしれませんが、巨大なマーケットなだけに、達成できたときの影響力は計り知れません。今後の不動産マーケットに是非、一石を投じていただきたいと思います!
インタビュー内容はpodcastでも配信しています
podcastでインタビュー内容を配信しています。テキストより情報が詰まっていますので、興味がわいた方は是非こちらも聞いてみて下さい。
納富 隼平(Notomi Jumpei)
合同会社pilot boat CEO
1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経て、トーマツベンチャーサポート株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。毎週開催ピッチイベントMorning Pitchをはじめ、300超のピッチ・ベンチャーイベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事する。現在もBtoCベンチャープレゼンイベント「sprout」、ベンチャーHow to紹介イベント「faces」を主催する。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル系BtoCサービス。「pilot boatのブログ」「pilot boat cast」を運営。